幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

野生児

「カナさぁぁぁんッ!」

悲鳴と怒号が合わさったような絶叫を上げて、ラックが走る。

その足が向かう先は当然、カナの落下予測地点だ。

落ちてくるカナをなんとか受け止めようと全力で駆け、最後の数歩分を詰めるために頭から飛び込む。

――しかし、

「フンッ!」

「えっ、ちょ、へぶしっ!?」

カナのピンチを颯爽と救うはずだった英雄ラックは、間抜けな声を漏らしてロボットの足に突っ込んだ。

その際、顔面を強打してしまったため、鼻の頭が真っ赤に腫れている。

まるで童話に出てくるトナカイのようだ。

……ちなみに、現実のトナカイの鼻は、そこまで赤くない。

せいぜいピンク色である。

それはそうと、今回のラックの失態は、主にカナが原因だ。

カナが、あのまま何の抵抗もなく落ちていれば、ラックがキチンと受け止めていたはずだった。

にも拘わらず、カナが気合と根性を振り絞り、最後の意地でロボットの腰にしがみついてしまったため、ラックの狙いが外れたという訳だ。

しかも、カナは大きく口を開き、顎の力だけで、ロボットにぶら下がっている。

なので、“しがみつく”というよりは、“かじりつく”と言った方が正しいか。

どうやら先程の放電で麻痺してしまい、手足が動かせなくなっているらしい。

そして、唯一、動かせるのが口だったようだ。

だからといって普通は噛み付いたりしないだろうが。

まぁ、カナに“普通”を求める方が間違っているのかもしれない。

「ちょっと、カナさん! 何してるんですか!? ちゃんとキャッチしますから大人しく降りてきて下さい!」

「ううへぇ! おえはわおこほはほっほへ!(うるせぇ! 俺様の事は放っとけ!)」

「何を言ってるか分かりません!」

「ふはー!(うがー!)」

なんとも馬鹿馬鹿しい、やり取りだが、こんな会話を交わしている間も、ラックに向かってレーザーが飛び交い、カナには雷撃が浴びせられている。

それでも何とか凌げているのは、カナに気を取られてレーザーの照準が杜撰ずさんになっている事と、カナの称号のお陰だ。

―――――――――――――――――――

【野生児】

効果:敵に噛みつくことで、
   HPとMPを吸収できる。
   吸収量は1秒ごとに最大値の1%。

獲得条件:魔物系食材を調理せずに、
     そのまま食べる。
     ×10種類。

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かつてラックの夢について聞いていた時に、カナは魔物の肉を生で食べていた。

それによって得た称号だが、発動条件が限定されているため、これまで使う機会が無かったのだ。

しかし、ここに来て偶然、活躍の場に恵まれたのである。

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