幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

最奥の部屋

「……あのぅ、みのりんさん」

その部屋に足を踏み入れて、たっぷり十秒ほど固まっていたラックが、ようやく口を開く。

「ん? どうしたの、ラックさん」

同じく、じっくりと部屋を観察していた、みのりんが応じる。

しかし、その視線は依然として部屋の内装に釘付けだ。

テレビ等で見た事はあっても、生で見る機会は一生ないだろうと思っていたので無理もないが。(といっても、あくまでVRであって現実ではない)

「ここって、ダンジョンの最下層で、その一番、奥にある部屋ですよね?」

「うん、そうだね。他の部屋に繋がってそうな扉も見当たらないし、多分ここが終点で間違いないと思う」

「なら……何で僕たちの目の前にオシャレなBARが広がってるんでしょうか?」

そう、数々の困難を乗り越えて、みのりん達が辿り着いたのは、レトロな雰囲気が漂う大人のBARだった。

しかし、ここにいるメンバーは未成年のみなので、客観的に見れば、ひどく場違いに映るだろう。

まぁ、こんな場所にBARを構える方が、よほど場違いなのだが。

「おいおい、ラック。そんなことも分かんねぇのか? 滅多に人が近寄らねぇ、こんな場所に店を構えるっていったら、答えは一つしかねぇじゃねぇか。つまりはアジト、隠れ家、秘密基地だ! さすが伝説の商人なんて呼ばれるだけあって、男のロマンを良く分かってるぜ!」

拳を握って男のロマンを熱く語るカナ(美少女)。

「は、はぁ……。なるほど、そういうものでしょうか。でも、ロマンと商人って、あまり接点が無いんじゃあ……」

「なに言ってんだ、ラック。ロマンを叶えるには、いっぱい金が掛かるんだぞ。見ろよ、この部屋だって、そうだろ?」

カナが部屋のあちこちを順番に指し示す。

そこに置かれている調度品は、どれもあるじこだわりを感じさせる一級品ばかりだ。

高級酒がズラリと並んだ棚に、フカフカの革張りソファー、美しい光沢を放つ木製の机。

加えて、ビリヤードやダーツ、レコード、絵画、小説などの娯楽品も用意されているようだ。

そして、それらを優しく照らすのは、淡い暖色の光を放つ間接照明。

素人目にも大金を費やしているのが、一目で分かるだろう。

ましてや商人のラックやベイドなら尚更だ。

「確かに、ここの主は良い趣味をしていたらしいね。ただ高い物を揃えているだけではない。調度品の色や形、材質は当然として、産地や職人にも拘りが感じられる。これだけの品を集められたのは伝説の商人ならでは、と言った所かな?」

ベイドにしては珍しい絶賛の言葉に、みのりんが目を丸くする。

「おぉー、ベイドさんが素直に人を褒めるなんて相当だね」

「君は僕のことを何だと思ってるんだ」

「まぁまぁ。それはそうと、そんな拘りの空間に明らかに異質なものがある訳だけど……」

そう言って、みのりんが指差したのは、透明な水晶を備えた円柱形の台座だった。

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