幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

ベイドとの交渉

「という訳で、偵察に来ました!」

「何が、という訳で、なんだ!?」

ラックの夢と劣等感について、興味深い話を聞いた翌日。

みのりんは、商会ギルドにいたベイドを突撃した。

その理由は非常に単純だ。

ラックが屈折した思いを抱えている相手——すなわちベイド。

そのベイドが、どんな人物なのか知りたかったのである。

そして、動機は興味本位というだけでもなく、ラックを成長させるためには、知っておくべき情報だと考えたからだ。

ちなみに、カナはまだ宿屋で爆睡中の模様。

「まぁまぁ。それより、ベイドさんに聞きたいことがあるんだけど」

「帰りたまえ! 僕は忙しいんだ!」

「そっか! じゃあ急いで話を聞かないとね! 取り敢えず、立ち話もアレだし、あっちのテーブルに行こっか!」

「いや、まず帰れという僕の言葉を聞け! あっ、こら、引っ張るなぁぁぁ!」

そして、なんだかんだと文句を言いつつ、最終的には席に着いてくれるベイド。

もっとも、その表情は不快そうに歪んでいて、円滑な会話は望めそうにないが。

「じゃあ、忙しいって話だから、さっそく本題に入るけど、ベイドさんって、どんな人?」

「質問がザックリし過ぎだろう! もう少し考えを纏めてから来たまえ!」

「あー、それもそだね。んじゃ、ラックさんのことは、どう思ってる?」

「…………ふん、僕に答える義理はないな」

特に答えたくない質問なのか、ベイドの不機嫌な顔が更に歪められる。

「と言いつつ、無理に振り切ろうとはしないんだね?」

「どうせ、僕が逃げたら、どこまでも追いかけてくるつもりだろう? そんなのは商談の邪魔だ」

「これから商談なの?」

「……いや、まだ、かなり時間はあるが。君に付き合う必要性も感じないな」

懐からアンティークな懐中時計を取り出して、きちんと時間を確認しつつ、質問に答えるベイド。

嫌そうな態度の割には律儀な対応である。

「義理……必要性……。つまり、話す切っ掛けがあれば良いんだよね?」

「……まぁ、そうだね。僕に充分なメリットでも提示できるなら考えても良い」

一拍、悩んでから、ベイドは、そう回答した。

嫌いな相手でも邪険にしないのは、利益を追及する商人のさがだろうか。

「私は今、レベル20なんだけど、ベイドさんはいくつ?」

「……答える義理はない」

ここでも、ベイドは頑なに個人情報の開示を拒む。

まぁ、確かに答えた所で彼にメリットがあるわけでもないのだが。

「えー、これもダメなの? ……あっ、もしかして私よりも低いから言いたくないとか? だったらゴメンね?」

「……フンッ、そんな挑発には乗らない。話は、それで終わりかな? だったら、もう少し頭を捻って出直してくるんだね」

そう言って、席を立ち、この場を去ろうとするベイド。

その動きを——、

「ん~、まぁ、いっか。前に剣士の上位職の騎士って言ってたよね。剣士が一次職で、その上だから二次職。二次職への転職はレベルが30以上、必要だから、ベイドさんは、それより高い」

「……だったら?」

「勝負しようよ」

みのりんの言葉が縫い止めた。

「……ほう? 君の戦闘職は?」

「冒険者」

「さっき、レベルは20と言ったね? それで、僕に勝つと?」

「うん。私が勝ったら、私の質問に正直に答えて」

「僕が勝ったら?」

「ベイドさんの言うことを一つだけ何でも聞いてあげる」

みのりんの迷いなき即答に、ベイドが苦い顔をする。

「……女の子が軽率なことを言うものじゃない」

「大丈夫。相手は選んでるから。あなたは意地が悪いけど、本当に悪いことは出来ないと思う」

射抜くように真っ直ぐな、みのりんの視線を受けて、ベイドが動揺したように目を泳がせる。

「……フンッ。まぁ、確かに。僕の様に高貴な人間がレディに非道な事を願う筈ないね。いいだろう。僕が勝ったら二度と付きまとわないでくれ」

「そんなんで良いの?」 

「高貴な人間は過剰な欲を持たないのさ」

わざとらしく大袈裟に肩を竦めて見せるベイド。

芝居がかった、その仕草から察するに、どうやら調子を取り戻したらしい。

「う~ん、それは、どうだろう。まっ、いいや。勝負は受けてくれるんだよね?」

「ああ。日時や場所、具体的な勝負の方法は?」

「うーん、この後は予定があるみたいだし、明日は?」

ベイドは胸元のポケットからメモ帳を取り出し、スケジュールを確認している様子だ。

そして、すぐに目を通し終わり、口を開く。

「午前なら空いている」

「じゃあ朝9時、闘技場に。デュエルの一撃決着モードで良い?」

「構わない」

「そっか。今日はありがとう」

みのりんから、お礼を言われたのが意外だったのか、面食らったように呆けるベイド。

その後、すぐ我に返って、仏頂面に戻ったが、取り繕った感は否めない。

「……フンッ。用が済んだなら、さっさと帰りたまえ」

「あっ、最後に一つだけ。ベイドさんって、もしかしてツンデレ?」

「……なんだ、それは?」

「ううん、何でもない。それじゃ、また明日ね~」

困惑するベイドを他所よそに、みのりんは、あっさりと立ち上がり、踵を返す。

最後の最後まで、マイペースにベイドを翻弄し、みのりんは悠々と商会ギルドを後にしたのだった。

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