赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第99話 狼魔将ウォーレンス

 アンナは、狼魔団と戦っていた。
 獣王親衛隊の二人を倒したアンナの前に現れたのは、狼魔将ウォーレンスだ。

「くそっ……あの時、お前を葬れていれば、俺は……」

 ウォーレンスはそんなことを呟きながら、爪を立てていた。

 アンナは一度ウォーレンスと戦ったことがある。
 それは、罠に嵌められたアンナを、ガルスが助けてくれた後のことだった。
 その時は、アンナが優勢だったが、ウォーレンスの強さがどれ程かはまだ謎である。

「ウオオオ!」

 ウォーレンスは、一気に駆け出してきた。
 アンナは聖剣を構えて、それを迎え撃つ。

狼の爪ウルフ・スラッシュ!」
「はあああっ!」

 ウォーレンスの爪を、アンナは聖剣で受け止める。

「うおおお!」
「はっ!」

 ウォーレンスは、さらに片方の爪を振るってきたが、アンナはそれも受け止めた。
 タイガとの戦いから、走りながら聖剣を二つにしていたのだ。
 二つの力がぶつかり合う。

「くっ!」
「はあああああ!」

 ウォーレンスの体が、どんどんと後退していく。
 アンナの力に、ウォーレンスは耐え切れなかったのだ。

「くそっ!」

 それを確認し、ウォーレンスはアンナから体を離していく。
 もちろん、アンナはそれを追いかける。

「速い!?」

 ウォーレンスのスピードは、驚くべきものだった。
 アンナが走っても、追い付けない程のものだ。
 前もその足で逃げられていたことを、アンナは思い出す。

「それなら……」

 それがわかったアンナは、手に聖闘気を集中させる。
 タイガの時と同じく、遠距離攻撃を仕掛けるのだ。

聖なる衝撃波セイント・ショット!」

 ウォーレンスに向かって、光の球が進んで行く。

「くそっ!」

 それに対し、ウォーレンスは必死に逃げる。
 だが、光の球はウォーレンスを追いかけていく。

「なんだ!? この球は!?」
「弾けろ! 聖なる光よ!」
「何!?」

 そこで、アンナは聖なる光を弾けさせる。

「ぐわあっ!」

 ウォーレンスの前で、小規模の爆発が起こり、その体が引き飛んでいく。
 アンナは、そのウォーレンスを追いかけるため、大地を蹴る。

「はああっ!」
「く、くそっ!」

 アンナの一撃を、ウォーレンスはぎりぎりで躱してきた。

「まだだ!」
「ぐおおっ!?」

 そんなウォーレンスに、アンナはさらに攻撃を仕掛ける。
 今度は、ウォーレンスの体を少しだけ掠めた。

「くそっ! 負ける訳にはいかないんだよ!」

 そこで、ウォーレンスが動きを変える。
 アンナの方に向かってきたのだ。

「狼魔奥義! 狼重連撃ウルフ・ラッシュ!」
「何!?」

 ウォーレンスは、アンナが聖剣を振るうよりも早く、その爪を振るってきた。

「くっ!」

 突然のことに、アンナは思わず後退する。
 ウォーレンスは、当然追いかけてきた。

「聖なる光よ! 私を守れ!」

 その攻撃に危機感を覚えたアンナは、聖なる光を張り巡らせる。
 それにより、防御するためだ。

「おらっ!」
「くっ!」

 ウォーレンスの連撃が、聖なる光に当たっていく。
 その衝撃に、アンナは思わず声をあげてしまう。

「くそっ!」

 しかし、アンナの驚きに反して、その攻撃の威力は低い。
 ウォーレンスが何度攻撃しても、聖なる光が突き破られることはなかった。
 アンナは、胸を撫で下ろしながら、光の中で息を整える。

聖なる衝撃波セイント・ショット!」

 そして、ウォーレンスの隙をつき、光の球を解き放つ。

「ぐわああっ!」

 聖なる光が、ウォーレンスに当たり、その体を吹き飛ばす。

「聖なる光よ! 剣になれ!」

 アンナは、聖剣を作り出し、ウォーレンスを追っていく。
 ウォーレンスを切り裂き、決着をつけるためだ。

「はああっ!」
「がああああっ!」
「何!?」

 アンナはウォーレンスまで近づき、剣を振るおうとした。
 しかし、その時、ウォーレンスが何かを投げてきたのだ。
 それを見たアンナは、反射的に後退してしまった。

「馬鹿め!」

 その瞬間、ウォーレンスが投げたものが光輝く。
 直後、当たりが灰色の煙に覆われた。

「くっ! 聖なる光よ! 私を守れ!」

 視界を奪われたアンナは、ウォーレンスの攻撃に備え、聖なる光を展開する。
 こうしておけば、ウォーレンスがどこから攻撃してきても、平気なのだ。
 アンナは、周囲を警戒しながら待つ。

「……何?」

 だが、アンナは理解する。
 ウォーレンスが、攻撃するために煙を放ったのではないことを。

「いない……」

 周りの煙が晴れた時に、既にウォーレンスの姿はなかった。
 つまり、ウォーレンスは逃げるために、煙を放ったのだ。
 アンナは歯を食いしばり、大きく叫ぶ。

「ウォーレンス! お前には誇りすらないのか!」

 その声を受け止める者は、誰もいない。
 アンナと狼魔将ウォーレンスの戦いは、ウォーレンスの逃走という形で終わってしまうのだった。

「くっ……」

 アンナは、周囲を見渡す。
 狼魔団とアストリオン王国の兵士は、未だ戦っている。
 将である三人が敗れたため、狼魔団の指揮は下がっていたようだ。
 この戦場の戦いが、終わりを迎えようとしていた。

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