幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

聖女

「クーッ! クーッ! クーッ!」

「やめて下さい! 私です! あなたを助けに来たんです!」

みのりんが黄金虎を引き付けている間に、子龍を保護すべく、洞窟の奥に戻ってきたネネ。

しかし、今まさに、その子龍から魔法による攻撃を受けていた。

「クーッ!」

「まさか、【恐慌】の状態異常!?」

パーティー内において、傷や状態異常の回復役を務めるネネは、既に修練場の訓練で各種、状態異常の効果を学んでいる。

その知識のお陰で、今の子龍が陥っている症状を正確に捉えることが出来た。

「ならっ!」

しかし、事態を把握できる事と、状況を打開できる事は別の話。

ネネはまだ、初期状態で会得できる効果の低い基礎魔法しか会得していないのだ。

その中には、状態異常を回復する魔法もあるが、子龍の攻撃を避けながら掛け続けても、なかなか効果を発揮しなかった。

「くっ、もしかしてレベルが足りないんですか? それともステータスが低いから?」

ここで言うレベルとは、プレイヤーのレベルではなく、状態異常を回復する魔法のレベルだ。

状態異常と、その回復魔法には、それぞれ1~5までのLv.が振られている。

このレベルが同じなら、ランダムで回復、どちらか一方が高ければ、確定で結果が出る仕組み。

そして、ネネが使っている魔法はLv.1なので、Lv.2以上の状態異常は回復できないのだ。

また、仮にレベルが同じでも、ステータスが低ければ、それだけ回復の確率は低くなる。

「もう……MPがっ……」

効果が出るまで魔法を掛け続けようと粘ったものの、ネネのMPが底をつく。

MPの自動回復を待つ時間的な余裕はなく、即座に補給できるポーションは高価で手元にない。

もはや、安全で確実な回復手段は望めなかった。

「となると、これしかない……ですね」

ネネに残された、最後の手段。

それは、子龍に近づき、その体を拘束することだった。

【恐慌】の状態異常は、自然治癒までの時間が長い代わりに、拘束状態になると急速に回復するという特徴がある。

この拘束は、自分の手足で押さえ付けるでも、魔法で押さえつけるでも、なんでも良い。

とにかく、自由な身動きを封じられれば、拘束と見なされる。

しかし、今のネネに魔法は使えないため、危険を省みずに接近する必要があった。

「大丈夫……必ず助けますから!」

子龍に、そして自分に言い聞かせるようにして、弱気な心を奮い立たせた。

失敗すれば、また街に帰される。

次に、ここへ戻って来たとき、子龍が無事である保証はないのだ。

なにより、また、みのりんに頼りきるのは、友人としてプライドが許さない。

「私だって!」

子龍から次々と放たれる、風と雷の魔法。

【恐慌】状態ゆえに狙いが甘い、それらの攻撃をなんとか掻い潜り、ネネは子龍に手を伸ばす。

そして——、

「これでっ!」

手が届いた瞬間——、

「……えっ?」

ネネは子龍の全身から迸った雷撃に、身を灼かれた。

頭の先から足の先まで、静電気が走ったような、ビリッとした感覚。

安全装置が働くので、痛み自体は、それほど大したことない。

とはいえ、アバターに与えられたダメージは、当然、甚大なもので……。

「そん……な」

ネネの体は力を失い、ぐらりと倒れた。

視界の端にはゼロになったHPバーが映っている。

しかし——、

「……でも、まだっ、終わってません!」

それでも、ネネは手を伸ばし、自動表示されたウインドウを操作する。

その画面には、こんな文字が。

—————————————————————
蘇生アイテムを使用しますか?
Yes/No
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蘇生アイテムなど、いったい、どこで手に入れたのか。

その答えは、みのりんが受けた試練にある。

かつて、修練場で、こんなやり取りがあった。

『そこで、だ! 追加の訓練に参加する気はないか!? これをクリア出来れば、期待の新人として称えられ、特別なご褒美が与えられるぞ!』

『特別な……ご褒美っ!』

この、特別なご褒美とは、みのりんが会得した【銃剣】のスキルではない。

【銃剣】のスキルは、クエストの達成を条件に、システム的に開放されたに過ぎず、教官からは別のご褒美を手渡しで受け取っていたのだ。

その、ご褒美が蘇生アイテムであり、さっき別行動する前に、みのりんから託されたものだ。

ところで、なぜ前回、負けたときに、みのりんは蘇生しなかったのか。

それは、単純にステータスの調整など、リベンジの準備が整っていなかったから、とのこと。

「はあっ!」

「クーッ! クーッ!」

何はともあれ、ネネは無事に子龍の拘束に成功。

しばらくして、子龍は正気を取り戻した。

ついでに、少しだけ自然回復したMPを消費して、傷だらけの子龍に回復魔法を掛ける。

「クーッ!」

この魔法も効果の薄い基礎魔法だが、子龍の傷は、ある程度、塞がった。

すると、お礼のつもりなのか、子龍がネネの顔にスリスリと頬を寄せる。

「あははっ、くすぐったいですよぉ」

「クーッ、クーッ!」

そうして、子龍とじゃれ合っていたネネの前に、またしてもウインドウが表示される。

しかも、今度は二つ同時だ。

そこには、それぞれ、こんな表示が。

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獲得称号

☆【聖女】
効果:テイマーの職業でなくとも、
   モンスターテイムが可能になる。
   (ただし連れ歩けるのは1体、
   仲間に出来るのは4体まで)
   また、回復魔法を掛けた回数や、
   回復量に応じて対象のテイム率が上がる。

獲得条件:モンスターに倒されてから五分以内に、
     同一モンスターに回復魔法を掛ける。
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青龍が仲間になりたそうに、
こちらを見ています。
仲間にしますか?
Yes/No
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「こ、これって、みのりんが言ってた特殊な称号ですよね? それに、青龍……って」

「クーッ!」

「やっぱり、あなたのこと? 仲間になってくれるんですか?」

「クーッ、クーッ!」

「ちょ、そ、そこはっ!?」

嬉しそうに鳴きながら、マフラーのように、首に巻き付いてくる子龍——もとい、青龍。

といっても、別に締め上げる訳ではなく、皮膚に触れるか触れないかの距離感で、ふわりと纏わりついている。

だからこそ、首が弱いネネにとっては逆に困った事態なのだが、純粋な好意を向けられているため、解くに解けなかった。

「はぁ……はぁ……。ま、まぁ、とにかく、これから、よろしくお願いしますねっ。アオちゃん!」

「クーッ!」

青龍だからアオちゃん、という安直なネーミングだが、どうやら本人(本龍?)は気に入ったらしい。

その後、洞窟を出たネネとアオは、なんとかリベンジを果たしたらしい、みのりんと合流。

それから、意気揚々と街へ戻って、クエストの完了を報告したのだった。

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