音を知らない鈴

布袋アオイ

#4 ねぇねぇ

「お母さん、学校の宿題でね

 名前の由来を調べろって」

「名前の由来?そんな宿題あるの?」

「うん、教えて?」

「鈴音、ごめんね。

 名前の由来を知らないの」

「…?」

「鈴音に話した事無かったね」

母親曰く、

私に名前を付けてくれたのは

父親のお父さんらしい。

だけど、名前を付けてくれた祖父は

私が小さい時に亡くなってしまった。

「じゃあ、私の名前の由来を誰も
 
 知らないの」

「そうなの。ごめんね」

宿題だから聞いたのに、

大きな真実を知ってしまった。

小学生の私にとっては

自分の頭だけで  

整理出来るような話では無かった。

その時心の何処かで劣等感を感じた。

言葉が出ず、 

ただ母親の話を聞く事しか

出来なかった。

「でも、お母さんは

 鈴音の名前大好きよ」

「お母さんは誰に名前を

 付けてもらったの?」

「ん?お母さんはお母さんの

 お父さんからだよ」

「どんな由来なの?」

母親には名付け親、親から直接聞いた

真実の由来があった。

何の偽りもない、本人達からの言葉。

羨ましかった。

私は名付け親がこの世におらず、

誰も知らない 

自分の名前にもう真実は無い。

どう足掻いたって、それは憶測。

「まぁでも名前の由来なんて

 大した事じゃ無いから

 気にしなくて良いんじゃない?」

意外とその言葉にはグサッときた。

由来を知っている人には、

名前の由来を知らない事なんて

大した事ではないらしい。

そんな事に突っかかってるほうが
 
おかしいのか。

結構幸せな事だと思うのに。

自分の存在に意味を持つのと

持たないのくらい違うと思うのに。

お母さんには一生分からないよ、

この辛さは。

言葉にはしなかったが、傷ついた。

でも母親の方が正常だということは

分かっていた。

きっと他の人も由来に

そこまで執着していないのだろう。

何だろう、このモヤモヤ…

何かは分からないから余計辛い。

辛さと悔しさがグルグルと

体内で渦巻いた。

この渦を私は何年も抱えてきた。

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