転生して帰って来た俺は 異世界で得た力を使って復讐する

カイガ

21-2


 予想外の命令にリリナはビックリした顔を大女神に向ける。大女神の顔は真剣で、本気で今の命令を下したのだと確信した。

 「良いのですか...?異なる次元へ転移するのは禁忌だと以前おっしゃってましたが...」
 「禁忌ではありますが、事態は深刻です。これ以上悪魔の好きにさせるとこの次元だけじゃなく別の次元までもが脅威に晒されることになるでしょう。それを防ぐ為に、私たちが禁忌を犯すのは止むに得ません...いえ、今回に限っては特例として認めてもらいます。大女神の名において私が許可させます。
 この次元にいる者が犯したことは、この次元にいる者がどうにかすべきだと私は考えてますから」


 大女神は迷いなくそう答えて女神たちを解散させる。後日彼女は天界の中心部へ赴き、この世界の賢者たちに事情を説明して特例を認めることを持ちかける。


 「許可はおりました。ただし転移するのは女神一名のみ。今も悪魔族との争いは続いている最中ですから人員を割くことはできません」

 ただ...と大女神は深刻な顔を浮かべて続きを話す。

 「次元の転移は失敗して消滅あるいは次元の間に落ちて閉じ込められる可能性が非常に高い行為です。その危険性が原因で転移が禁忌にされているとされるくらいに。賢者の方々は転移を許可する代わりにある条件を出しました。
 一つは先程言った一人だけの転移にすること。そしてもう一つは...賢者の方々が安全に転移する方法があるとのことで、その術式をすぐに完成するからそれまで待って欲しいとのことです」
 「そんな方法が!?危険が大きいから禁忌にされていたのでは?」
 「恐らく今回のような緊急事態が過去にあって、それを反省してすぐに行動できるように大昔から安全にすぐに転移できる術式を、天界の上層部が創っていたのでしょう。私も少し前にそんな方法があったことを知りました。まだまだ私も未熟でしたね」

 少し自嘲する大女神に、リリナは片膝をついて頭を下げる。

 「いえ。それよりも大女神様、ありがとうございます!私を真っ先にご指名して下さって。女神になってまだ浅い私にこのような重要な任務を任せていただいて...!」

 感謝の意を述べるリリナに大女神は優しく微笑んでリリナの肩に手を置く。

 「あなたの事情・気持ち、この私にも十分理解しているつもりです。それに私はあなたにやって欲しいと思っているのです。想い人に会う為、説得する為。彼の心を救うには、彼が知る者でなければなりません。
 リリナさん、あなた以外に相応しい者はいません。杉山友聖を頼みます...!」
 「っ!必ず...!!」

 大女神の優しい言葉にリリナは感涙しながらも力強く成功を誓った。



 それから数か月間。天界では賢者たちが転移の術式を完成すべく奔走。そんな彼らを狙う悪魔族をリリナ含む女神族たちが応戦。皆リリナに負担をかけまいと奮起して悪魔たちと戦う。そんな仲間たちにリリナは感謝した。


 「本当は私たちも行くべきなんですが、悪魔たちをここで食い止めるのが精一杯。リリナさん、頼みます!!」
 「いえ、友聖を止める機会を与えていただいただけで十分です。それにこれは私がすべきなんです。私のせいもあって友聖があんなになってしまったから。全てにけじめをつけなければ...!」


 そしてついに転移の術式が完成され、リリナは“転移の間”に立つ。側には大女神と賢者たちが見守っている。


 「“あの世”から“この世”へ転移をする場合、あっちの世界の転移先だけではなくその時代をも設定することができることになってる。今サタンがいる時代は、今ではなく過去にいることから、今回あなたが行く先は今から過去の時代だ。その際に気をつけねばならないのは...その時代の自分と会ってはならないこと。もし会ってしまうと時空が歪み、最悪その世界が滅ぶ恐れがある。くれぐれも出会わぬよう細心の注意を。
 そして、是非サタンを討ってくれ」

 転移の注意と激励を告げる賢者たちに感謝の礼を述べて頭を下げて、最後に大女神と向き合う。

 「人間界を頼みます。杉山友聖がこれ以上罪を犯さないように...そしてサタンが何かする前に」
 「はいっ!あの、大女神様にお聞きしたいことが...」
 「?何でしょうか...?」
 「大女神様の名前は、何というのでしょうか?」


 リリナの質問に大女神はキョトンとした顔をする。そして可笑しそうに笑い、どこか自嘲した様子で答えてくれた。



 「私の名はプルメリ...。かつて想い人に殺されて女神に生まれ変わった哀れな女です――」



 そして、術は発動して......リリナを別の次元へ飛ばした―――


 (リリナさん。あなたは私と同じ道を歩まないで下さいね――)





 そして 現在―――――



 状況を整理しよう。
 俺は今日、高校の時に俺を虐げやがった男...上方逸樹をぶち殺すべく、奴が通うこの高校にやって来た。奴が登校してきたらすぐにこの屋上へ引き上げて...ここで残酷にぶち殺して、復讐を成す。そのつもりだった。
 だが行動を起こそうとしたその時、脳内で俺の名を呼んだ感じがしたかと思うと空から不自然な光が差して天を晴らした。その光から一人の女が現れて俺のところへ降り立った。
 この時点で非現実的な現象だが、その中でも俺が驚愕したのはその女が誰なのかというわけなのだが...。

 リリナ王女―――。
 二度目の人生で復讐してもう存在しないはずの人間が、漫画やアニメとかで出る女神の格好をした姿をしていて、俺の凶行を止めてやるとほざいたのだ。

 いやいや.........は?マジでは??

 幽霊やない、実体が確かにある。人間でもない、さっき表現した通り女神のような何か超越した存在だ。
 というより目の前にいる女はほんまにリリナなんか?俺は咄嗟に検索魔術を発動して目の前の女の正体を暴く。そしてすぐに結果が出る。


 「お前は.........リリナ。異世界にいた王女。お前は俺に殺されて............女神に転生、した...!?」 

 転生という言葉でハッとした。そして理解もできた...!

 「お前......俺と同じ転生者やな?それも人間を超えた存在に転生を...っ」

 俺の問いにリリナは肯定の意を示す。
 
 「友聖が思っている通りよ。私は死んで、女神族という存在に転生した」
 
 次いで俺の顔をしっかり見て懐かしむ感じの表情を向ける。

 「久ぶりね友聖...。こんな形で再会するとは思ってなかったよね...?あなたにとっては十数年ぶりの再会になるのかな。それに今のあなたの姿は、あなたが勇者だった頃と同じで懐かしくて嬉し――」


 俺は話につき合う気はなかった。即座に剣を錬成してリリナに斬りかかる。

 「――っ。躊躇、無いね...」

 ...が、紙一重躱される。しかもだいぶ余裕もった様子で。俺の今の動きを見切っている感じだった。

 「お前も、転生したことで力を手にしたクチか。生前のお前なら今ので真っ二つになってたはずやけど」
 「......うん。天界っていう世界で色々戦闘教育を受けてきたから。それより、今のって.........本気だったよね」
 「当たり前や。お前が転生してそういう存在になったんは驚いたわ。けどそんんだけや。お前とはとっくの昔に決別したやろ?もう話すことも...ましてや旧交を温めることもないわ、クソ女がっっ!!」

 そう罵声を浴びせて再度容赦の無い、本気の一太刀を放つ。狙いは首、剣速は音速に迫る。その首を刎ね落とす―――
 



 「クソ女って酷いじゃない。リリナって呼んでよ」
 「が.........っ!?!?」


 気が付くと俺は壁にめり込んでいた。何をされたのかも分からず吹っ飛ばされて、給水塔の真下の壁に激突させられた。
 
 (今、俺は何されたんや...!?剣が首と捉えた思った瞬間、吹っ飛んで...。あいつ俺に触れてもなかったよな?何やあの力は...!?)

 内心驚きと動揺をにじませながらも顔には出さず、衝撃で吐いたせいで口についていた唾液を拭って、剣を構えて警戒する。そんな俺をリリナはどこか悲しそうな顔を浮かべながら、静かな声音で俺に話しかける。



 「友聖......話をしましょう」




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