幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)
◯◯王に、俺様はなる!
「うぅ……眠い」
「いや、俺様が寝てから、一人で何してたんだ? ただでさえ明け方まで騒いでたのによ」
二人が街の宿屋で、お泊まり会を決行した翌朝。
みのりんは宿屋の一階にある食堂で、襲い来る睡魔と戦っていた。
テーブルには目玉焼きを乗せたトースト、数種類の野菜で作られたサラダ、黄金色のコーンスープが並び、カナが、それらを次々と平らげている。
みのりんは、食事よりも、コーヒーを流し込む作業で手一杯だが。
「いやぁ、色々とね……。それより、今日は何をしよっか?」
二回ほど注ぎ足したコーヒーを飲み終え、ようやく眠気が覚めてきた所で、みのりんが予定の話を振る。
しかし、カナは話の内容よりも、みのりんの顔色を気にしている様子だ。
「どうせなら一回、ログアウトして寝てきた方がいいんじゃね? ゲームの中で寝るより、眠気も取れるだろ?」
「でも、今ログアウトしても、外も朝だしな~。まっ、1日くらい寝てなくても大丈夫だよ」
「まぁ、みのりんが、それで良いなら。んじゃ、商会ギルド行くか!」
カナの唐突な提案に、みのりんが首を傾げる。
「……なぜに、商会ギルド?」
「んなもん、生産職で商人を選んだからに決まってんだろ?」
カナの唐突な選択に、みのりんが首を傾げる。
「……なぜに、商人?」
「いいか、みのりん。世の中の大抵のもんは金で買える。でもって、金で買えない愛やら友情やら思い出やらは、みのりん達といれば手に入る。つまり、俺様が商人になって金を稼いだら、この世の全てが手に入る! どうだ、この天才的なアイデア!」
渾身のドヤ顔で決めポーズを見せるカナだが、正直、反応に困る、みのりんである。
発言の内容に突っ込みどころが満載すぎるのだ。
「……うん、まぁ、いいんじゃないかな」
「おいおい、なんだよ、その適当な返しはッ! テンション低いぞっ!やっぱ睡眠が足りてねぇんじゃねーの?」
「いや、それは関係ないけど。……そういえば、戦闘職のスキルは取らなくて良いの?」
あんな斜め上の三段論法を持ち出されて素直に乗っかれるのは、せいぜい酒に酔っている時くらいだろう。
当然、みのりんは善良な未成年で、飲酒などしていないため、カナのアイデアには賛同できない。
そこで、とにかく話を逸らすことに。
「あー、なんか拳闘士の職業でスキルを取るには、【道場】っつーとこに通って修行しなきゃなんねぇんだよな。俺様が一人でプレイしてる時にでも、のんびり進めるさ」
ちなみに【道場】は、薬師にとっての【魔女の家】的な役割を果たす施設である。
スキルや情報を得たり、上級の職業に転職したりするのに役に立つ。
「そっか。んじゃ、まずは、その商会ギルドって所に行こっか。そこで、商人になる手続きをするんだよね?」
「おうよ! そんで、いつか、資産王に俺様はなる!」
「いや、海賊王的なノリで言われても……」
その後、朝食を終えた二人は、商会ギルドに向かったのだった。
……。
…………。
………………。
「あれっ、カナさんじゃないですか! それに、みのりんさんも! こんな所で会うなんて思いませんでした!」
商会ギルドにやって来た二人を真っ先に出迎えたのは、他のプレイヤーでも、受付のNPCでもなく、昨日カナが暴漢から救った商人のラックだった。
ラックは、二人がギルドに入るなり、主人を見つけた子犬のように、嬉しそうな顔で寄ってくる。
もし、彼が本当に犬なら、尻尾を大きく振っていたに違いない。
「おー、ラックじゃねぇか。そうか、お前も商人なんだっけ。なら、ここに居てもおかしくねぇんだな」
「こんにちは、ラックさん。今日はカナちゃんが商人になるために来たんだ~。これから、先輩として、色々と教えたげてね~」
「そうなんですか! えぇ、それは、もちろん! カナさんは、恩人ですからね! ……と、言いたい所なんですが……」
「ん? 何か問題でもあんのか?」
「それは……」
「アッハッハッ! これは傑作だ! あのへっぽこ商人のラック君が、人にモノを教えるとは。いやはや、これは一体、何の冗談かな?」
嫌味全開の嗤い声と共に登場したのは、豪奢な服に身を包んだ、貴族然とした青年。
三人よりも5歳は上に見える。
腰にはレイピアを下げており、こちらも、それなりに高価な品に見えた。
「んだ、てめえ? やんのか、こら!」
「カナちゃん、カナちゃん! 昨日の暴漢さんみたいな口調になってるよ! ものすごく小物っぽいけど大丈夫?」
「おおっと、いけねぇ。俺様としたことが。で、アンタ誰? 俺様がラックから何を学ぼうと、俺様の勝手だろ?」
「ふっ、やはり、低俗な人間の周りには、同じく低俗な人間が集まるということか。類は友を呼ぶ、とは良く言ったものだ。さて、野蛮な君にも高貴なる僕の名前を教えておこう。僕の名はベイド。ここらでは有名な騎士の家系に連なる者さ。戦闘職は、騎士。剣士から派生した上位職の一つだよ。ちなみに、生産職は中級商人。見習い商人の上位職だね。見習い商人のラック君ではなく、中級商人の僕が、先輩として新人に手解きすべきだと思ったんだが。どうやら、君に、その価値は無さそうだ」
「…………くっ」
「ほぉー、随分と煽ってくんなぁ?」
実力差を自覚しているからか、悔しげに俯くだけのラック。
そして、カナはベイドの敵対的な態度に、凶悪な笑みで以て好戦的に応じる。
しかし、そんな空気を切り裂くように、みのりんが口を開いた。
「確かに、価値はないかな。カナちゃんの時間をベイドさんに使うのは、勿体ないよ」
「ほう? この僕に向かって、大層な口を利くね
?」
「本当のことを言ったまでだよ? さっ、カナちゃん。こんな人は放っておいて、商人の登録に行こっ。それに、どうせ見返すなら、商人として戦おうよ」
「……それも、そぉだな。よし、決めた! おい、ラック、ついてこい! 俺様とお前で、こいつをギャフンと言わせようぜ!」
あっさりと踵を返す、みのりんと、それに続くカナ。
「えっ、あっ、はい! お待ちを~!」
そんな二人の態度を、呆気に取られて見ていたラックも、少し遅れて動き出した。
「……ふん、せいぜい無駄な足掻きを楽しんでくれたまえ」
そして、立ち去る三人の背中に、ベイドの憎まれ口が投げつけられたのだった。
「いや、俺様が寝てから、一人で何してたんだ? ただでさえ明け方まで騒いでたのによ」
二人が街の宿屋で、お泊まり会を決行した翌朝。
みのりんは宿屋の一階にある食堂で、襲い来る睡魔と戦っていた。
テーブルには目玉焼きを乗せたトースト、数種類の野菜で作られたサラダ、黄金色のコーンスープが並び、カナが、それらを次々と平らげている。
みのりんは、食事よりも、コーヒーを流し込む作業で手一杯だが。
「いやぁ、色々とね……。それより、今日は何をしよっか?」
二回ほど注ぎ足したコーヒーを飲み終え、ようやく眠気が覚めてきた所で、みのりんが予定の話を振る。
しかし、カナは話の内容よりも、みのりんの顔色を気にしている様子だ。
「どうせなら一回、ログアウトして寝てきた方がいいんじゃね? ゲームの中で寝るより、眠気も取れるだろ?」
「でも、今ログアウトしても、外も朝だしな~。まっ、1日くらい寝てなくても大丈夫だよ」
「まぁ、みのりんが、それで良いなら。んじゃ、商会ギルド行くか!」
カナの唐突な提案に、みのりんが首を傾げる。
「……なぜに、商会ギルド?」
「んなもん、生産職で商人を選んだからに決まってんだろ?」
カナの唐突な選択に、みのりんが首を傾げる。
「……なぜに、商人?」
「いいか、みのりん。世の中の大抵のもんは金で買える。でもって、金で買えない愛やら友情やら思い出やらは、みのりん達といれば手に入る。つまり、俺様が商人になって金を稼いだら、この世の全てが手に入る! どうだ、この天才的なアイデア!」
渾身のドヤ顔で決めポーズを見せるカナだが、正直、反応に困る、みのりんである。
発言の内容に突っ込みどころが満載すぎるのだ。
「……うん、まぁ、いいんじゃないかな」
「おいおい、なんだよ、その適当な返しはッ! テンション低いぞっ!やっぱ睡眠が足りてねぇんじゃねーの?」
「いや、それは関係ないけど。……そういえば、戦闘職のスキルは取らなくて良いの?」
あんな斜め上の三段論法を持ち出されて素直に乗っかれるのは、せいぜい酒に酔っている時くらいだろう。
当然、みのりんは善良な未成年で、飲酒などしていないため、カナのアイデアには賛同できない。
そこで、とにかく話を逸らすことに。
「あー、なんか拳闘士の職業でスキルを取るには、【道場】っつーとこに通って修行しなきゃなんねぇんだよな。俺様が一人でプレイしてる時にでも、のんびり進めるさ」
ちなみに【道場】は、薬師にとっての【魔女の家】的な役割を果たす施設である。
スキルや情報を得たり、上級の職業に転職したりするのに役に立つ。
「そっか。んじゃ、まずは、その商会ギルドって所に行こっか。そこで、商人になる手続きをするんだよね?」
「おうよ! そんで、いつか、資産王に俺様はなる!」
「いや、海賊王的なノリで言われても……」
その後、朝食を終えた二人は、商会ギルドに向かったのだった。
……。
…………。
………………。
「あれっ、カナさんじゃないですか! それに、みのりんさんも! こんな所で会うなんて思いませんでした!」
商会ギルドにやって来た二人を真っ先に出迎えたのは、他のプレイヤーでも、受付のNPCでもなく、昨日カナが暴漢から救った商人のラックだった。
ラックは、二人がギルドに入るなり、主人を見つけた子犬のように、嬉しそうな顔で寄ってくる。
もし、彼が本当に犬なら、尻尾を大きく振っていたに違いない。
「おー、ラックじゃねぇか。そうか、お前も商人なんだっけ。なら、ここに居てもおかしくねぇんだな」
「こんにちは、ラックさん。今日はカナちゃんが商人になるために来たんだ~。これから、先輩として、色々と教えたげてね~」
「そうなんですか! えぇ、それは、もちろん! カナさんは、恩人ですからね! ……と、言いたい所なんですが……」
「ん? 何か問題でもあんのか?」
「それは……」
「アッハッハッ! これは傑作だ! あのへっぽこ商人のラック君が、人にモノを教えるとは。いやはや、これは一体、何の冗談かな?」
嫌味全開の嗤い声と共に登場したのは、豪奢な服に身を包んだ、貴族然とした青年。
三人よりも5歳は上に見える。
腰にはレイピアを下げており、こちらも、それなりに高価な品に見えた。
「んだ、てめえ? やんのか、こら!」
「カナちゃん、カナちゃん! 昨日の暴漢さんみたいな口調になってるよ! ものすごく小物っぽいけど大丈夫?」
「おおっと、いけねぇ。俺様としたことが。で、アンタ誰? 俺様がラックから何を学ぼうと、俺様の勝手だろ?」
「ふっ、やはり、低俗な人間の周りには、同じく低俗な人間が集まるということか。類は友を呼ぶ、とは良く言ったものだ。さて、野蛮な君にも高貴なる僕の名前を教えておこう。僕の名はベイド。ここらでは有名な騎士の家系に連なる者さ。戦闘職は、騎士。剣士から派生した上位職の一つだよ。ちなみに、生産職は中級商人。見習い商人の上位職だね。見習い商人のラック君ではなく、中級商人の僕が、先輩として新人に手解きすべきだと思ったんだが。どうやら、君に、その価値は無さそうだ」
「…………くっ」
「ほぉー、随分と煽ってくんなぁ?」
実力差を自覚しているからか、悔しげに俯くだけのラック。
そして、カナはベイドの敵対的な態度に、凶悪な笑みで以て好戦的に応じる。
しかし、そんな空気を切り裂くように、みのりんが口を開いた。
「確かに、価値はないかな。カナちゃんの時間をベイドさんに使うのは、勿体ないよ」
「ほう? この僕に向かって、大層な口を利くね
?」
「本当のことを言ったまでだよ? さっ、カナちゃん。こんな人は放っておいて、商人の登録に行こっ。それに、どうせ見返すなら、商人として戦おうよ」
「……それも、そぉだな。よし、決めた! おい、ラック、ついてこい! 俺様とお前で、こいつをギャフンと言わせようぜ!」
あっさりと踵を返す、みのりんと、それに続くカナ。
「えっ、あっ、はい! お待ちを~!」
そんな二人の態度を、呆気に取られて見ていたラックも、少し遅れて動き出した。
「……ふん、せいぜい無駄な足掻きを楽しんでくれたまえ」
そして、立ち去る三人の背中に、ベイドの憎まれ口が投げつけられたのだった。
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