赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第104話 消滅する肉体

 アンナは、狼魔団との戦いを終わらせ、獣王と戦っていた。
 連続攻撃によって、戦いを有利に進めていたアンナだったが、獣王の一撃でそれも中断してしまう。

「ふふ! さあ、どうする? どんどんと回復していくぞ!」

 アンナが攻撃をやめたことによって、獣王の体の修復が進む。
 消滅呪文フレアによって消滅した左腕は、手首近くまで再生しており、左足の先は完全に回復している。カルーナが開けた腹部の穴も、ほとんど治ってきていた。

「……それなら、これで」

 そこで、アンナは聖闘気を集中させる。

聖なる十字斬りセイント・クロス
「むっ!?」

 アンナの聖闘気が、獣王の体を傷つけていく。
 しかし、その傷はすぐに回復してしまう。

「無駄だ! その攻撃でも、この俺の体を傷つけることはできん!」
「……聖なる光よ!」
「何!?」

 アンナはそれを気にも止めず、振り抜いた聖剣の形を変える。

「拘束しろ!」
「ぐっ!?」

 聖なる光は、獣王の体に巻き付いてく。
 それは獣王の腕を封じ、体の動きを止める。

「まだだ!」
「これは!?」

 アンナは、獣王に聖闘気を流し込んでいく。
 それは、獣王の体を破壊するためのものである。
 獣王の体が、内部から破壊され、体中から鮮血が噴き出す。

「ぐっ!?」
「はあああああっ!」
「がああああっ!」

 アンナは止まることなく、獣王の体に聖闘気を流し続ける。
 獣王は、その激しい痛みに声をあげ、それに耐えているようだ。

獣王波ビースト・バースト!」

 そこで、獣王は体から闘気を放出しようとする。

「聖なる光よ! 私を守れ!」

 だが、アンナもその行動にでることを予測していた。
 そのため、体に聖闘気を張り巡らせることで、獣王の攻撃を防御したのだ。

「くっ!」

 アンナに防御されたことを悟ったのか、獣王の顔に焦りが見える。
 その様子を見て、アンナは今こそが攻める時であると、思うのだった。

「教授!」
「ああ!」

 アンナの言葉に、教授が反応する。
 教授はアンナが現れてから、ずっと魔力を集中させて、待機していたのだ。
 全ては、獣王との戦いに決着をつけるためである。

「ぐうううっ!」
「はああああ!」

 教授の手に、大量の魔力が放出されていく。
 その魔力は、橙色の球体となって、多大なエネルギーを放出する。
 獣王は、自身にこれから訪れる攻撃に声をあげるが、アンナの聖闘気によって動くことができない。

消滅呪文フレア!」

 教授の手から、獣王に向けて魔法が放たれた。
 その球体は、獣王の体に一直線に飛んでいく。

「ガオオオオン!」

 獣王が雄叫びをあげるが、消滅呪文フレアは消滅しない。

「があああああ!」

 獣王の体に、消滅呪文フレアが着弾する。
 橙色の球体が破裂し、獣王の体を消滅させていく。

消滅呪文フレア!」

 そんな獣王に、教授はもう一発の消滅呪文フレアを放つ。
 当然、獣王はそれを躱すことができず、二発目が着弾する。
 獣王の体が、どんどんと消滅していく。

「ふはははは!」
「何!?」

 そこで、獣王が突然笑い出した。
 絶体絶命の状況であるというのに、その顔はとても嬉しそうである。
 その様子に、アンナは思わず目を丸めてしまう。

「見事な戦いだった! 今回は、吾輩の負けだ!」

 獣王の消滅は、止まらない。
 その中でも、獣王は大きく声をあげ続ける。
 それは、これから消滅するとは思えない程の声色だ。

「去らばだ! 勇者達よ!」

 その言葉を最後に、獣王の体は全て消滅していった。
 そこには、獣王の一部も残されていない。

「これは……」

 だというのに、アンナはまったく勝った気がしていなかった。
 なぜなら、アンナは感じてしまっていたのだ。獣王の気配を。
 そこにいないはずの獣王が、何故かそこにいるように、感じてしまうのである。

「一体……なんなんだ?」
「恐らく、獣王は死んだ訳ではない」
「教授!?」

 アンナの疑問に答えてくれたのは、教授だった。
 教授は獣王のいた場所に、ゆっくりと近づいていく。

「ここに、獣王はまだいるんだ」
「ここに……? でも、どこにもいませんよ?」
「……彼の再生能力は、それ程に強力なのだろう。例え肉体がなくても……ね」
「そんな……」

 教授の見立てでは、獣王は未だに再生を続けているようだ。
 つまり、獣王は完全に倒せたわけではないのである。
 その事実に、アンナの体は震えてしまう。
 あれでも倒せないなど、本当に恐ろしいと思ったからだ。

「といっても、再生にはかなりの時間がかかると思うよ。何しろ、闘気だけで肉体を再生するのだからね。恐らく、五年はかかるとみていいだろう」
「五年ですか……それなら、なんとか……」

 だが、教授が言ったことで、アンナは一先ず安堵する。
 五年後に再生なら、なんとかなるはずだからだ。

「何はともあれ、これでここでの戦いは終わりだ。王の元へ向かおう」
「はい……」

 教授がそう言い、アンナも頷く。
 こうして、勇者一行と獣王との戦いは終わるのだった。

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