彼氏が赤ちゃんになっちゃった中学生の育児日記

小鳥 薊

優しいオムツ交換

――カチャッ。

部屋のドアが開く音がしたような気もするが、閉じこもった布団の中では、遠くなった一平くんの泣き声に掻き消されてわからない。

(もう、何もかもわからないよ……。)


そのときだった。一平くんの泣き声が止んだ。

(え? なんで?)

私はここでようやく初めて布団から顔を出して気付いた。

「ママ。」
やっぱり気のせいではなかった。ママが、一平くんを抱きながら笑顔であやしてくれている。
「どうしたの?」

「……ママ……。うう。」
私は、涙を堪え切れず、それからわんわんと泣いた。さっきまでとは立場が逆になり、今度はママの腕の中で一平くんが、怪訝そうに私のことを見ている。

「美波、どうしたの?」
「ごめんな……さい。」
「なんで謝るの?」
「一平くんのこと、泣かせっぱなしで……夜中なのに……うるさくして。私は、あやすこともできなくて。ごめんなさい。」
私が泣きじゃくりながら言うと、ママは一平くんを布団の上に寝かせて私へ言った。
「赤ちゃんは泣くもんよ。それが仕事なんだから、うるさいことなんてないのよ。」

そしてママは、私の代わりに一平くんのオムツを替えてくれた。
「美波はオムツ交換、面倒くさいって思う?」

「……うん。私、器用な方だと思うけど、さすがに何回も何回もやっていると、これが永遠に続くのかと思うと、もう嫌になってる。」
「でも、ね。永遠になんて続かないのよ。あと二、三年もしたらオムツも卒業するし、ミルクなんて早い子はあと数ヶ月よ。子どもの成長ってあっという間なの。」
「そうかもしれない……けど。」
「今は、そうは思えないかもしれないけれど、この一瞬にどれだけ自分がこの子に手をかけられたかが、後々に大切な思い出になるのだから。それだけは覚えておいてほしいな。」
「そうなの?」
「そうよ、今が一番。辛いときは、おまじないのように、そうやって頭の中で唱えなさい。今が一番、今が一番ってね。」

ママは、愛おしい存在に触れるように、一平くんの太腿を撫で、お尻をきれいに拭いてオムツを取り替えてくれた。

手をかけられるのは今だけ。
今が一番、可愛くて愛おしくて、大切なとき――。

ママは私にとってのお母さん。お母さんの存在はやっぱり偉大だ。

私は、何も解決はしていないんだけど、それでもママの言葉に救われて、心のもやもやが昇華していくような感じがして、数十分ごと、トータルでほんの数時間でも穏やかに眠ることができたのだった。

なんだか、すごく久しぶりのような気がした。

一平くんが赤ちゃんになってそんなに経ってはいないんだけどね。

そうそう、一平くんを元に戻す方法と、そろそろ向き合わなくちゃならない。

明日は……明日からはきっと……明日こそは……。

          

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