幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

魔女の後継?

「恐らく、ネネさんが調薬に込めた願い、そこに毒ばかり出来上がる要因があると、僕は考えます」

「私の願い……皆の役に立ちたいっていう願いが?」

「それが、なんで毒に繋がるのさ?」

一通りの素材を使い、調薬を終えた所で、トーシローが気付いたことがあると、二人に話を持ちかけた。

その内容に、二人は首を傾げる。

「皆のために調薬を学ぶ。調薬で皆を助ける。では具体的に、どんな薬を、どんな場面で、どんな風に使って、助けるのか。ネネさんに明確なイメージはありましたか?」

「えっと……そういえば。具体的な事は何も……」

「やっぱり……。これは推測ですけど、ネネさんは皆の役に立ちたいという純粋な想いだけで調薬した。けれど、それだけだと薬の方向性が定まらなかった。そこで、それとは、別の願いが混じったのではないでしょうか。自分の手でモンスターが倒せたら……という願いが」

「それは……」

図星だった。

初めて、あの洞窟で黄金虎に追い詰められた時も、そして、昨日の戦闘でも、支援する力ではなく、倒す力が自分にあればと、何度も思った。

そうであれば、皆の負担を、もっと減らせたのに……と。

その願いが調薬に影響を及ぼした、と言われれば、確かに納得だ。

「つまり、モンスターを倒すための力として、毒が生まれたってこと?」
.
「多分……ですけどね。僕は昨日の戦闘しか経験してませんけど、それでも、ネネさんの歯がゆそうな気配は何度も感じましたから。もっと、もっと自分に出来ることがあればって」

「そ、そんなに漏れてましたか?」

「あははっ、そうですね。そのうち、我慢できなくなって、突撃するんじゃないかと、内心ヒヤヒヤしてました」

「そ、そんな無茶はしません!」

「えー、でも最後の場面では、実際に自分で黄金虎に向かって行きましたし」

「あ、あれは、もう他に手段が無かったからで……」

とは言うものの、自分も前に出たかった、という気持ちは否定できない。

「ふーん、ネネちゃんが、そんな事をねぇ。まぁ、でも確かに、たとえ支援魔法で貢献してても、皆が前で戦ってるのを安全な後ろから見てるってのは、ネネちゃん的に、ヤキモキしそう」

「そ、それは、まぁ、そうですね」

「あと、気付いた事が、もう一つ。調薬中のネネさんの様子について」

「あー、それは私も思った。どっちかって言うと、あっちの方が毒に影響してそうだよねっ!」

「えっ、えっ?」

ネネには、何のことだか分からなかった。

調薬中の様子?

毒に影響してそう?

そんな特別なことは何もしていないはず。

ただ、皆のためにと、心を込めて調薬しているだけ……少なくとも自分は、そのつもりだった。

「まっ、実際に見てみるのが早いかなっ。ネネちゃん、もう一回、調薬してみてくれる? その間、私はキャプチャー機能で撮影しとくから」

「わ、分かりました」

自分は、ただ調薬するだけとは言え、撮影されるのは気恥ずかしいし、緊張もする。

しかし、それ以上に、二人の意味深な発言が気になって、ネネは大人しく従った。

そして、出来る限り、いつも通りを心がけて、丁寧に調薬を進めていく。

「ウフ、ウフフフフフッ。これをこうして……次は、こっちの素材を……」

「…………」

「…………」

なにやら、呆れたような気配の視線を感じたネネだが、今は調薬中。

余計なことには気を取られず、作業に集中する。

「皆のために……皆のために……皆のために……。ウフフッ、アハハハハハッ。良い色になってきました。完成は近いですよぉ」

「…………(ビクビク)」

「…………(ビクビク)」

なんとなく、視線に混じる気配が、呆れから恐怖に変わっている気がするが、多分、気のせいだろう。

これは、恐らく雑念が多くて、集中しきれていないせいだ。

もっと、もっと、深く調薬の深淵に迫らねば。

「これを使って、あんなことや、こんなことを。アァ、イマカラ、マチドオシイ……」

「ストーップ!」

「ひゃう!? も、もう何ですか、みのりん。調薬の邪魔しないでください!」

「なんか、さっき見たときよりも悪化してるんだけど!? 魔女っていうか、もはや魔物とか魔神みたいなんだけど!? これじゃあ調薬っていうより呪いの儀式だよっ!」

「あはは……。もしかしたら僕よりも、お婆ちゃんの後継者っぽいかも。お婆ちゃんも、調子が良い時は、あんな感じですから」

「えっ? な、なんのことですか?」

何が何だか見当が付かないネネに、みのりんがメニュー画面を開いて見せる。

そこには、調薬中のネネの奇怪な振る舞いが、バッチリと記録されていて……。

「こ、こんなの……。こんなの私じゃありません~!」

いつかの逆パターンで、今度はネネが、みのりんの胸に飛び込み、羞恥に悶えることに。

なお、みのりんの、ある部分が薄く硬かったせいで、少し、おでこを痛めたが、なんとか本人には悟られずに済んだのだった。

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