赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第131話 刈り取る一撃

 ガルスとティリアは、影魔将シャドーと対峙している。
 ティリアを狙おうとしていたシャドーだったが、それは彼のポリシーに反したようで、すぐにそれをやめるのだった。

「ふん!」
「くっ……!」

 ガルスは、再び部屋の柱を狙い始める。
 それにより、シャドーの攻撃範囲を狭めるためだ。
 当然、シャドーはそれを邪魔してくる。

「させん!」
「ふん!」

 シャドーの刃が突き刺さっても、ガルスは気にしない。

回復呪文ヒール!」

 なぜなら、ティリアが回復魔法を放ってくれるからだ。
 そのため、ガルスは柱の破壊に集中する。

「いくら回復できても、痛みや疲労は和らがない!」
「死ななければ安いものだ……」

 柱を壊すガルスと、それを攻撃するシャドー。
 二人の攻防は、ガルスに分があった。
 痛みや疲労があろうとも、ガルスの破壊は止まらなかったのだ。

「これで、お前の移動場所はなくなったな」
「くっ!」

 ガルスはシャドーに向かって、大きく宣言した。
 柱が全てなくなったことで、シャドーは実体を表すしかなくなったのだ。

「ガルス……貴様の対応は、流石だった。だが、私にもまだ手は残っている!」
「むっ!?」
「これで、終わらせてくれる!」

 そこでシャドーは、ガルスに迫ってきた。
 当然、ガルスはそれに対応しようとする。
 しかし、シャドーは体を分裂させていく。

「これは!?」

 さらにシャドーは、ガルスの影に入っていった。
 その瞬間、ガルスの体に変化が起こる。

「う、動けん……」
「これが、影魔奥義……影の拘束シャドー・バインド!」
影の拘束シャドー・バインド!?」

 ガルスは、身動きがとれなくなってしまったのだ。
 それだけではない。ガルスは、体を何かが締め付けてくることを感じる。

「影となった私が、貴様を拘束しているのだ! 身動きもとれまい!」
「ぐうっ!」

 シャドーの言う通り、ガルスはほとんど動くことができなくなってしまった。
 ガルスは、自身の影が、形を変えていることに気づく。それは、シャドーが拘束しているからなのだろう。
 ガルスは、ゆっくりと口を開こうとする。

「させん!」
「ぐむっ!」

 しかし、その瞬間、シャドーによって口を塞がれた。
 それに合わせて、影の形も変わっている。どうやら、影の形が、拘束している場所であるということらしい。

「ガルス、いくら貴様でも、この拘束はとけん! このまま絞め殺させてもらうぞ!」
「……ぐうっ!」

 シャドーは、ガルスの首を絞めつけていく。
 このまま、首を絞めて殺すつもりのようだ。
 ガルスは、体を動かし抵抗しようとするが、それもシャドーに封じられてしまう。

「無駄だ! 影の中では、貴様の力も無力……私の拘束から逃れることはできない!」
「ぐっ……!」

 ガルスの力ならば、シャドーの拘束を破ることも容易いはずだ。
 だが、影の中にいるシャドーには、ガルスの力などは関係がないらしい。
 それでは、この拘束もとくことができない。

「ガルスさん!」
「小娘! 貴様にできることなどないぞ!」

 ガルスに向かってティリアが叫ぶが、シャドーはそれを遮った。
 ティリアは、回復魔法の使い手である。そのため、自身に対抗できる手段を持っていないと、シャドーは踏んだのだ。

 この状況で回復魔法を放っても、ガルスが締め付け続けられているので、無駄である。
 そのため、シャドーはガルスを仕留められると、確信した。

回復呪文ヒール!」

 だが、何を思ったか、ティリアは回復魔法を放ってくる。
 それが無駄であると、ティリアも理解しているはずだ。
 傷は治せても、この状況は打破できない。それが、回復魔法であるはずなのだ。

「無駄だ! ガルスは回復することなどできん!」
「私の狙いは、ガルスさんではありません!」
「何!?」

 そこで、シャドーは気づく。
 ティリアの回復魔法の狙いが、ガルスではなく、その影であることに。
 つまり、ティリアはシャドーに回復魔法をかけたのである。

「こ、これは……!?」
「むっ!?」

 すると、ガルスの拘束がとけていく。
 回復魔法により、シャドーの体が元の形に戻り、拘束をとく結果になったのだ。

「ば、馬鹿な!」
「なるほど……」

 シャドーは、再びガルスを拘束しようとするが、ティリアがそれを許さない。
 回復魔法をかけ続け、シャドーの変化をさせないようにしているのだ。

「くっ! だが、この状態なら、私を倒すこともできん!」

 だが、シャドーはそこで余裕を見せる。
 ティリアの回復魔法がかかっている限り、シャドーの肉体は傷つかない。
 そのため、負けることがないという根拠になったようである。
 しかし、それに対して、ガルスは笑う。

「確かにお前は回復し続ける」
「そうだ。ならば……」
「だが、一撃でお前の意識を刈り取れば、それも関係なかろう!」
「ぐっ!」

 ガルスはシャドーに近づき、その体を拘束する。
 そして、そのままの体勢で、空中へと飛び出す。

「ティリア、俺の技が決まったら、回復魔法をとけ!」
「はい!」

 ティリアに合図を出し、ガルスは天井まで到達する。
 そこで、体を反転し、天井を蹴り地面に向かっていく。

「これは……!」
「まだだ!」

 さらに、ガルスは回転を加える。
 そのまま、シャドーを離さず、地面に一直線だ。

「シャドー! 受けるがいい! これが俺の最大の技!」
「くうっ!」
竜人ドラゴン・旋風サイクロン・落としドロップ!」
「ぐっ!」

 その瞬間、ティリアは回復魔法を中断した。
 シャドーが霧散しようとするが、それも最早間に合わない。

「ぐわあああああっ!」

 激しい闘気と落下のエネルギーが、シャドーを襲う。
 その強烈な一撃は、シャドーの意識をかりとるには、充分すぎるものだった。

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