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グローオブマジック ー魔女の騎士ー

珀花 繕志

5.訓練2

「さ、少し休憩したら、各小隊で訓練。その後は個人戦、チーム戦になるから十分に準備運動して怪我のないように!」
 フィートの声が闘技場に響く。
 訓練で慣れている隊員たちは即座に支度を始めるが、初めて走ったスティアは闘技場の中でへばっていた。
「はぁはぁ。うー、初めから聞いていれば少しは考えて走ったのに……」
「あはは、Eチームは今回得したね。毎回スタートが一番遅いチームの誰かが後片付けをするってパターンなんだけど、まさか最後の最後で抜かれるとはね」
 話を聞いてからスティアも全力で走ったのだが、いかんせん、普段から訓練を行っている隊員たちと鍛え方が違う。最後のチームの隊員たちに抜き去られ、結局ビリになったのはスティアだった。
「洗礼ってやつだ。チーム訓練を始めるぞ」
 尻餅をついて息を切らすスティアにルードが声をかける。
「えー、少し休もうよ?」
「うるさい。ただでさえウチは弱小チームなんだ。訓練しないでどうする。スティア、訓練には付いてこられなくてもいいから、自分の身ぐらいは自分で守れるようにしろ。前衛が俺、ラクト、リイル、後衛はアリエルとスティア、お前だ。お前はどんな魔術が使えるんだ?」
「は、はい。わ、私は回復の魔術と、す、少し攻撃魔術も……」
 スティアは必要以上に萎縮しながら答える。
「攻撃魔術も使えるのか。具体的には?」
「火炎と、凍結です。他は今練習中です……」
「そうか。じゃあ戦力になりそうだな」
 ルードは背中を向けて、数歩進むと振り返った。
「とりあえず、どの程度か見たい。俺に魔術を放ってみてくれ」
「え? で、でも……」
「大丈夫だ。魔術が使えない分、その対処は十分に訓練している。アリエルと組ませて魔術練習ができるかどうかだけでも確認したい。全力で放ってみろ」
「は、はい。ぜ、全力でいいんですね?」
 スティアは服の袖からブレスレットを取り出す。彼女が「オン!」と命じると、それについた杖の形をしたアクセサリーが巨大化し、彼女の手に収まった。
 近代の魔術武器は運ぶのに邪魔にならないように縮小化の機能が備え付けられている。
 スティアのブレスレットだけが例外ではなく、隊員のほとんどがその機能を備えた武器を使っていた。魔術の使えないルードを除いて。
 スティアは真剣な眼差しで杖をルードに向け、呪文を唱え始める。
「地の奥に眠りしマグマの王よ、その力を我が前に示せ! 火炎剣弾(フレイムタン)」
「っ!!」
 それは高度な魔術式だった。
 彼女の杖の先に幾重にも連なった円形の魔術式が広がり、その名のとおり火炎の剣が複数の弾丸となってルードに放たれた。
 凄まじい勢いで放たれた火炎弾は、あっという間にルードを串刺しにした。……ように見えたが、ルードはそれが触れる寸前に鋼鉄の剣でそれを地面に叩き落していた。
 それが叩き落とされた地面は石畳が解け、もうもうと煙が立っていた。
「……見た目とは大違いだな。凄まじい魔術だ」
 構えた剣を下ろし、ルードは平然と言った。
 スティアの強力な魔力が炎を実体化し、剣を模ったそれはまともに受ければ致命傷になるレベルの威力だった。
「え、ぇ……!?」
 昨日も驚いたが、今日は更に驚かされた。まさか本当に火炎弾を打ち落とすなんて……。
 隊員たちもどよめいていた。
「また……。魔術が使えない癖にああいうのを平然と見せたりするから……」
 リイルは渋い顔をして頭に手を当てる。
 しかし、それは賞賛のものではない。恐怖したどよめきだった。
 隊員たちも魔術を使う。特殊な職業であるからではない。一般市民の日常の生活の中でも魔術は使われる。火をおこし、光で照らし、冷気で冷やす、そういったことは当たり前のように使われるものだ。
 その粋を極めたものが戦闘に使われる魔術なのだが、それを魔術の使えない欠落者にこうも容易く打ち落とされると、同じ魔女討伐部隊の隊員といえど恐怖を通り越して畏怖を感じてしまう。
「よし、大体わかった。もういいぞ、スティア。それじゃ、いつものとおりサーキット・トレーニングから始めよう。円に並んでくれ」
 ざわついた隊員たちを無視してルードは話を進める。
「はぁ……。ちょっと、それが何かくらいスティアに説明してから始めたら?」
 不機嫌を丸出しにしてリイルが言う。
「なんだ? 説明してくれたんじゃなかったのか?」
「あんな短い時間で走りながらなんて全部説明できる訳ないでしょう!」
「怒るなよ、わかった。今説明する。スティア、いいか? サーキット・トレーニングっていうのは道具を使わずに行うトレーニングのことだ。腕立て、腹筋、背筋、スクワット等々。基礎体力と筋力を向上させる効果がある。これをそれぞれ二十回一セットで計十セット繰り返す。わかったか?」
「は、はい」
 相変わらずおびえた様子のスティア。初日のインパクトが効きすぎたらしい。
(これじゃいじめているみたいだな)
 まさか同じチームになるとは夢にも思っていなかった。そうと知っていれば準備もできたのだが、そう上手くいかない。
(やれやれ。コミュニケーションだけでも上手く取りたいが……)
 困っているとラクトがひょいと顔を出して助け舟を出してくれる。
「最初はキツイかもしれないけど、慣れるとそうでもないから僕らに続いてやってみてよ」
「はい。わかりました」
 その明るい調子に心を許したのか、スティアはすんなりと返事をした。
 うんうんとうなずくと、ラクトはスティアの耳元でつぶやいた。
「ウチのサブリーダーは無愛想でね、悪い奴じゃないんだけど。まぁ、あんまり気にしないでやって」
「……はい」
 そう困ったような憂いを帯びた表情でうなずく。
「……可愛い」
「え?」
「いや、何でもないよ! さぁ、やろうよ、ルード」
 照れ隠しに大きな声で呼びかけて、ラクトは早くも腕立ての体勢を取る。
「ん? あぁ。それじゃあ、始めるぞ。腕立て二十回始め!」
 ルードたちが地面に伏せて腕だけで体を持ち上げると、スティアも見よう見まねでそれについてくる。
「イチ、ニッ、サン……」
 ルードのかけ声でリイルたちは腕立ての回数を重ねるが、スティアの腕は下がろうとせず、苦しそうに歯を食いしばっているだけだった。
「魔術師には不要……」
 そんなことを言いながら、同じ魔術師のアリエルは腕立てを出来ていた。
「ジュウイチ、ジュウニ……」
 ルードのかけ声も後半に差しかかるがスティアの腕は一向に下がろうとしない。
「スティアちゃん。無理せず膝を着いてやってごらん? できるから」
「だ、大丈夫です。ふぅぅぅ……!」
 ラクトの提案を振り切って、スティアは腕を下げようとしたが、
「あうっ!」
 その瞬間に身体ごと地面に吸い込まれた。
 制服にまで染みた汗が、地面に染みの跡を作った。
「うぅぅ……」
 顔から落ちてしまったらしく、鼻を真っ赤にして身体を起こす。
「次、行くぞ。腹筋」
 スティアが今度こそと思っているうちに次のトレーニングに移ってしまった。慌てて身体を反転させて今度は上体を起こす運動に入る。
「始め! イチ、ニ……」
 これは大丈夫だろうと思っていたが、ルードのかけ声が三までいったところでようやく身体を一回起こすのが限界だった。
(アイツ、今まで一体どんな生活を送ってきたんだ……?)
 普通の生活をしていれば使う筋肉さえ衰えているなんて、寝たきりの病人の生活でもしていたのだろうか。
 トレーニングを続けていくが、スティアはまったくと言っていいほど付いて行けなかった。
 リイルやラクトがその度心配になって声をかけるが「大丈夫です」と頑なにそれを受け入れようとはしなかった。
 一週目のサーキット・トレーニングを終え、ぜいぜいと肩で息をするスティア。見ていられなくなって、ルードは彼女に声をかけた。
「無理しないで簡易化したトレーニングにしたらどうだ?」
「だ、大丈夫です!」
「お前、意外と頑固なんだな? できなきゃトレーニングにならないから、できるところまでで良いんだぞ?」
「現場に出たらそんなこと言っていられないってフィート隊長もおっしゃっていました。だから、私、頑張ります」
 彼女の目には強い意志が宿っていて、それ以上何か言える雰囲気にはならなかった。
(無理して怪我でもしなきゃいいが……)
 心配はしても始まらない。甘やかすことだけが優しさではない。ルードはそう自分に言い聞かせた。
「そうか。なら頑張れ。さ、サーキット・トレーニング二週目を始めるぞ!」
 ルードは彼女から離れ、トレーニング再開の号令を出した。


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