幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

森に平和を

「モンスターの調査依頼……かぁ」

「討伐以外にも、色んなクエストがあるんですねー」

「だねぇ~」

ギルドで戦闘系以外のクエストを物色した二人は、丁度よさげな依頼を見つけ、すぐさま受注した。

【森に平和を】というタイトルが付いた、その依頼の内容は、街の近くの森で新発見されたモンスターの生態を調査する、というもの。

報酬は、持ち帰ったモンスターの情報が多ければ多いほど、有益であればあるほど、豪華になるらしい。

可能なら討伐、あるいは、ある程度のダメージを与えて追い払って欲しい、とも書かれていたが、戦闘となるとネネの出番がないので、今回は調査に徹するつもりだ。

ちなみに、この依頼を選んだ決め手は、依頼書に書かれていたモンスターの姿が、とても可愛かったから。

こっそり尾行して情報を集めると共に、目の保養をしようという狙いである。

「それにしても、依頼書に載ってたモンスター。あれって、どう見ても龍だよね。龍って、森の中に居るものなの? どっちかというと山に居そうなイメージだけど」

「どうでしょう? まぁ、ゲームの中なら何でもありって気もしますけど。一応、まともな理由を考えるなら、前の住みかを追われた、とかでしょうか。新発見というのは、今まで見つからなかったからではなく、最近ここに来たから……とか?」

「あー、リアルでもニュースになるよね。山を追われた動物が町に降りてくるとか。そんな感じかな?」

「あくまで予想ですけどね~」

そんな風に話しつつ、しばらく森の中を探索していると、やがて視線の先に目標のモンスターを発見する。 

「おっ、アレだよね。依頼書に載ってたの」

「えーっと、緑の体に空色の瞳、枝のような角と綺麗な鱗が特徴的な龍……はい、間違いないと思いますっ」

「この距離なら、まだ気付かれてないだろうし、ゆっくり近づいてみよー!」

「お、おーっ」

というわけで、抜き足、差し足、忍び足、と口ずさみながら、龍の後を追う二人。

当然、尾行の経験などないので、その動きは素人くさく、時おり音も漏れてしまう。

それでも、適度に立ち止まりつつ、根気よく尾行を続けた結果、なんとか龍との距離を10メートル程まで縮めることに成功した。

「……依頼書を見たとき、マジ? って、思ったけど、本当にぬいぐるみっぽい見た目だね」

「ですねっ。全体的に丸っこいですし、鱗もカチカチというより、プニプニしてそうですし、なにより小さくて幼い感じが堪りませんっ」

「うんうん、ネネちゃんの次くらいにカワイイ!」

「わ、私は関係ないでしょうっ」

「えー、でも丸っこくて、プニプニで、小さくて幼いって、完全にネネちゃんだよ?」 

「他はともかく、丸っこくはないですっ」

二人が小声で言い争っている間も、体長100センチくらいの小さな龍は、のんびり、ふよふよと浮かんで森を進んでいる。

その後も観察を続けた結果、端から見て分かる程度の情報は集まったので、今度は慎重に接触してみることに。

一応、ここまでの調査で、何度か他のモンスターと遭遇したときも、龍は戦闘を避ける傾向が見られたので、恐らく気性は穏やかだと思われる。

「怖くな~い、怖くな~いよ」

「み、みのりん。目付きと手つきが、見るからに怪しい人ですよっ」

あえて龍が、こちらの方に視線を向けているタイミングで、ゆっくりと姿を見せて近づいて行く。

突然、背後から姿を見せたら、驚いて逃げるか、襲われると思ったからだ。

ちなみに、みのりんは手をわきわきと動かしており、完全に不審者モードである。

「……?」

しかし、龍は、そんな気持ち悪い挙動を見せる、みのりんにも動じず、つぶらな瞳を二人に向けて、きょとんと首を傾げている。

それどころか、細長い蛇のような胴体をゆらゆらと揺らし、ゆっくりと近づいてきたのだ。

「かっ、かわぇぇぇ……」

「み、みのりんっ。孫にデレデレするお婆ちゃんみたいになってますよっ。うちのお婆ちゃんが、私に会った時と同じ感じですっ」

「こんな、可愛い子を愛でられるなら、お婆ちゃんでいいや~」

みのりんが、そっと手を差し出すと、龍は興味津々といった様子で顔を寄せ、ツンツンと当ててくる。

その度に、みのりんの顔がデレデレしていく。

これがホントのツンデレだ。

……まぁ、嘘である。

「人懐っこいですね。まだ赤ちゃんとかでしょうか」

「マジかっ? それは何が何でも保護せねばなるまい!」

「いやぁ、モンスターは街には連れていけないですし……。モンスターテイマーとかは別ですけどね」

「ぐぬぬぅ、これはモンスターテイマー優遇クエストだったかぁ。あぁ、でも可愛いすぎるぅぅぅ。……転職しようかな」

「み、みのりん。目がマジですよ?」

「だって、可愛いんだもん。ネネと名付けて一日中、部屋でイチャイチャしたいんだもん」

「さすがの私も同級生に飼われるみたいで、ちょっと、嫌です……」

「それもそだね。まぁ、それは冗談としても、何とかならないかなぁ。もう報酬とか諦めて、このクエストをずっと受けたままにしておけば、いつでも会えるかな?」

「まぁ、期限とかの設定も無かったですし、出来るとは思いますけど……」

と、今後の方針について相談していると、ふいに龍がビクッ、と震え、何かを警戒するように辺りをキョロキョロしだした。

「ん? どうしたの?」

「クーッ、クーッ!」

「何気に初めて鳴きましたね。何か、あったんでしょうか?」

二人して顔を見合わせていると、突然、獣の遠吠えが辺りに響き渡り、ようやく危機が迫っていることを自覚する。

「もしかしなくても、ヤバイ奴だよね」

「で、ですね。早く逃げましょう!」

「でも、この子は?」

「そっ、そうでした! えっと、一人で逃げられますか?」

ネネが龍に目を合わせて問い掛けるも、当然、通じるはずもなく、ただ首を傾げるのみ。

このまま放置すれば、遠吠えの主が龍を襲う可能性は充分にある。

とはいえ、テイムしていないモンスターを活動エリアから出すことは出来ない。

そして、二人が次の行動を決めあぐねている間に、タイムアップが来てしまった。

「グルァァァッ!」

「きゃあ!?」

「くっ、ネネちゃん! その子、連れて逃げて!」

ついに目視できる距離まで迫った遠吠えの主——巨大な黄金虎に怯え、ネネの身がすくむ。

それを見た、みのりんは、すぐさま魔導銃を抜いて引き金を引いた。

そして、放たれたエネルギー弾は黄金虎の巨体を掠め、敵の注意をみのりんに引き付ける。

「後は、頼んだよ!」

「みのりんっ!?」

ステータスの多くを機動力に割り振り、更に【韋駄天】で強化された、みのりんの全力疾走。

初めて見る、その速さに度肝を抜かれつつ、ネネは、みのりんの身を案じて叫んだ。

しかし黄金虎を引き付けた、みのりんは、あっという間に森の奥へ消えてしまい、追うことも出来ない。

「クー……」

「わ、私が……頑張らなきゃっ!」

みのりんが消えた方へ、不安そうに視線を送る龍を見て、ネネの体の震えが止まる。

そして、龍をそっと腕の中に抱きしめ、とにかく距離を取ろうと、みのりんとは逆の方向へ足を向けた。

しかし、その後、どうすればいいのか。

ネネはまだ、その答えを見出だせていない。

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