幼女の、幼女による、幼女のための楽園(VRMMO)

雪月 桜

チュートリアルスキップ

「おー、これがゲームの中かぁ。……意外と殺風景だね」

それもそのはず。

ゲームを開始した成実が、まず最初に行き着いたのは、初期設定のために用意された空間だ。

余分なものが一切ない、真っ暗な部屋。 

目の前には大型のディスプレイが投影され、手元には操作用のコンソールがあった。

「えーと、なになに? 『まずは、あなたのお名前を入力してください』か。うーん、どうしようか」

名前を入力するボックスの下には、本名は書かないようにとか、個人を特定する内容は書かないようにとか、他のオンラインゲームでもよく見る注意書きがある。

ここで悩むのも時間がもったいないので、成実はスマホのソシャゲRPGでも使っていた名前を入力した。

「みのりん……っと。次は職業を決めるのかー」

職業は後から変更も出来るが、その場合はレベルが1に戻り、取得したスキルも無くなるため、時間を無駄にしたくないなら慎重に選ぶ必要がある。

しかし、始めから選べる職業だけでも、かなりの数だ。

さすがは【ネバーランド】。

世界で最も有名なVRMMOだけあって、力の入れようが他のゲームとは段違いだった。

「うーん、カナちゃんは絶対、前に出て戦うタイプだよね、武闘家とか。ネネちゃんは大人しくて引っ込み思案だから治癒師かな? あっ、モンスターテイマーとかもあるんだ。なら、こっちかも。シオンちゃんは派手好きだから、やっぱり魔法使い……と見せかけてウケ狙いで変な職業を選ぶ可能性もあるし」

あとから合流してパーティーを組む予定の友人たちを思い浮かべ、どんな職業なら相性が良いのか考えてみる。

が、結局、難しいことを考えるのは苦手なため、直感に従って、さっさと決めてしまった。

「よし、冒険者にしよう! 覚えられるスキルや魔法は少ないけど、ステータスを自由に設定できるから、どんな人と組んでも大丈夫そうだし!」

冷静に考えれば、いくらステータスを弄れても、スキルや魔法の数が少ないと戦闘で役に立たない可能性が高いと分かるのだが、成実は早くゲームを始めたかったため細かいことはスルーしてしまった。

軽い気持ちで職業の決定ボタンを押して次の設定項目に移る。

「アバター設定かー。あっ、課金すれば初期パーツ以外も使えるようになるんだ。……ひぇー! この見た目装備なんて10万円もするの? そんなにあったらソフトが何本買えるか……」

そんな大金を持ち合わせていない成実は、現実の姿を、そのまま使うことに。

ネバーランドは、その辺のセキュリティ対策は万全で、登録した相手以外には顔の印象が残らないように設定されているらしい。

その後も、あれこれと初期設定を進めた成実は、最後にチュートリアルの有無を尋ねられた。

「もー面倒だから、いいや。こっちは早くゲームしたいのっ!」

不満をぶつけるようにコンソールを鋭く叩くと、ようやく全ての設定が終了した。

すぐさま成実の体は光に包まれ、ようやく本当のゲーム世界へ旅立つ瞬間がやって来る。

……VRゲーム未経験者がチュートリアルをスキップ。

この選択が、後にどんな結果をもたらすのか。

それを知るものは、まだいない。

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