グローオブマジック ー魔女の騎士ー

珀花 繕志

14.討伐


 魔術師アーバンが魔女討伐部隊「イクサス」本部現れた翌日から、アーバンの激しい攻撃が始まった。
 アーバンは歴代の魔女と比較しても劣らない魔術で使い魔を作り出しては、王国の市街に攻撃をしかけてきた。
 魔女と同等の魔術を使い、人と同じ知恵を駆使し、じわじわと討伐部隊の戦力を奪い追い詰めていった。
「討伐部隊は何をしている!?」
 魔女に対する攻撃の手段を持たない貴族たちは口々に討伐部隊に対する不満を言った。
「国家始まって以来の大惨事だぞ!」
 たった一人の魔女、いや人間の魔術師の手によって、王都は恐怖に包まれていた。
「冗談じゃない。勘弁してくれよ」
「こんなに出撃が多いんじゃさすがにもたないぜ」
 暗雲広がる王都の空の下、討伐部隊のメンバーも度重なる出撃に完全に疲弊しきっていた。中には大怪我を負って、医務室の中に寝たきりになっている者もいた。
「……」
 そんな中、ルードは飢えた獣のような目をして次の出撃命令が来るのを待っていた。
(スティアが洗脳されて父親のアーバンを手にかける前に、俺が倒さなければ。だが、俺に勝てるか……?)
 もう誰にも悲しい思いはさせない。実の親を殺すなんて行為の片刃を担ぐ真似はさせたくない。
 あの事件以来、スティアは戦場に出てこなかった。訓練にさえ参加していない。
 研究所を訪ねても面会を断わられる始末で、文字通り顔も見ていない状態だ。
「スティアに何したんだよ、ルード」
 ラクトは好奇心旺盛にそんなことを聞いてくる。
「知らん」
 ルードはそれに答えない。口封じをされていることもあったが、何より彼女の名誉を傷付けたくなかった。
「どーせ、何か下らないことしたんでしょ?」
 リイルもそれに乗って話しかけてくる。
 ルードはお節介な連中だと思いながら、何よりそれをありがたいと思っていた。
(だからこそ、話せない)
 そんな風に思っていた。
「早く謝ったほうがいい」
 抑揚のない声で告げたアリエルは心配そうにルードを見上げていた。
 どうやら痴話喧嘩でスティアが出てこなくなったということになっているらしい。
(やれやれだ)
 知らない奴は楽だ。だが、知らないほうが良いこともある。
「研究所にいるのは知っている。でも、手は出さないほうが良いんでしょ?」
 アリエルが小声でそんなことを告げてきた。
(そうか、コイツは今でも研究所に通っているのか)
 ルードも彼女の素性は良く知らない。
 何らかの理由で研究所に収容され、その魔術の素養から討伐部隊に配属されたとしか伝えられていない。
 だが、定期的にアリエルがそこに通っているのは知っていた。おそらくそこでスティアと会ったのだろう。
「アイツの様子はどうだった?」
「何か暴れていた。研究所の人が魔術で暗示をかけていた」
「アイツに会えたら伝えてくれ。忘れた振りをしろってな」
 どうやら必死に記憶を消されるのに抗っているらしい。それならば、忘れたふりをして素直に従うのが上手い処世術だ。
「難しいけど、やってみる」
 アリエルは無表情のままうなづいた。
(少しは効果があると良いが……。それよりも問題はアーバンと対峙できたとしても、ただ戦って勝てば良い訳じゃない。あんな化物相手に至難の業になるだろうが、やるしかない!)
 ルードはぐっとペンダントを握りしめた。
 緊急招集の鐘が鳴り響く。ルードたちに再び出撃命令が下った。

 五つのチーム全てが闘技場に集合した。
 しかし整列した隊員には疲労の色も濃い。欠員が発生していないチームはもはや一箇所もなかった。
 しばらくすると隊長のフィートが現れた。彼にも疲労の色は見えたが、厳格な顔つきで隊員の前に立つ。
「みんな集まっているね? また使い魔たちが現れた。我々に討伐命令が下っている。今から討伐のチームを伝達する! 心して聞くように!」
 フィートにも度重なる使い魔討伐の疲れとストレスは溜まっているだろう。
 ルードたちのチームもスティアという欠員を抱えたままフィートの前に並んでいた。
 フィートは毅然とした態度で命令を告げる。
「A、Bチームは北側へ、D、Eチームは南、Cチームは中央広場の使い魔を殲滅せよ! どこにあの魔術師がいるかわからない。発見次第報告、可能なら討伐だ」
「はい!」
 フィートの号令の隊員たちは残った力を振り絞り、各チーム魔術車に乗り込むと戦場に向かった。
 戦いが始まった。

 ルードたちが中央広場に着くと、既にそこではドルイドの形をした使い魔たちが暴れ回っていた。
 無作為に人々を襲い、建物を壊し回っている。
「各人、各個撃破だ。市民を守れ!」
 そう言うとルードはすぐさまに飛び出して行った。
「ちょっ、待ちなさいよ! ルード!」
 リイルが止めるのも聞かず、ルードは飛び出していったしまった。
「あーあ、いつもの感じに戻っちゃったねぇ」
「はぁぁ。やっぱりスティアがいないと駄目かしら」
 二人は諦めたように深いため息をつく。
「そうでもない」
 アリエルはそうつぶやいて、ルードを指差す。
「早く建物の中に入れ! 使い魔は中まで入っては来ない!」
 ルードは使い魔を倒すことよりも市民の安全を優先していた。
「早く逃げろ! 使い魔どもこっちだ!」
 時には使い魔を誘導して、市民が逃げる時間を稼いだ。
「ひゅう、えらい変わりようじゃないか。スティアちゃんがいなくてもできるんじゃん」
「そ、そうね」
 リイルが思わず感心しているのを見て、アリエルがリイルの側に近づいて耳元でささやく。
「あれなら抱かれてもいい?」
「あ、うん、そうね。って何言わせんのよ!」
「……冗談」
 アリエルはそう言って意地悪っぽく舌を出す。
「アンタ、結構面白い娘だったのね」
「……そうでもない」
 そうしてまた元の無表情に戻ってしまった。
「くだらないこと言ってないで、ルードを助けよう。今回は市民の安全が最優先って方針らしいよ」
 ラクトは若干拗ねたような言い方で、手首に装着していたアクセサリーを槍に変換させた。
「そうね! 行くわよ、アリエル」
「了解」
 ラクトたちもルードに続き市民の救護に走った。
「みなさん! こっち、こっちです!」
 リイルは率先して市民の避難誘導を行い、
「この、使い魔めっ!!」
 ラクトが前衛として使い魔たちの殲滅に当たり、
「っ!!」
 それをアリエルが後衛として援護した。
 チーム一丸となった動きでドルイドによる襲撃はすぐに収拾に向かっていった。
「ねぇ、ルード。私たちがこんなに任務をすんなりこなすのってこれが初めてじゃない?」
 余裕が出ていたのか、リイルが軽口を叩く。
「油断するな。まだ市民の避難が終わってない。それに、本命がまだ出てきてない」
 ルードは油断なく周囲を見渡しながら、誘導を続けた。
(奴は必ず俺のところに来るはずだ。そのときに俺は……)
 ぐっと剣を握り締めた。
 魔力のない自分が魔女に近い力を持った魔術師に勝てるか、果たして殺さずに彼を倒すことができるだろうか。それに、絶対に伝えねばならない思いがルードにはあった。
 そんな不安からルードは眉間にしわを寄せた。
「アンタなら大丈夫でしょ! あんな奴に負けたりしないって!」
「リイル……。そうだな」
 リイルの照れながら言ったその言葉に、少し肩の荷が降りた気がした。
(俺は俺のできることをする。最善を尽くすだけだ)
 例え相手がスティアの父親であっても、だ。
 市民が大方避難を終え、ルードは使い魔の殲滅に向かった。

 使い魔の殲滅を終えルード達が一息ついていると魔術式のトランシーバーに報告の通信が飛び交った。
「A、Bチーム、ノースエリアの使い魔を殲滅を終えました。魔術師の姿は見えません」
「D、Eチーム、まもなくサウスエリアの使い魔を殲滅を終えます。今のところ例の魔術師は見当たりません」
 ルードもトランシーバーを掴み、報告をする。
「Cチーム、中央広場の市民の避難及び使い魔を殲滅を終えました。現在のところ魔術師は発見できていません」
 街は度重なる魔術師の襲撃で酷いありさまだった。石造りの家は崩され、市場のテントも燃えて、活気ある街並みがウソのように崩れている。
(クソッ、今回も空振りか。早く魔術師を倒さないとスティアが戦線に復帰する。早く来い!)
 ルードは焦りから、ギリッと奥歯を噛みしめる。
 瞬間、個人に宛てた通信がルードたちCチームのトランシーバーに届いた。
「Cチーム、聞こえるかい?」
「こちらCチーム、ルード。どうかしましたか?」
「気を付けろ。その地域に大きな魔力を測定した。おそらく他の地域の襲撃はおとりだ。そこに例の魔術師がいる可能性が高い、ザザッ……」
 フィートからの通信が途中で途絶えた。
「やっとお出ましか」
 ルードは剣を構える。
 空から黒いマントをたなびかせ、魔術師が降りてきた。
 足元に強力な魔力を発する魔法陣。突然現れたことから考えるとおそらく空間転移の魔術だろう。
「ようやく現れたな、アーバン。目的はスティアじゃないのか? なぜこんな回りくどいマネをする?」
 アーバンは目をかっと見開き、ルードたちを見下ろした。
「私の目的は貴様らへの復讐もそうだ。魔女討伐部隊を壊滅させて、娘を取り戻す! これがどうやら一番近道のようなのでな!」
 アーバンは杖を取り出し、ルードに向けた。
「娘って……。えっ!?」
「今回の俺たちの敵は、スティアの父親だ」
 ラクトたちが戸惑っている間にも、アーバンは何の呪文もなく火球を作りだし、それをルードたちに打ち下ろした。
「っ!! 散開しろ!」
 ルードの声で隊員たちはそれぞれ建物の影に隠れた。
 火球が地面に触れた瞬間、それは爆発して火柱が巻き起こった。
 まともに喰らえば一撃で終わりだろう。とんでもなく強力な魔術だ。
「くそっ!」
 アーバンは宙に浮いたまま魔術の詠唱を続けて行う。
 宙に浮かぶ敵への攻撃の手段を持たないルードには、隠れてその魔術を避ける以外になかった。
「ルード!」
 アリエルは精一杯の大きな声でルードに呼びかけた。
 そちら見るとアリエルは「自分が魔術を使うから援護してくれ」と合図を出していた。
「まだその時じゃないっ!」
 ルードは建物の影に隠れながら大声でそう返す。
 アリエルの魔術では詠唱が長すぎて敵の的になるようなものだ。あの強力な魔術士相手では、その間ずっと護衛するのは難しい。
 言っている間にもアーバンが放った火の玉が降り注いで、瓦礫を焼き払った。
「ルード!」
 今度はリイルが敵の攻撃を潜り抜け、爆風の中を駆け抜けてルードの側に来た。
「馬鹿、危ないだろ!」
「アンタに言われたくないわよ。それより、私たちでアイツを打ち落とすから、その瞬間を狙いなさい」
「何っ!?」
「私たちはアンタと違って跳べるのよ!」
 ルードが承諾する前に、リイルは飛び出していた。
「魔術師め、こっちだ!」
 ラクトが双子ならではの息の合ったコンビネーションでリイルの援護に入る。
「ぬっ!?」
 ラクトはいつの間にかその背後に回り、槍を構えていた。その構えは、
「投擲か!?」
「いくぞっ!! ルーン・ランサー!!」
 ラクトは大きく振りかぶった槍をアーバン目掛けて放った。
 槍にルーンの文字が浮き上がり、それは自分の意思で加速するかのように速度を上げてアーバンに迫った。
「小賢しい!!」
 アーバンは手を突き出すと瞬時に魔術で防壁を作り出した。
 槍は防壁を破らんばかりにギリギリと詰め寄ったが、数秒でその勢いを失い地面に落下した。
「えっ!? 嘘だろっ!!」
 ラクトはそれがあまりに意外だったのか、防御も忘れその場に立ち尽くした。
「ルーンによる加護を受けた投擲……。神話のごとく必ず心臓を貫く矛のまね事か。ふん!」
 アーバンは再び魔術を繰り出すべく魔法陣を宙に描き出す。
「させない! やぁああぁぁっ!!」
 宙に浮かぶアーバンの上からリイルは短刀を振り下ろした。
「ぐぬっ!」
 アーバンは杖でリイルの剣を受け止める。
「さすがに戦い慣れてるわね!」
 同時に振り下ろされた二本の短刀をアーバンは手に持った杖で受け止められた。
 木製の杖で受け止めても切れなかったということは、強化系の魔術を施してあるのだろう。
「空を跳ぶ程の肉体強化か。ほとほと呆れるな。討伐のためには命をも削るか」
「うるさい! アンタみたいのがいなきゃこんな命を削る戦いなんてしなくてもいいのよ!」
 リイルの剣から空気の蔦が伸びる。風の魔術でアーバンの体を縛り上げるようというのだ。
「ぬっ!?」
 それを察したアーバンはすぐさま術を行使する。
 体の中心から魔法陣が浮かび上がり、その姿が掻き消えていく。
「えっ!?」
「詰めが甘かったな、娘」
 消えたその姿が頭上に現れ、見上げた時にはもう遅かった。
 にやり、と笑う魔術師の手の先には巨大な火の玉が備えられていた。
「電磁スパーク」
「っ!?」
 絶体絶命の危機と思われたその瞬間、地上から強力な雷撃が打ち出され、アーバンのマントを掠めた。
「……魔術因子を埋め込まれた子供か。酷いことをする。知っているのか? 貴様がどうやって生まれたのか」
 アーバンは射抜くような鋭い瞳でアリエルを睨んだ。
「知っている。でも、それを恨む必要がない」
 アリエルは一瞬それに怯えたものの、確固たる意思を持った目でアーバンを睨み返した。
「必要がない、だと? 貴様もここから連れ出さねばならない存在だな。外に出れば奴らを恨む気持ちも生まれよう」
 物憂げな表情でアーバンは作り出した火の玉を消し、別の魔法陣を作り出す。
 地面を割るように木の根がボコボコと伸び、アリエルを捕らえるように迫りくる。
「させるか!!」
 ルードは迫る木の根を鋼鉄の剣で切り裂き、アリエルを守るように立ち塞がった。
「小賢しい、小賢しいぞ。ルード・アドミラル!」
「どっちがだ。アリエルもスティアも自分の意思でその道を選んでいる。親だろが誰だろうがその意思を踏みにじっていいものじゃない」
「貴様に私の気持ちがわかるか!」
 アーバンは再び複数の木の根作り出した。
 ルードは高速で剣を振るい、木の根を全て断ち切っていく。
「それが誰かの手によって作られたものでもか? 貴様は知っているのだろう? 王国研究所が、討伐部隊が何をしているのか?」
「知っているさ。嫌ってほどな」
「貴様ごときが何を知っているというのだ!?」
 アーバンは地上に降りると杖で地面を叩いた。すると土が盛り上がり、禁呪ネクロマンスによる土のゴーレムたちが、アーバンを守るように立ち塞がった。
「ゴオォオォォッ!」
 ゴーレムはまとった岩の破片を無数に放ってきた。ルードは背後のアリエルを庇うように、剣で防御する。しかし、岩の破片を防ぎきることができずに肩と太ももをかすめ、皮膚を切り裂かれた。
「ルード!?」
「ぐっ! ……あああぁぁぁーーーーっ!」
 奥歯を噛みしめて痛みを押し殺し、なおも襲いかかる岩の破片を剣で打ち落とした。そして、攻撃が止んだ一瞬、全力で地面を蹴り、アーバンを守るゴーレムに向かって駆けた。
「うおおおおおぉぉっ!! ステークバースト」
 ルードは突進の全身のばねをフルに使い強力な突きを繰り出し、ゴーレム数体を吹き飛ばした。
「電磁スパーク! 電磁スパークッ‼」
 アリエルもルードの攻撃に合わせて魔術を放ち、残りのゴーレムを破壊した。
「アーーーーバンッッ‼」
 アーバンは一瞬の凄まじい攻勢に魔術の構築が間に合わず、ルードを目の前にまで近づけてしまった。
 ルードは護衛のいなくなったアーバンの首に鋼鉄の剣を振り下ろす。だが、鋼鉄の剣がアーバンの首の皮を一枚裂いたところで止まった。魔術防壁により防がれたのだ。
 防がれてなお、ルードはぎりぎりとそれを打ち抜くべく力を込める。
 アーバンも最大の魔力で防壁を展開し、ルードを押し戻そうとする。
「私のすることに邪魔をするな、ルード・アドミラル」
「悲しみは連鎖させるべきものじゃない」
「貴様……?」
 アーバンは一瞬迷うようにルードの瞳を覗き見る。
 ルードの目は何か伝えたい強い意志を訴えていた。
「俺の両親はスティアの母親とは別の魔女に殺されている」
「貴様には私や妻を討つ権利がある、そう言いたい訳だな」
「違う。当初はそれも目的だった。だが、そうはならなかった。真実はお前が知っているものと違う!  全てを話す! 俺の封印を解けアーバン!!」
 アーバンはその言葉に弾かれるように後ずさった。
「な、何だと? どういうことだ!? 貴様何を知っている! 確かにエリスの魔力の反応は消えたはずだ。あの時、私の元に来た知らせは……!?」
 驚愕のあまりアーバンの杖先から魔術防壁が消えていた。
 ルードもそれに合わせて剣を下す。
「真実は俺の記憶の中に封印してある。これを見ろ」
 ルードは自分の口の端を掴んで頬をめくって見せた。そこにはピアスのようなものが付いていた。
「封印の魔石。この国は魔女を倒し平和を守った英雄に、そんな仕打ちをするのか」
「だから、嫌ってほどこの国の汚さは知っている」
「……真実とやらを教えてもらおう。その封印は私が今解く」
 アーバンは杖をしまい、静かにルードの側に近づくと、頬に手を触れ封印の解呪を行った。
 ルードの口からころん、と魔力のこもった宝石の固まりが転げ落ちた。ルードはそれを吐き出し、憎らしげに宝石を握る。
「やれやれ。これで、本当のことを話せるな。俺はあの時スティアの母親を殺してなんていない。スティアは瀕死の母親に自分の命を削るほどの魔術を使ってその傷を癒した。その後二人とも討伐部隊に捕縛され、研究所へと送られた。俺への強力な呪いを残してな」
「それが、真実だと言うのか」
「お前の言うとおり、初めて生きたまま捕らえた魔女に研究所は狂喜乱舞し、えげつない実験を強いているのは確かだろうな。俺も最近までそんなことが行われてたとは知らなかった。スティアがなんの記憶も持たずに魔女討伐部隊に配属されたのを見て、そうだと確信した」
 ルードはぎりっと奥歯を噛みしめる。
「馬鹿な。それでは、私のやってきたことは……!!」
「俺は最初に馬鹿なことは止めろって言ったはずだ。そうでなくともいずれ俺が救い出すつもりだった」
 力を失いがっくりと地面に膝を落とすアーバンを前にルードは剣をさやにしまった。
 ルードはやれやれ、とため息をつく。
「え、え、え?」
「ど、どういうこと?」
 ラクトたちには何がなんだかわからなかった。
「終わったの……?」
 アリエルも杖を下ろし、成り行きを見守っていた。
 その背後ではギリッと歯ぎしりをする魔術師の影があった。

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