赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第102話 加勢する者達

 アンナ以外の勇者一行は、獣王と対峙している。
 消滅呪文フレアが外れ、カルーナに獣王の一撃が振るわれようとしていた時、教授が現れたのだ。

「教授、どうしてここに?」
「現アストリオン王に頼まれてね。元々、僕が王都に行けなかったのは、元アストリオン王と色々とあったからなんだけど、彼がいなくなったからね」

 カルーナの疑問に、教授が早口で答える。
 教授はエスラティオ女王だけでなく、アストリオン王とも関係があったらしい。

「とにかく、今は目の前にいる敵に集中しよう……獣王を倒さなければならない!」
「そ、そうですね……」

 教授の言葉で、カルーナは獣王に意識を集中させる。

「ふむ、中々だな」

 獣王は教授の一撃によって、左足の先を消滅させられていた。
 これで、獣王の機動力も削れたことになる。

「カルーナ、よく見てみてくれ。獣王の左腕を」
「え?」

 そう思い浮かれていたカルーナだったが、教授の一声で左腕を見た。
 すると、その様子に驚いてしまう。

「か、回復している……?」
「そう、回復が再開しているようだ。どうやら、消滅呪文フレアでも完全に回復を止めることはできないらしい」
「そ、そんな……」

 獣王の左腕が、少しだけ再生しているのだ。
 それは、カルーナにとってかなり衝撃的なことだった。
 せっかく、獣王への有効手段が見つかったというのに、それも通用しないと思ってしまったからだ。

「カルーナ、再生しているが、それでもゆっくりだ。君と僕の消滅呪文フレアで、一気に消滅させるんだ」
「……そうですね」

 しかし、カルーナはすぐに考えを改める。
 例え再生されても、それはゆっくりだ。つまり、再生しきる前に、獣王を倒してしまえばいいのである。

「作戦会議は終わったか?」

 そう思ったカルーナと、教授が同時に構えた時、獣王がそう言った。
 どうやら、カルーナ達が構えるのを待っていたようだ。
 獣王も、自分の体が再生しているはずなので、待つことも無駄ではないのだろう。

「そろそろ、行くぞ!」

 そう言って、獣王は大地を蹴ってカルーナ達の元へ向かって来る。

「させん!」
「俺達がまだ……!」
「はあああっ!」

 そんな獣王に、向かっていく者達がいた。
 ガルス、ツヴァイ、ネーレの三人である。
 彼等は、また魔法が使えるようになるまでの時間を、稼ぐつもりなのだ。

「来たか! だが、予測済みだ!」

 そこで、獣王の体から闘気が放たれた。
 その闘気は、大きな力となって、三人に浴びせられる。

獣王波ビースト・バースト!」
「ぐううっ!」
「ぐわあああ!」
「うわああああ!」

 その衝撃によって、三人は吹き飛ばされてしまう。
 獣王は、それを見ることもなく、カルーナ達の元へと向かって来る。

「カルーナ、あれは僕が引き付けよう」
「教授!?」

 教授がそう言って、獣王に向かっていく。
 つまり、消滅呪文フレアを撃つのは、カルーナに任せるということだ。
 教授は手に集めた魔力を、一気に解き放つ。

麻痺呪文パラライズ!」
「ほう?」

 教授が放ったのは、ティリアも使った麻痺呪文パラライズだ。
 その力によって、獣王の体が停止する。

「ティリア! 君もいけるか!?」
「はい!」

 教授の言葉に、ティリアが動く。

麻痺呪文パラライズ!」

 ティリアも、麻痺呪文パラライズを獣王にかける。
 獣王の体に、二重の麻痺呪文パラライズがかけられたのだ。

「動きを封じれば、いいと思ったか? だが、それでは甘い」

 しかし、獣王は笑う。
 その獣王の体から、闘気が放たれた。
 その闘気は、教授とティリアに振りかかる。

獣王波ビースト・バースト!」
「くっ!」
「きゃあああ!」

 二人の体が、大きく吹き飛ぶ。
 獣王の闘気に、魔法使いの二人は、耐え切れなかったのだ。

「さて、行くぞ!」

 獣王が、カルーナに向かって来る。
 カルーナは、それに対して、魔力を解き放つ。

消滅呪文フレア!」
「ガアアアアア!」

 獣王は、それに対して大きく体を旋回し躱す。
 だが、それはカルーナも予測していたことだ。
 そのため、一撃目は囮だった。

消滅呪文フレア!」
「何!?」

 カルーナは、二発目の消滅呪文フレアを放つ。
 カルーナは、事前に二発放てるだけの魔力を蓄えていたのだ。

「ぐわあああ!」

 その一撃が、獣王の腹を貫き消滅させる。
 獣王の腹に、大きな穴が開いたのだ。そのダメージは、かなりのものだろう。

「うっ……!」

 だが、連続攻撃によるカルーナへの負担も、尋常ではないものだった。
 カルーナはゆっくりと地面に膝をつく。もう、体が動かせないのだ。

「いい一撃だった。だが、二つに分けたせいで、ダメージが減ったようだな」

 そんなカルーナの耳に、絶望的な声が聞こえる。
 獣王はダメージを受けたものの、生きているのだ。
 そして、ゆっくりとカルーナへ向かってきた。

「これで、終わらせよう」
「くっ……!」

 獣王が大きく腕をあげ、カルーナを狙う。
 カルーナに、最早動く力は残っていない。
 さらに、仲間達も先程吹き飛ばされたため、助けに来られない。

「む!?」

 しかし、獣王は手を止めていた。
 その顔は驚きの表情であり、視線は、カルーナの後方に向いているようだ。
 カルーナは、ゆっくりとその方向を振り返った。

「あっ……!」

 その方向を見て、カルーナの顔が明るくなる。
 それは、カルーナが最も待ち望んでいた人だった。

「お姉ちゃん!」
「カルーナ、皆、待たせたね。ここから先は、私が戦う……!」

 そこには、勇者アンナが立っていっていたのだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品