赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第136話 消滅の不死鳥

 アンナとカルーナは、魔王と戦っていた。
 魔王の攻撃により、アンナは大きなダメージを負い、二人は窮地に立たされている。

「カルーナ……逃げるんだ。あの攻撃は、明らかにやばい……」
「駄目だよ。逃げ切れるようなものじゃない……」

 魔王は飛び上がっており、そこで巨大な闇の球体を作り上げていた。
 恐らく、それがアンナ達を倒す最大の技なのだろう。今までの攻撃とは、比べ物にならない程の力が、二人にも理解できた。

「お姉ちゃん、少し待っていて……私が、なんとかするから……」
「カルーナ……」

 カルーナはアンナをその場に寝転ばせ、少し前に出る。
 そして、魔力を集中させていく。

「魔法使いか……先程の魔法を使っても、この攻撃は防げんぞ……」
「どうかな? やってみないとわからないよ」

 カルーナは、構える。
 魔王の言葉を受けても、その意思は揺るがない。

「ならば、勇者とともに滅びるがいい! 魔王技・邪なる球イービル・ボール!」

 魔王の頭上にある大きな闇の球体が動き始めた。
 それは、アンナ達の方に向かってきている。
 恐らく、まともに受ければただでは済まない。

「カルーナ……」
「大丈夫、お姉ちゃん……」

 それに対して、カルーナは腕を構える。
 凄まじい量の魔力が、カルーナの体を駆け巡っていく。
 その力は、アンナにすらわかる程だ。

「これは……消滅呪文フレアじゃない?」

 そこから、アンナは理解する。
 これは、カルーナの持つ最強の魔法、消滅呪文フレアではないということに。
 だが、カルーナが使えるそれ以上の魔法を、アンナは聞いたことがない。

「右手に、消滅呪文フレア。左手に、紅蓮の不死鳥ファイア・フェニックス

 カルーナの右手には、橙色の球体、左手には、赤色の球体。それぞれの力が、ゆっくりと混ざり合っていく。

「名付けて! 消滅の不死鳥フレア・フェニックス!」
「む!?」

 カルーナの手から、橙色の鳥が放たれた。
 その鳥は、一直線に魔王の攻撃に向かっていく。
 二人の必殺技がぶつかり合い、大きな衝撃が巻き起こる。

「無駄だ! どんな攻撃であろうと、この俺の攻撃には勝てない!」
「なっ!」
「魔王技・邪なる球イービル・ボール!」

 そこで、魔王がもう一撃を加えてきた。
 二つの球体が、カルーナの攻撃を押し返してくる。

「カルーナ……」
「大丈夫!」

 しかし、カルーナの不死鳥も負けてはいない。
 魔王が放った一個目の球体を消滅させていく。
 ただ、その分だけ不死鳥の力も弱まる。

「ふはは! 終わりだ!」
「それは、どうかな?」
「……何!?」

 だが、その瞬間、不死鳥が再生していく。
 再生した不死鳥は、再び魔王の攻撃とぶつかり合う。

「馬鹿な!」
「不死鳥は蘇るんだよ? 知らなかった?」
「なんだと……」

 不死鳥が、魔王の球体を消滅させていく。
 同時に不死鳥も消滅していくが、これで魔王の攻撃が届くことはない。今のカルーナには、それで充分なのだ。

「馬鹿な……」

 魔王は、自身の攻撃が破られたことに、驚いているらしい。
 そんな魔王に、さらなる変化が起こる。

「む……?」

 魔王の鎧が、消滅したのだ。

「これは……」
「はあ、はあ……もしかしたら、力を使い過ぎたのかもしれないね……」

 一方、カルーナの体にも変化が起こった。
 カルーナは片膝をつき、息を切らしているのだ。
 先程の魔法で、かなり疲弊してしまったらしい。ただでさえ魔力を消費する消滅呪文フレアを放った後、それより強力な攻撃を行ったのだ。それも、仕方ないだろう。

「カルーナ、大丈夫?」
「少し、大丈夫ではないかもしれない……」
「くっ……」

 カルーナも、最早限界であるようだ。
 それを見て、アンナはゆっくりと立ち上がる。

「お姉ちゃん……」
「魔王も疲弊している……後は、私の出番ってことだね」
「傷は、大丈夫……?」
「うん。多少痛むけど、戦えない程ではない。カルーナのおかげで、大分回復できたからね……」

 アンナは聖剣を作り出し、魔王を見据えた。
 鎧を解いた魔王も、こちら側を見据えてきている。
 アンナは、魔王に対してゆっくりと口を開く。

「魔王、そちらもかなり疲弊しているみたいだね……」
「ふん! お前の方がダメージは大きい。故に、この程度何も問題はない」

 魔王はそうやって平気そうにしているが、恐らくかなり疲弊しているはずだ。
 今までの戦いで、魔王は何度も邪なる闇を駆使していた。消滅呪文フレアに対抗するための時などは顕著だ。
 よって、魔王の戦力はかなり落ちており、アンナにも価値の目はあるはずである。

「うん?」
「む?」

 そこで、アンナと魔王は声をあげた。
 その場に、新たなる人物が現れたからだ。

「アンナさん! カルーナさん!」
「ティリア……」
「聖女か……」

 その人物とは、ティリアである。
 シャドーとの戦いが終わり、ここに来たのだ。
 それを見て、魔王は少し悲しそうにする。

「シャドーが、負けたのか……」
「あなたが、魔王……」

 ティリアも、魔王に反応したが、すぐに別の所に目を向けた。
 それは、アンナの体から流れる赤い血だ。

「ガルスさん、やはり、あなたの言うことは正しかったようです……回復呪文ヒール!」
「これは……」

 アンナの体に、回復魔法がかけられる。
 それにより、アンナの傷口が塞がっていく。
 同時に、ティリアがその場で膝をついてしまう。

「ティリア!」
「アンナさん、恐らく、これが最後の回復魔法です。これ以上は、もう……」
「わかった、ありがとう。このおかげで、魔王とも有利に戦える」

 それだけ言って、アンナは魔王を見た。
 魔王は、アンナに対して鋭い視線を向けてくる。

「忌々しいことだ……ここで、回復とはな……」
「……これで、形勢逆転だな?」
「ふん! 言っておけ! その程度で覆るものではないと、知るがいい!」

 アンナと魔王が、お互いに構えた。
 アンナ達の戦いは、続いていく。

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