幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

みのりんVSカナ

「くっ……!」

「ハッハァー! そんな豆鉄砲二丁じゃ、当たんねぇぜぇぇぇ!」

開戦と共に全力で後ろに飛び退きつつ、両手の魔導銃からエネルギー弾を放つ、みのりん。

しかし、そのどちらも、カナの体を捉えることはなく、大きく後方に流れていく。

既に、魔導銃の扱いに慣れている、みのりんが外したのは、カナの滑るような独特の歩法が原因だ。

カナは10歳の誕生日を迎えてから約2年間で、既に100タイトルを越えるVRMMOをプレイしている。

そして、カナは、彼女が師匠と呼ぶ108人のプレイヤーから、様々な技法を学んでいるのだ。

それは、そのゲームの中でしか使えないものではなく、VRゲーム全般、あるいは現実でも使える技術らしい。

今のカナが見せている歩法も、その一つで、自称【仙人】という古武術の達人から教わった技だとか。

「ホント厄介だよね、その動き方! ぬるぬる動いて狙いが定まらないよ!」

「だろだろ~? これ身に付けるのは、かなり大変だったんだぜ~。まぁ、あんまし速くは動けないから鬼ごっこには向かないけどな!」

そう言いつつも、付かず離れずの微妙な距離を保ち、確実にプレッシャーを与えてくるカナ。

みのりんも射撃に意識を割いているため、全速力ではないが、ステータスでは大幅に勝っている。

それでも、カナを引き離すことが出来なかった。

「なら、これでどう!?」

みのりんは高く飛び上がり、樹の枝の上にステージを移す。

その際、【空中ジャンプ】は使わない。

カナには、まだステータスを開示していないので、出来るだけ手札は伏せておきたいのだ。

「おー、確かに、その足場だと動き辛そうだな! けど、俺は木登りも得意だぜっ!」

言葉通り、スルスルと樹をよじ登ったカナは、すかさず、みのりんに追撃を仕掛けてくる。

しかし、機動力のステータスはジャンプの飛距離にも影響するため、枝の上を飛び回ながら戦闘するなら、みのりんの方が優勢だ。

ところが、速度こそ劣るものの、カナも枝の上で安定した回避を見せつける。

どんなに激しく動いても、体幹がぶれず、枝から落ちるような様子もない。

まさに、目を見張るようなボディバランスだ。

その上、危なくなったら樹の幹に隠れて、やり過ごし、そのまま気配を消してしまう。

気付いた時には背後や頭上を取られている、という事態が何度も発生した。

「このぉ……。さっきから、ちょこまかとぉ」

自分も機動力を武器にするタイプで、相手からは同じ様な感想を持たれているに違いないが、そんなことは棚にあげて、恨み言を呟く、みのりん。

それはそうと、このままではMPの無駄遣いだ。

どうにかして、カナの動きを封じられないものか。

とはいえ、【不意射ち】は戦闘中だと使えないし、【怨念】でカナのステータスを下げるにしても、そもそも攻撃が当たらないので発動条件を満たせない。

「ここは、やっぱり、あの方法かな?」

かつて、自分よりも機動力の高い黄金虎を相手にしたときの戦法。

すなわち、【当たらないなら、当たりに来てもらう作戦】。

しかし、今は、あの時とは違って、一撃で勝敗が決まる状況だ。

なにより、カナと近接戦闘など、自殺行為だろう。

とはいえ、他に方法が浮かばないのも事実。

ここは、腹を括るしかないか。

みのりんが、そんな風に考えた時。

「隙ありぃ!」

「わわっ!?」

思考に意識を割き過ぎたせいで、カナの奇襲を許してしまった。

頬に迫る小さな拳は、なんとか紙一重で避けたものの、バランスを崩して枝から落下してしまう。

「貰ったぁ!」

地面に降り立ったカナが、すぐさま追撃を仕掛けてくる。

急いで引くか、そう考えた、みのりんだったが、素早く思考を切り替える。

『ちょっと、段取りは狂ったけど、このまま迎え討つ!』

両手に構えた魔導銃に意識を集中し、いつでも【銃剣】を発動できる状態に。

カナが拳を突き出したタイミングで、カウンターを狙う!

「…………」

「っ!?」

しかし、カナは何かに気付いたように、直前で踏み留まる。

そして、警戒するように、大きく飛び退いた。

「どうしたの、カナちゃん? せっかくのチャンスだったのに」

「……みのりんにとっての、だろ? なにするつもりか分かんねぇけど、避けるんじゃなくて覚悟を決めた面したからな。危ねぇ、危ねぇ」

セリフとは裏腹に、カナは楽しげに笑みを浮かべている。

むしろ、そうでなくては張り合いがない、とでも言いたげだ。

「はぁ~、カナちゃんは鋭くて困っちゃうな。気付かなかったら私の勝ちだったかもしれないのに」

「そりゃあ、みのりんとは、VRの年季が違うからな! 師匠達から揉まれた俺様に死角なんて、ほとんど無いぜ!」

「…………ふむ。死角かぁ」

確かに今のところ、カナには死角らしい死角が見当たらない。

つまり、それを意図的に作り出せれば、勝機も見えてくるのでは?

そんな風に考えた、みのりんに、カナが訝しげな視線を向ける。

「おいおい、みのりん。また何か、悪巧みしてんな?」

「悪巧みとは失礼なっ。勝つための作戦を考えてただけだよ!」   

「みのりんの場合、大抵その思い付きが、えげつねぇからなぁ……」

「しみじみと言わないでよ。まるで、私がいつも、暴走してるみたいじゃん!」

「……えっ?」

「……えっ?」

「もしかして、みのりん。自覚なかったのか?」

心底、呆れたという様子のカナに、みのりんは憤慨した。

「むっか~! もうカナちゃんには、容赦してあげないんだからねっ!」

「ちょ、悪かったって! 戦いならともかく、みのりんが全力で悪巧みしてくるとかシャレになんねぇ!」

「ふ……ふふ。また言ったね、悪巧みと。良かろう。そこまで言うなら……見せてあげるよ。私の、全力の、悪巧みというものを!」

言って、みのりんは左手の魔導銃を構える。

ただし、カナではなく明後日の方向に。

そして、既に右手の魔導銃も、どこか別の方向に向けていた。

その狙いが分かるはずもないカナは、頭に【?】マークを浮かべている様子だ。

それに構わず、みのりんはエネルギー弾を放つ。

次の瞬間、

「グォォォッ!」

「キィエェェェイ!」

左右から、それぞれ別のモンスターの鳴き声が響き渡り、すぐさま足音も近付いてくる。

「さぁ、カナちゃん。第2ラウンドを始めようか?」

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