病と恋愛事情

遠藤良二

第37話 執筆と母の作る夕食

先程、兄の伊勢川亮から電話がきた。彼女を連れて一緒に俺に会いに来るという。

兄貴は東京に住んでいる。彼女はどこだろう? わからない。そもそも、兄貴に彼女がいたとは知らなかった。母も知らないのだろうか。

彼女を連れて来るということは、もしかして婚約でもしたのかな。来ればわかるか。

電話では詳しいことは訊かなかった。話したいなら向こうから話すだろう。

母とも最近会っていない。元気にしてるとは思うけれど。

兄貴は彼女を母に会わせるのだろうか。興味深い。電話では、俺の話はしなかった。来た時にでも、麻沙美とさくらちゃんが会っても良いと言えば会ってもらうことにしよう。もちろん、兄貴とその彼女も会いたいと言えばだが。

気になることがある。彼女の名前と年齢。麻沙美より若い女だろうか。まあ、それならそれで構わないが。まさか20代とかじゃないだろうな、俺の想像は膨らむ。

来るのは12月上旬だと言っていた。そのために休みを合わせなければならない。はっきり来る日を決めてもらわないと。それと12月には麻沙美の元旦那の法要があるのでそれに重ならないようにしないと。会わないなら重なってもいいけれど。




今は夜10時。スマホの時計を見るとそう表示されていた。今日は月曜日。明日は休みだ。

俺はノートパソコンの前に座り電源を入れた。このパソコンは2台目。去年、購入したばかり。主に小説を書くために使っている。たまに卑猥な画像や動画も観る。麻沙美には今のところ、エッチな動画が入っているということはバレていない。もちろん、さくらちゃんにも。

特に話すことはないけれど、母の様子を窺うために電話してみるか。執筆はその後にしよう。俺はスマホを手に取り母の携帯に電話をかけた。数回呼び出し音が鳴り、繋がった。
「もしもし、母さん」
『晃、どうしたの。連絡くれるなんて珍しいじゃない。しかも、こんな時間に』
「迷惑だったか?」
『そんなことはないよ』
「元気にしてるか気になって電話したんだ」
『あら! 心配してくれたの。珍しいこともあるもんだね』
母は声に出して笑っている。やはり、元気そうだし嬉しそうだ。久しぶりに俺の声を聞いたからだろう。

母にたまにご飯食べにおいで、と言われたので明日実家に行くことにした。

話も終わり電話を切った後、俺は執筆を始めた。最近、筆がよく進む。毎日書いている。少しずつだけれど。23時過ぎまでで約千字書いた。今のところ合計7万5千字くらい。目標は10万字。まだ先は長い。

そろそろ服薬して寝ようかな、そう思い、立ち上がり奥の部屋にかかっている服薬カレンダーから睡眠薬を取り台所に行き、水をコップに注いでたくさんの水で飲みこんだ。そのまま布団に入り目をつむった。

約1時間が経過した。眠れない……。眠気がこないから眠れないのも当然か。明日は休みだからゆっくりできるからいいけど。

夕方には実家に行って夕食を食べさせてもらう予定。メニューは何だろう。お袋の味で好きなのがカレーライスと煮込みハンバーグ。何をご馳走してくれるかは任せるけど。

時間が経過していき眠気がやってきた。



目が覚めたのは午前11時30分頃。だいぶ寝た。起きたらすぐにお腹が鳴った。
(腹減った)
そう思ったのでシンクの下に保存してあるインスタントラーメンを食べることにした。さすがにこれだけだと足りないのでライスも食べたい。なのでシンクの左側にある炊飯器の蓋を開けた。だが、残念ながらご飯はかなり時間が経っているせいで硬くなっている。
「あー……。もったいない」
独り言を呟きながら釜を取り出し、ご飯をふやかすために水を入れた。

ご飯がないと足りないな。仕方ないからインスタントラーメンを2袋食べることにした。こんなところを母に見られたら、なにこそ言われるか分からない。だから俺の家には来てほしくない。掃除くらい自分で出来るから。醤油味のを5パック入りをこのまえスーパーで買っておいてよかった。俺は醤油味と、味噌味が好き。ラーメン屋に行ってもこのどちらかしか食べない。しお味は、臭みがあるから苦手だ。とんこつは匂いはあるけど、いやではない。だから、とんこつラーメンもたまに食べる。いまも食べに行きたいけれど、給料日前だから今日は我慢しよう。しかたない。

昼飯は食べた。でも、もの足りない。俺が店長とはいえ、しょせんコンビニだ。たいした給料ではない。だから、特別いい生活はしていない。まるで貧乏人のようだ。病院代も月に5千円くらいかかる。受け入れないといけない、俺に病気があるっていうことを。いまだに幻聴がたまに聞こえるから病人なのだろう。麻沙美はそうはみえないけど、と言っていた。うれしい。さすが俺の彼女。俺の1番の味方は麻沙美だ。

午後からまた執筆しよう。取材もしたいと考えている。風景を描写するために近くの河川敷まで行くか。そう思い、立ち上がり黒いロングコートを羽織りメモするためのノートとボールペンを持ち、リュックにスマホと財布とタバコを入れて、家と車の鍵も持ち外に出た。

12月に入り気温も下がってきて寒さも増した。太陽も雲の間から出たり入ったりしている。なので、日差しは弱い。

車を空いてるスペースに停め、俺は空を見上げた。思いつくままにノートに感じたことを書いた。スマホで空模様の写真も撮った。それから河川敷を少し歩き、枯れかかっている植物や川辺、川の向こう岸の山も描写して写真に納めた。写真に収める理由は文章を考え直したいときに見るためのもの。

寒い時期でも年配の男性や老夫婦が散歩をしている姿を見かける。老夫婦を見て俺は麻沙美を思い出した。連れてこようと思ったけれど仕事か、と思い直した。

寒すぎるので約30分で車の中にもどった。10カ所ほど取材しただろうか。写真もそれぐらい撮った。情けないかもしれないが限界だ、この寒さは。俺は、いつもぬくぬくとしたところにいるせいか、寒さにはよわい。

自宅に戻ったのは14時頃だった。メモったノートをリュックから取り出し、再度見返した。スマホで撮った写真を見返しながら、文章と合っているか確認する。さっきは寒い中だったのでうまく言葉が浮かばなかったから。

家のなかも寒い。なのでストーブをたいた。こんなに早く返って来るならつけっぱなしで行けばよかった。後悔先に立たず、とはこのことだ。

ふたたびパソコンを起動した。俺はノートを見ながら打ち込んでいく。寒い思いはしたけれど、取材してよかった。執筆のペースは上がっていく。面白い!

集中して2時間は書いただろうか。時計をほとんど見ずに書き進めた結果、約2千文字書いた。パソコンの画面の右下のデジタル時計を見ると16:29と表示されていた。

「ふぅー」
と息を吐いた。若干疲れた。たのしいことをしていても疲れは伴うな、と感じた。そして、ふと思い出したことがある。実家に行ってご飯をごちそうになることだ。今日は夕食を作らなくていいから楽だ。そう思うと気が楽になった。母は確か65か66になる。年金をもらいながらいまでも働いている。地元の洋服屋で。体の丈夫な母だと思っている。父は当時51歳で肺がんで亡くなった。あれから約15年が経過するはずだ。タバコが好きな父だったから1箱買って実家に行ったら仏壇に供えて拝もう。

さて、そろそろ行くか、と思い小説を保存しパソコンの電源を切った。そろそろスタッドレスタイヤに交換しないとな。雪はまだ降っていないけれど、時期的にいつ降ってもおかしくはない。そう思いながら玄関の戸に鍵をかけ、マイカーに乗り実家に向かって発車した。夕陽がオレンジ色で綺麗だ。これも写真に撮って保存して執筆のために使おう。車を左側に寄せて停めてハザードをたく。助手席に置いてあるスマホで2、3枚写真を撮った。

母はいったい何を作って食べさせてくれるんだろう。母の作る夕食が楽しみだと感じたのは久しぶりだ。





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