言いたいことが言えない

おかゆ

言わぬが花





私は気の弱い女でございます。

言いたいことが言えません。思ってることを中々、言葉にできません。
でも、何も考えてないわけではないのです。むしろ、頭で考えて考えて、
言葉と出来事と感情とがぐるぐると色々たくさん混ざってしまうから、すぐに言葉として召喚出来ないのです。
相手の言動の矛盾点もちゃんと気付いているのです。


ただ、人は何も喋らないのなら意見がないのだと決めつけます。
たちが悪いやつは自分が言い負かしたんだと良い気になって、
自分の力を意識した自惚れの顔をします。
うるさいだけの空砲を撃ってるに過ぎないのに、浅はか極まりないと思います。



私の家は、4人家族でございます。
母と父と、私と弟です。

母と父は仲良くありません。あまり喋りません。子供の頃、
父は母が寝てる間に私と弟を連れて某テーマパークへ
連れて行ったことがありました。

父はそもそも、人混みが嫌いです。
家で子供の相手などしないうえに、家事もしません。
結局、大した乗り物にも乗れずに時間だけが過ぎて、疲れて家へ帰ると
母は泣いておりました。みんな心はバラバラでした。
気が強くて口も達者で態度も体型もでかい父親も、
何も言わないけど言いたいことも思ってることもたくさんある力のない私も、
笑顔のない母親も、まだ幼い弟も。

それから間もなくして父と母は離婚しました。当然のことでしょう。

大人になった私は、言いたいことが言えるようになりました。
自分の思いや考えをちゃんと口に出来るようになりました。

ですが、人間が十人十色であること。人には百も千も万も事情があって、
歴史があること。

最近、私はまた言いたいことが言えなくなりました。
いえ、言わなくなりました。

わかっていると思っていたことは、すべて幻だったからです。

相手のことなど、わかりやしないのです。
下手に自分で勝手な解釈を挟んで、偏見や自分の好みなんかをデコレーションして
相手へ投げつける。これは、そうだ、うるさいだけの空砲。

なにも的など当ててはいない。検討はずれの、マトハズレ。
私が昔、忌み嫌って軽蔑したもの。



私は気の強い女です。
でも、言いたいことは言いません。



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