赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第117話 操魔将オーデット

 アンナ達は、魔王がいる魔王城に突入していた。
 アンナは周囲を見ながら、ゆっくりと呟く。

「これが……魔王城」
「ああ、俺も来るのはかなり久し振りだ……」
「ここも変わらんようだな……」

 ガルスとツヴァイも、アンナに続いてそう言葉を放つ。
 二人にとっては、元本拠地だ。色々と思うことがあるだろう。

「……ガルス、ツヴァイ、案内を頼めるかな?」
「ああ、もちろんだ」
「恐らく、魔王は最上階にいるだろう。だが、そこまで行くには、かならずいくつかの部屋を通る必要がある」
「つまり、誰かが待ち構えているとしたら、そこということか……」

 ガルスとツヴァイが先導して、アンナ達は歩き始める。
 魔王城の中にも、魔族はいない。そのため、一行の進行は特に問題なかった。
 そのまま進んで行くと、階段が見えてくる。

「あの階段を上れば、次の階にいける。ただ、次の階は、大部屋に出ることになるだろう。魔将達が健在なら、必ずここで待ち受けているはず……」
「わかった。それなら、皆覚悟しておこう」

 アンナ達は警戒を高めつつ、階段を上っていく。





 アンナ達は、魔王城の二階に来ていた。
 そんなアンナ達の目に、一人の魔族が入ってくる。その男は、黒いローブに仮面という、不気味な格好をしていた。
 それを認識し、ガルスとツヴァイが声をあげる。

「操魔将……オーデット!」
「魔王の側近が、こんな所にいるとはな……」

 その男は、操魔将オーデット。
 魔王の左腕ともいわれる特別な魔将である。

「……竜魔将ガルスに、鎧魔将ツヴァイ、それに勇者一行。ついにここまで来たようだな。それ自体は、称賛に値する」

 二人の言葉を受けて、オーデットはそんなことを呟いた。
 仮面によって、表情は見えないが、その声色には歓喜の感情があると、アンナには感じられる。

 だが、攻められているのに歓喜するのは、少しおかしい。
 そもそも、魔王軍は普通の状態でないはずなのに、オーデットの態度はそれを感じさないものである。
 それらを加味し、アンナの心に一つの考えが浮かぶ。

「オーデット、お前は一体、何者なんだ?」
「ほう? 勇者? 一体、何が言いたい?」
「魔王軍の現状と、お前の態度は噛み合っていない。この状況で、歓喜しているなんて、普通じゃない」
「なるほど、そうか。それで、結論は?」
「お前が、この状況を作り出した本人なんじゃないか?」

 アンナの出した考えは、そのようなものだった。
 それは、根拠などほとんどないものである。ただ、かまをかけるだけならただなので、言ってみたのだ。

「ふ、ふ、ふ……」

 アンナの言葉に、オーデットは笑う。

「ふははははははははは!」

 その態度は、ガルスやツヴァイも見たことがなかったものだった。
 このように笑うような者では、ないはずなのだ。

「いい読みだ……それに敬意を表してやろう。最早、姿を隠す必要も、ないからなあ……」

 そう言いながら、オーデットはローブを投げ放つ。
 さらに、その仮面が割れていき、その中身が見えてくる。

「これがわしの……真の姿!」
「何……?」

 オーデットは、老人のような姿だった。
 人間によく似ているが、その角や真っ赤な目などが、彼を魔族だと表している。
 ただ、それがなんの魔族なのか、アンナにはわからなかった。

「馬鹿な……」
「あれは……」

 そこで、ガルスと教授が声をあげる。
 二人は、オーデットの中身に、何かを感じているようだ。

「ガルス、一体、オーデットは……」
「あれは、魔王……」
「魔王!?」
「正確には、前魔王だね……」
「前魔王……!?」

 二人の口から出た言葉に、アンナは目を丸くした。
 前魔王は、前勇者によって討伐されたはずである。その魔王が、ここにいるはずがないのだ。

「ふふふ、その通り、わしは前魔王……最も、それで終わるつもりなどないがな」

 そこで、オーデットが指を鳴らす。
 すると、その頭上から何かが降ってくる。

「……なっ!」

 その降ってきたものに、アンナ達は驚いた。
 それは、アンナ達もよく知っている者達だったからだ。

「驚いたか……これが、わしの作った屍人形デス・マリオネット
屍人形デス・マリオネット……!?」

 アンナ達の前に現れたのは、かつて戦った魔将達だった。
 剛魔将デルゴラド、毒魔将ラミアナ、水魔将フロウ、狼魔将ウォーレンス、一人を除いて、アンナが止めを刺したはずの魔族達である。

「どうして、魔将達が……」
「全員、遺体を回収しておいたのだ。全ては、わしの兵を作るため……何人かは直接手を下したがな……」
「なんだって……?」

 オーデットは笑みを浮かべながら、そう言い出した。
 その顔は、邪悪に満ちている。

「竜魔将を手に入れるために、狼魔将を使ったりもしたが、これは上手くいなかった。使えん奴だったが、その肉体だけは評価できたので、こうしてわしの人形にしてやったわ……」
「……ウォーレンスに入れ知恵したのも、お前だったという訳か……」

 オーデットはさらに言葉を続けた。
 どうやら、ウォーレンスがガルスを襲ったのも、彼の影響があったようだ。

「ただ、こいつらの調整に少し手間取ってな。そのため、魔王軍の兵どもを使い、調整させてもらった……それで、魔王軍は少し傾いたようだが、それも問題ない」
「やはり、そうだったのか……」
「お前達も殺し、わしの人形にし、残った魔王も魔将も殺す。それで、わしの軍団は完成する。そして、全てを支配するのだ!」

 そこで、オーデットが再び指を鳴らす。
 すると、魔将達が動き始めた。よく見ると、魔将はそれぞれ筒のようなものをもっている。

「皆!」

 魔将達は、その筒をアンナの仲間にそれぞれ投げ放った。
 筒は光りを放ち、仲間と魔将を包んでいく。
 どうやら、オーデットはアンナ達を分散させるつもりのようだ。

「くっ!」

 一瞬の閃光が止み、アンナの視界が戻ってくる。
 周りの仲間達は、ほとんど消えていた。
 残っているのは、アンナ、教授、オーデットだけである。

「二人外したか、ならば、わしが直々に相手するとしよう……」
「くっ……!」
「アンナ、落ち着こう。他の皆も、魔将を倒してくるはずだ……」
「……ええ、教授、行きましょう!」

 アンナ達とオーデットの戦いが、始まろうとしていた。

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