赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第122話 復讐する人形劇

 アンナと教授は、操魔将オーデットと対峙している。
 オーデットが操る魔将の屍、屍人形デス・マリオネットが放った魔法の筒マジック・ポットによって、仲間達は部屋を移動してしまった。
 そのため、二人でオーデットの相手をしなければならないのだ。

「アンナ、気をつけた方がいい。前魔王は、知略に長けた男だったと聞いている。何をしてくるか、わからない」
「ええ、わかっています」

 アンナと教授は、それぞれ構える。
 オーデットは、前魔王であることがわかっていた。
 かつて魔王軍を率いていた最強の魔族だ。
 二人は気を引き締めて、戦いに臨むことを決意する。

「ふん……!」

 そんな二人に対して、オーデットは指を向けてくる。

「……はっ! アンナ、躱すんだ!」
「え? ……はっ!」

 その行為に、まず教授、次にアンナが気づいた。
 オーデットの指先から、細い糸のようなものが放たれているのだ。
 アンナと教授は、右と左に体を動かす。

「ほう? 外したか……」

 二人の間には、一本の糸が張っていた。
 糸は、壁に突き刺さっており、その威力が普通でないことを表している。

「だが、この糸はお前達に当てるためという訳ではない」

 そこで、オーデットが糸を引く。
 すると、壁の中から、何かが現れた。
 それは、木でできた人形である。

「これは……」
「人形……一体、なんだ?」
「アンナ、気をつけるんだ。当然、普通の人形ではないだろう」
「ええ、そうでしょうね……」

 アンナと教授は、その人形から少し距離をとりながら、観察していく。
 なんの変哲のない、木の人形に見えるが、操魔将オーデットが操るものなので、何かがあるはずなのだ。

「カカッ!」
「はっ!」
「アンナ!」

 そこで、突然人形が動き出した。
 その標的は、アンナである。
 人形は、片手に刃を生やし、アンナに斬りかかって来たのだ。

「カッ!」
「くっ!」

 人形の攻撃を、アンナは受け止める。
 その攻撃は、非常に遅く、対処も容易いものであった。
 しかし、アンナは、人形の動きが不気味に思えて仕方ない。

「はあああ!」

 ただ、アンナもやられてばかりではいられなかった。このまま攻撃を受け続けるだけでは、勝利は掴めないからだ。
 そのため、人形に斬りかかったのである。

「カッ!」

 アンナの一撃は、簡単に当たり、人形の体を切り裂いた。
 だが、アンナはそこで奇妙な感覚に襲われる。
 人形を確かに斬ったはずなのに、目の前にいる人形には傷一つついていないのだ。
 斬った感触と、事実との間に齟齬が生まれ、アンナは思わず動きを止めてしまう。

「かかったな! 復讐する人形劇リベンジ・ドール!」
「何っ!?」

 そこで、オーデットが大きく声をあげる。
 それに合わせて、木の人形に変化が起こった。

「カカカッ!」

 人形の体に、鎧のようなものが纏われる。
 さらに、両腕から刃が生えており、目に見えて、強化されていた。
 その様子に、アンナは目を丸くする。

「カカッ!」
「くっ!」

 人形は、アンナに斬りかかってきた。
 その攻撃は、先程よりも早くなっている。
 ただ、それでもアンナにとっては容易く防げるものだった。
 しかし、そこでアンナの心に疑念が生まれる。もしここで反撃すれば、人形はさらに強力になるのではないかという疑念だ。

「カカッ!」
「うっ!」

 アンナがそんなことを考えている内に、人形がもう片方の手で斬りかかってきた。
 アンナは、一度後退しながら、その攻撃を受け止めようとする。

「カッ!」
「何!?」

 だが、人形はそこで動きを変えた。
 受け止めようとしてアンナが動かしていた剣の軌道に、乗るように体を動かしたのだ。
 それにより、アンナの剣で人形は切り裂かれる。すると、オーデットが声を出す。

復讐する人形劇リベンジ・ドール!」
「カカカカカッ!」

 その言葉とともに、人形がさらに強化されていく。
 先程よりもさらに鎧で体が覆われ、全身に鋭利な刃のようなものが生えてきていた。

「カッ!」
「うっ!」

 次の瞬間、人形がアンナに斬りかかってくる。
 その一撃は、さらに早くなっていた。

「カカッ!」
「やはり……」

 アンナの予想通り、人形は攻撃を受ければ受ける程、強くなるようだ。
 ただ、例えアンナが攻撃しなくても、相手から攻撃を受けようとしてくる。それでは、この人形の進化を止めることができない。

「アンナ! 退くんだ!」

 そう考えていたアンナの耳に、教授の声が響いた。
 その声を受けて、アンナは大きく後退する。
 後退しながら見てみると、教授が手を構え、人形に狙いを定めていた。

消滅呪文フレア!」

 教授の手から、橙色の球体が放たれる。
 それは、究極の攻撃魔法である消滅呪文フレアだ。

「カカッ!?」

 消滅呪文フレアは、人形に着弾し、その体を消滅させていく。
 流石の人形も、この攻撃は防げなかったようだ。
 人形の体は跡形もなく消滅し、その場には何も残っていなかった。

「むう!? 厄介な魔法使いめ……!」
「アンナがやられている間、僕が何もしていないとでも思ったのかい? 君が何もしてこないから、ゆっくりと魔力を練ることができたよ」
「ふん! すぐに、その口を開かんようにしてやるわ!」

 どうやら、教授は、アンナがやられている間に、魔力を練っていたようだ。
 そのおかげで、アンナは助かったという訳だ。
 もちろん、アンナも教授が何もしていないとは思っていなかったので、この結果はある程度は予想できていた。

「アンナ、形勢を立て直そう!」
「ええ、もちろんです!」
「ふん!」

 アンナと教授は構え直しながら、オーデットを見据える。
 教授の魔法により、オーデットの人形は消滅されられた。
 しかし、オーデットの策略がこれで終わるはずはない。
 アンナと教授の戦いは、まだ続くのだった。

「赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く