魔法学園

赤猪千兎

その背中を追いかけて①

あの日、レンは負けた。
完敗だったと自分でも確信している。次々と灯した火を水で消火していく、様々な角度から攻撃しかけともその猛撃を次々と躱し、反撃さえしてくる。
今思えば、シュウとの戦闘をトータルで見ると敗北率が高い。魔法の相性も関係しているだろうが、それだけではない。何か強いものがそこには感じた。
そんな良い好敵手ライバルであり、陰ながら兄貴と慕っていたシュウは、王都に、魔法学園に、この町から、レンの傍から行ってしまった。
そんなシュウに追いつくために、もう一度肩を並べて真のライバルと言えるようにレンは一人でひたすら修行に励み……
それから、もう二年がたった。

「行ってらっしゃい!レン」

「いつでも帰って来いよー」

「シュウにもよろしく伝えといて!」

レンの年齢は15歳、この国では成人として扱われる年となった。成人になれば、念願の魔法学園に、シュウのもとへ行ける。
そう思うと楽しみ過ぎて、夜も眠れなかった。

「あぁ、行ってくるよ!」

見送ってくれた町の皆に大きく手を振って、分かれの言葉を大声でかけた。
王都行きの馬車に乗り、ガタゴトと小刻みに揺れる振動に即され鼓動が高鳴っていく。
この馬車にはレンの他、同じく王都に目的がある者が複数乗っていた。
もうすぐで王都に、学園に、シュウに会える。
そんなことを考えていると、会話が聞こえてきた。

「おかあさん!今日もまほうつかいに会いに行けるの?」

「坊やは本当に魔法使いが好きだねー」

「うん!ぼくも大きくなったらまほうつかいになるの!そしておかあさんを守るんだぁ!」

その親子の会話は微笑ましくレンの他、馬車に乗っている者のほとんどがその光景に微笑んでいた。
予想外の出来事だった。急な地響きに馬車が揺れ、先ほどまで引っ張っていた二頭の馬は割れた地面に足が引っ掛かって動けない状態になっていた。
一体何が起こったのか。馬車から顔を出し辺りを見渡す乗客たちが見たのは、信じられない光景を目の当たりにした。
地面から体を半分ほど出してもなおその巨体は明らかな、獰猛な大蛇。その身から放たれるのは禍々しい魔力だった。
この世界には、『魔物』が存在する。
魔物とは、何らかの理由で魔力を帯びたモンスターの事で、その凶暴さに誰もが怯えた。そして、今もなお……

「に、逃げろぉ!!」

「助けてくれぇーー」

乗客の誰もが馬車の外へ駆け出し、逃げていくなか。
一人の女性は逃げ遅れ、蛇に睨まれた蛙のように身動き一つとれないでいた。
そこへ一人の少年が駆け寄る。

「おかあさんに触るなぁ!」

その二人は先ほど車内で微笑ましい会話をかわしていた親子だった。
少年は魔物の前に母親を庇うように立つその雄姿溢れる姿に母親は感動しながらも、その恐怖が収まることは無かった。もちろん少年も泣きぐすりながら魔物を罵倒している。
きっと、この親子は間もなく、大蛇の餌食になるのだ。
離れた所から状況を見ていた誰もがそう思った。それが自然の摂理、あらがえぬ運命、仕方ないという言葉の魔力。
胸温まる親子の絆に大蛇は慈悲もなく、大きな口を開けて襲い掛かった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品