赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第126話 闇魔将ドレイク

 アンナ達は、魔王城の中を進んでいた。
 現在は、ネーレと教授と別れ、五人で進んでいる。

「……あれは!?」

 階段を上っていたアンナは、空気が変わるのを感じた。
 つまり、もうすぐ次の階に着くのだ。

「アンナ、気をつけろ。この先に、誰かが待っているかもしれない」
「うん、わかっている……」

 ツヴァイの言葉に、アンナは頷く。
 残る魔将は、闇魔将と影魔将。その二人が、次の階で待っている可能性があるのだ。
 アンナ達は、警戒を強めながら、新たなる場所に出る。

「あっ……!」

 そこに出て、アンナは思わず声をあげていた。
 アンナ達が出たのは、開けた部屋である。その奥に、一人の男が立っていた。
 男は、青っぽい肌に、角、翼、尻尾という特徴がある。その特徴は、悪魔のものだ。
 アンナ達に対して、男はゆっくりと口を開く。

「貴様らが、勇者一行か……」
「お前は……」
「我が名は、闇魔将ドレイク……薄汚い人間共よ、貴様らを一人残らず殺してやる」

 男は、闇魔将ドレイク。残る魔将の一人であるようだ。
 ドレイクは、アンナ達に向けて、指を構えてくる。

「闇螺旋《ダーク・スパイラル》……」
「これは……!?」

 すると、ドレイクの指に黒いものが螺旋を描いて巻き付いていく。
 どうやら、それがドレイクの武器であるようだ。

「ふん!」
「くっ!」

 ドレイクは大きく床を蹴り、アンナに向かってきた。
 アンナは聖剣を構え、それを待ち受ける。

変化チェンジ・アーマード!」
「何!?」
「ツヴァイ!」

 しかし、ドレイクの攻撃はアンナに刺さることはなかった。
 二人の間に、ツヴァイが割って入ったからだ。
 ツヴァイはドレイクの腕を掴み、その動きを制限する。

「くっ!」
「アンナ、皆、早く先に進め……こいつは俺が相手をする」
「ツヴァイ、でも皆で戦った方が……」
「いや、ここでお前達が疲弊するのはよくないだろう。魔王との戦いが控えているのだ。少しでも体力は残しておけ……」

 どうやら、ツヴァイは一人でドレイクを一人で引き付けるつもりであるようだ。
 確かに、魔王との戦いが控えている今、少しでも体力は残しておきたかった。そのため、ツヴァイの提案は理解できるものである。

 ただ、ツヴァイが一人でドレイクと戦い、無事で済むのかはわからない。
 相手は魔将、魔族の中でも屈指の実力者である。それに、ツヴァイも、先程の戦いで、疲労しているはずだ。

「アンナ、行くぞ」
「ガルス……」
「ツヴァイなら、あの闇魔将にも負けることはない」
「……うん、そうだね」

 ガルスの言葉に、アンナはゆっくりと頷く。
 ツヴァイの言ったことは、アンナにも納得できることだった。
 それなら、ツヴァイを信じるしかないのだろう。

「決断できたか。なら、進め……」
「兄さん……」
「ティリア、お前もだ……勇者達の力になるのだ」
「はい……」

 ツヴァイの言葉を受けて、アンナ達は一気に駆け出す。
 ツヴァイとドレイクを避けて、進んで行くのだ。

「進ません!」
「邪魔はさせんぞ!」
「ぬうっ!?」

 それを邪魔しようとするドレイクを、ツヴァイは押さえつける。
 ドレイクは、それに対処することしかできなくなるのだ。
 アンナ達は、そのまま階段を駆け上がっていくのだった。

「くっ!」
「ぬぅん!」

 そこで、二人はお互いに距離をとった。
 お互いに体勢を立て直すためである。

「鎧魔将……人間達に味方するとは、やはり薄汚い血が流れているだけはある……」
「……何?」

 そこで、ドレイクがそんなことを言い出した。
 それは、侮蔑のような感情が入った言葉である。
 その言葉に、ツヴァイはあることを思い出す。

「そういえば、お前は人間嫌いで有名だったな……」
「魔族ならば当然のことだ。人間などという種族は滅ぼすべきだと、思うはずだろう」
「極端な評価だな……」

 ドレイクの言葉に、ツヴァイは表情を歪める。
 その極端な憎悪は、そうするだけに充分なものだったのだ。

「貴様の父親は、人間と結ばれようとした愚か者であったようだな……そのような者は、死して当然……」
「何……?」
「そして、その薄汚さの象徴たる貴様も、ここで死ぬのだ」

 その言葉に、ツヴァイの心は激しい感情が芽生える。
 その感情は、怒りである。
 自身の父を侮辱され、ツヴァイの怒りは、一気に加速したのだ。

「我が誇り高き父を侮辱するなど、許せんことだ……お前を叩き潰してやる……」
「ふん! それは、こちらの台詞だ……貴様を殺し、残りの仲間も殺してやる……」

 二人は、ゆっくりと構え直す。
 お互いに、激しい憎悪を相手に向けていた。
 悪魔と悪魔の半人半魔ハーフ、二人の戦いが始まろうとしている。

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