赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~
第86話 次なる戦い
アンナ達は、水魔将フロウとの戦いに勝利した。
そのため、次なる目的地を決めなければならないのだ。
「といっても、道は一つか……」
仲間達の前で、アンナはそう呟く。
現在、四つの国から、魔王軍を退けさせることができた。
実は、魔王軍が攻めている国は、あと一つしかないのである。
「アストリオン王国……俺の故郷か」
それは、ネーレの故郷であるアストリオン王国。世界最大の国力を持つと言われている国だ。
「アストリオン王国は、現在狼魔団に侵攻されているらしい」
次に言葉を放ったのは、レミレアだった。
世界の事情をよく知る者として、アンナ達の話し合いに参加してもらっているのだ。
「狼魔団……それって」
「ああ、ウォーレンスが率いている団だ」
アンナは、その名を聞いて思い出す。
狼魔団を率いているのは、狼魔将ウォーレンスという狼の獣人だ。
その男は、かつてアンナとガルスの戦いに割って入り、卑劣な罠によって二人の命を奪おうとした者である。
「……それなら、大きな問題はないかもしれんな」
そこで、ツヴァイがそんなことを言う。
「……確かにそうかもしれん」
それに続き、ガルスまでもがそう評価した。
アンナも、二人の魔将の意見はおおむね理解することができる。
なぜなら、ウォーレンスの実力は、ガルスと戦った後のアンナ以下であり、その実力なら今のアンナにとっては、相手にならない程だった。
「ウォーレンスのことを、詳しく聞いてもいいかな?」
しかし、詳しくはわからないため、一応聞いてみることにした。
その質問に答えてくれたのは、ガルスである。
「奴の実力は、それ程高くない。かつては、誇り高き戦士であったが、今の奴は保身しか考えていないようだ」
「保身しか考えていない……か」
「ああ、故に奴も、狼魔団も大したものではないと言わざるを得ん」
ガルスの評価は、そういうものだった。
さらに、レミレアが口を挟み、それを補足する。
「確かに、アストリオン王国は悉く狼魔団を退けている。戦況はむしろ有利といえる程だ」
「そうですか……」
アンナは様々な話から、狼魔団のことは問題ないように感じた。
だが、油断してはならないのも事実である。
「さて、狼魔団の話はこれでいいとして、ネーレ、君はどうする?」
アンナは、そこで一度話を切り上げて、ネーレに対して問い掛けた。
彼女が目指しているのは、今から向かうアストリオン王国である。このまま送っていくことはいいとしても、アンナ達に同行する必要はないのだ。
アンナ達と同行するか、それとも自身の家に帰るのか、それは聞いておかなければならなかった。
「私達についてくると、最短で王都に行くことになるけど……その後どうするかを決めてもらいたいんだ」
「王都か……それで、皆は狼魔団と戦うんだよな?」
「ああ、そうなると思うよ」
「それなら、俺も狼魔団と戦うぜ。このブームルドを見て、これ以上奴らの好きにさせたくはないと思ったからな。まあ、勇者パーティの一人じゃなく、ただの兵士一人としてだが……」
ネーレは、狼魔団と戦うことを決意しているようだ。
それなら、目的地は同じである。
「わかった。それなら、一緒に行こう。それと、フロウと一瞬でも渡り合えたネーレなら、充分戦えるはずだよ」
「……ありがとうよ」
こうして、アンナ達の次にやるべきことが決まった。
次の目的地は、アストリオン王国。そこで、狼魔団との戦いが待っているのだった。
◇
アストリオン王国の奥地にて、狼魔将ウォーレンスは悩んでいた。
「くっ! どうすれば……」
ガルスを罠にはめた彼には、アストリオン王国を早急に攻め落とさなければ地位がなくなってしまう。
しかし、そんな彼の事情とは裏腹に、どのように攻めても、アストリオン王国に退けられていた。
「……いっそ逃げるか?」
最早、彼には戦う気力すら、残っていないのだ。そのため、逃亡すら視野に入れていた。
「いや……逃げてどうなる」
ただ、逃げたとしたら、ウォーレンスに残るものはない。
人間からも魔族からも追われ、居場所がなくなる。それでは、今よりもさらに絶望的な状況になるだけだ。
「くそっ……」
そのため、ウォーレンスはその場に立ち尽くすことしかできなかった。
それは、諦めに近いものだ。これ以上、何をしても無駄という気持ちが溢れている。
「悩んでいるようだな……ウォーレンス」
「え?」
そんなウォーレンスの元へ、歩いてくる者がいた。
鍛え上げられたその体は、厚い筋肉に覆われており、その顔は獅子のようである。
「じゅ、獣王様……!」
その男は、ウォーレンスがよく知っている者だった。
獣王、その男は獣人の中でも最強と知られている獅子の獣人である。
かつて、魔王軍に所属しており、その数々の武勲から、獣の王を名乗ることを許されているのだ。
「な、何故こちらに……」
「貴様があまりに不甲斐ないと聞いてな。吾輩が、出てきてやったのだ」
「そ、それは……」
どうやら、獣王はウォーレンスのことを聞きつけてきたらしい。
それは、ウォーレンスにとってはあまりよくない知らせだった。
「これから狼魔団は、俺の指揮によって動く。貴様もそれに従ってもらうぞ」
「そ、そんな……」
獣王がやって来たということは、実質的にウォーレンスの地位はないも同然だ。
「何か問題があるのか?」
「い、いえ……」
しかし、獣王に逆らうことなどできるはずがない。
この時点で、狼魔団団長ウォーレンスは、既に終わってしまったのだ。
「よし、タイガ、ファルコ」
「はっ!」
「お呼びですか!」
獣王の一声で、物陰から二人の獣人が現れる。
一人は、鳥の獣人、もう一人は虎の獣人だ。
彼らのことも、ウォーレンスは知っていた。
「じゅ、獣王親衛隊……」
「久し振りだな……ウォーレンス」
「お前も不甲斐ないものだ。獣王様の手を煩わせるとは……」
タイガとファルコ、彼等は獣王の忠実な部下であり、それぞれがウォーレンス以上の実力を持っている。
彼らも、獣王とともにここに来ていたようだ。
「ウォーレンス、お前はタイガ、ファルコとともに、指揮をとれ。後はそいつらに聞け」
「は、はい……」
こうして、狼魔団は姿を変えた。
それは、今までとはまったく違う姿だ。
アストリオン王国を、かつてない脅威が襲おうとしている。
アンナ達と、狼魔団、二つの集団は動き出すのだった。
そのため、次なる目的地を決めなければならないのだ。
「といっても、道は一つか……」
仲間達の前で、アンナはそう呟く。
現在、四つの国から、魔王軍を退けさせることができた。
実は、魔王軍が攻めている国は、あと一つしかないのである。
「アストリオン王国……俺の故郷か」
それは、ネーレの故郷であるアストリオン王国。世界最大の国力を持つと言われている国だ。
「アストリオン王国は、現在狼魔団に侵攻されているらしい」
次に言葉を放ったのは、レミレアだった。
世界の事情をよく知る者として、アンナ達の話し合いに参加してもらっているのだ。
「狼魔団……それって」
「ああ、ウォーレンスが率いている団だ」
アンナは、その名を聞いて思い出す。
狼魔団を率いているのは、狼魔将ウォーレンスという狼の獣人だ。
その男は、かつてアンナとガルスの戦いに割って入り、卑劣な罠によって二人の命を奪おうとした者である。
「……それなら、大きな問題はないかもしれんな」
そこで、ツヴァイがそんなことを言う。
「……確かにそうかもしれん」
それに続き、ガルスまでもがそう評価した。
アンナも、二人の魔将の意見はおおむね理解することができる。
なぜなら、ウォーレンスの実力は、ガルスと戦った後のアンナ以下であり、その実力なら今のアンナにとっては、相手にならない程だった。
「ウォーレンスのことを、詳しく聞いてもいいかな?」
しかし、詳しくはわからないため、一応聞いてみることにした。
その質問に答えてくれたのは、ガルスである。
「奴の実力は、それ程高くない。かつては、誇り高き戦士であったが、今の奴は保身しか考えていないようだ」
「保身しか考えていない……か」
「ああ、故に奴も、狼魔団も大したものではないと言わざるを得ん」
ガルスの評価は、そういうものだった。
さらに、レミレアが口を挟み、それを補足する。
「確かに、アストリオン王国は悉く狼魔団を退けている。戦況はむしろ有利といえる程だ」
「そうですか……」
アンナは様々な話から、狼魔団のことは問題ないように感じた。
だが、油断してはならないのも事実である。
「さて、狼魔団の話はこれでいいとして、ネーレ、君はどうする?」
アンナは、そこで一度話を切り上げて、ネーレに対して問い掛けた。
彼女が目指しているのは、今から向かうアストリオン王国である。このまま送っていくことはいいとしても、アンナ達に同行する必要はないのだ。
アンナ達と同行するか、それとも自身の家に帰るのか、それは聞いておかなければならなかった。
「私達についてくると、最短で王都に行くことになるけど……その後どうするかを決めてもらいたいんだ」
「王都か……それで、皆は狼魔団と戦うんだよな?」
「ああ、そうなると思うよ」
「それなら、俺も狼魔団と戦うぜ。このブームルドを見て、これ以上奴らの好きにさせたくはないと思ったからな。まあ、勇者パーティの一人じゃなく、ただの兵士一人としてだが……」
ネーレは、狼魔団と戦うことを決意しているようだ。
それなら、目的地は同じである。
「わかった。それなら、一緒に行こう。それと、フロウと一瞬でも渡り合えたネーレなら、充分戦えるはずだよ」
「……ありがとうよ」
こうして、アンナ達の次にやるべきことが決まった。
次の目的地は、アストリオン王国。そこで、狼魔団との戦いが待っているのだった。
◇
アストリオン王国の奥地にて、狼魔将ウォーレンスは悩んでいた。
「くっ! どうすれば……」
ガルスを罠にはめた彼には、アストリオン王国を早急に攻め落とさなければ地位がなくなってしまう。
しかし、そんな彼の事情とは裏腹に、どのように攻めても、アストリオン王国に退けられていた。
「……いっそ逃げるか?」
最早、彼には戦う気力すら、残っていないのだ。そのため、逃亡すら視野に入れていた。
「いや……逃げてどうなる」
ただ、逃げたとしたら、ウォーレンスに残るものはない。
人間からも魔族からも追われ、居場所がなくなる。それでは、今よりもさらに絶望的な状況になるだけだ。
「くそっ……」
そのため、ウォーレンスはその場に立ち尽くすことしかできなかった。
それは、諦めに近いものだ。これ以上、何をしても無駄という気持ちが溢れている。
「悩んでいるようだな……ウォーレンス」
「え?」
そんなウォーレンスの元へ、歩いてくる者がいた。
鍛え上げられたその体は、厚い筋肉に覆われており、その顔は獅子のようである。
「じゅ、獣王様……!」
その男は、ウォーレンスがよく知っている者だった。
獣王、その男は獣人の中でも最強と知られている獅子の獣人である。
かつて、魔王軍に所属しており、その数々の武勲から、獣の王を名乗ることを許されているのだ。
「な、何故こちらに……」
「貴様があまりに不甲斐ないと聞いてな。吾輩が、出てきてやったのだ」
「そ、それは……」
どうやら、獣王はウォーレンスのことを聞きつけてきたらしい。
それは、ウォーレンスにとってはあまりよくない知らせだった。
「これから狼魔団は、俺の指揮によって動く。貴様もそれに従ってもらうぞ」
「そ、そんな……」
獣王がやって来たということは、実質的にウォーレンスの地位はないも同然だ。
「何か問題があるのか?」
「い、いえ……」
しかし、獣王に逆らうことなどできるはずがない。
この時点で、狼魔団団長ウォーレンスは、既に終わってしまったのだ。
「よし、タイガ、ファルコ」
「はっ!」
「お呼びですか!」
獣王の一声で、物陰から二人の獣人が現れる。
一人は、鳥の獣人、もう一人は虎の獣人だ。
彼らのことも、ウォーレンスは知っていた。
「じゅ、獣王親衛隊……」
「久し振りだな……ウォーレンス」
「お前も不甲斐ないものだ。獣王様の手を煩わせるとは……」
タイガとファルコ、彼等は獣王の忠実な部下であり、それぞれがウォーレンス以上の実力を持っている。
彼らも、獣王とともにここに来ていたようだ。
「ウォーレンス、お前はタイガ、ファルコとともに、指揮をとれ。後はそいつらに聞け」
「は、はい……」
こうして、狼魔団は姿を変えた。
それは、今までとはまったく違う姿だ。
アストリオン王国を、かつてない脅威が襲おうとしている。
アンナ達と、狼魔団、二つの集団は動き出すのだった。
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