赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第82話 さっきまでの自分

 アンナ達は、水魔将フロウと対峙している。
 フロウの分身に苦しめられていたアンナ達だったが、ガルスが現れたことによって、形勢が逆転したかのように見えた。

「私達自身との戦い……」

 しかし、フロウの次なる手は、アンナ達を動揺させるものであった。
 フロウの分身は、アンナ達それぞれの姿に変わったのだ。

「俺達と同じ力を持っているというのか……」
「その通り、俺はお前、お前は俺だ」

 フロウの言葉が真実なら、それは姿だけでなく、能力まで同じらしい。

「能力が同じ……? そんなはずない……」

 そこで、疑問を感じたのはカルーナだった。
 フロウは、先程まで闘気による攻撃を行っていたはずだ。闘気と魔法は、同時に使うのが難しいものである。
 ツヴァイのような例外もいるが、今まで使っていないことから、フロウは魔法が使えないはずだ。
 そのツヴァイが作り出したものが、魔法を使えるとは思えなかった。

「魔法と使えないはずのフロウが、私の魔法を再現できるの?」
「試してみる?」

 カルーナの疑問に、分身カルーナがそう煽ってくる。

「そうだね……」
「くるみたいだね……」

 カルーナは、自分の疑問を確かめるために、その挑発に乗ることにした。
 自身の手に、魔力を集中させ、火球を形作る。

小さなリトル紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 カルーナの手から、小さな火球が放たれた。

小さなリトル紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 それと同時に、分身カルーナも火球を放ってくる。
 二つの火球は、ぶつかり合って、弾け飛んだ。

「そんな……どうして魔法を……?」

 その光景に、カルーナは目を丸くする。
 魔法使いのカルーナは、今の魔法が本物であるとわかった。それが、カルーナの疑問を加速させたのだ。

「言ったはずだよ……私は、あなた自身。あなたが使える魔法は、私も使えるの」
「でも、フロウは魔法が使える訳じゃないはず……」
「確かに、フロウは魔法を使えない。だけど、水の鏡アクア・ミラーは相手の力を完全にコピーする。もちろん、魔力も……」

 分身カルーナの言葉が、真実であると、カルーナは思った。
 先程魔法を見せられてしまったため、そう思わざるを得ないのだ。

「最も、この状態ではフロウとしての力は使えないけどね。本当にあなたと同じ、魔法は使えても、闘気は使えない……」
「本当に私自身ということだね……」

 カルーナは、頭の中で必死に考える。自分自身とどう戦うかを。

「さて、俺達もそろそろ始めるとするか……」
「……まさか、本当に俺と同等の力とはな……」

 ガルスも、カルーナの戦いは見ていた。
 故に、相手が自身と同等の力を持っていることを確信する。

「ふん!」
「来るか!」

 しかし、考えていても答えは出ないため、ガルスは駆け出す。
 とにかく攻撃し、活路を切り開くためである。

竜人拳リザード・ナックル!」
竜人拳リザード・ナックル!」

 ガルスの拳と、分身ガルスの拳がぶつかり合う。
 その衝撃で、二人は大きく後退する。

「くっ!」
「くっ!」

 二人は、同じように体勢を立て直し、再び相手に向かっていく。

竜人脚リザード・レッグ!」
竜人脚リザード・レッグ!」

 ガルスと分身ガルスは、同時に蹴りを放つ。
 その攻撃によって、また二人は吹き飛んでいく。

「やはり……同じ力か」
「その通り、俺はお前自身だからな……」

 分身ガルスの攻撃が、自身の攻撃とまったく同じであることを、ガルスは感じていた。
 さらに、相手の攻撃が手にとるようにわかるが、自身の攻撃も相手に悟られていることを理解する。
 本当に、自分自身と戦っているのだと、ガルスは実感するのだった。

「さて、私達も戦おうか……」
「私と……同じ力……」

 アンナも、カルーナやガルスの戦いを見ており、相手が自身と同じ力だと理解している。
 そのため、相手に対する警戒はかなり高まっていた。

「来ないなら、こちらから行くぞ!」

 考え続けているアンナに、分身アンナが襲い掛かってくる。
 アンナは、聖剣を構え、その攻撃を迎え撃つ。

「はああ!」
「はっ!」

 聖剣がぶつかり合って、重なり合う。
 その衝撃によって、二人の体が後退していく。
 やはり、力は互角のようだ。

「本当に、今の私と同じ力を持っているようだね……」
「そうだね……私とあなたは同じ力。だから、あなたは私を倒すことができない……」
「……どうかな」

 分身アンナの言葉に、アンナは笑う。
 その様子に、分身アンナは目を丸くする。

「何故、笑うんだ……勝てないというのに」
「勝てない……それは、違う」
「何……?」
「私は今まで、自分より強い者達と戦ってきた。それに比べれば、あなたなんて怖くない」

 アンナは心の中で、今までの戦いを振り返っていた。
 思い返してみれば、アンナが戦ってきた魔将は、全員アンナよりも強かったはずだ。
 それを思えば、目の前にいる分身アンナなど、大したことがないように感じるのである。

「……でも、勝てないことに変わりはない。あなたは、私を倒せない」

 アンナの言葉に何かを感じたのか、分身アンナが駆けだした。
 そして、アンナに向かって、聖剣を振るってきたのだ。

「はあああ!」
「はあああ!」

 二つの聖剣がぶつかり合い、大きな衝撃が起こる。
 その力は、同等のものであるはずだった。

「うわあああっ!」

 しかし、吹き飛ばされた者はただ一人。
 それは、分身アンナであった。

「な、何故……」

 分身アンナは、自身に起こったことに目を丸くする。
 同等の力を持つ自分が、競り負けることなど、あるはずがないと思っていたからだ。
 だが、事実として、分身アンナは負けた。それが理解できないのである。

「私と同じだというのに、わからないのか?」
「なっ……!」

 分身アンナは、思考能力も、アンナと同等であるはずだった。
 しかし、今のアンナが何をしたが思いつかないのだ。そのことが、分身アンナをさらに困惑させる。

「どうやら、上っ面をコピーしただけのようだな……」
「そ、そんなはずはない……」

 分身アンナは、再び立ち上がり、アンナへと向かっていった。

「はああああ!」
「やああああ!」
「ぐはあっ!」

 しかし、分身アンナの攻撃が届くことはない。
 アンナのカウンター攻撃によって、その身を切り裂かれてしまったのだ。

「そ、そんなはずはない……」
「お前がコピーしたのは、さっきまでの私だ。生きているものは、常に進化を続ける。さっきまでの私など、すでに通り過ぎたんだ」
「そ、そんな!」

 バランスを崩した分身アンナに、アンナが向かっていく。
 アンナは、この短時間で成長していた。戦いの中で、常に成長する。それは、今までアンナがしてきたことだった。
 その成長は、分身アンナが追い付けない程、速いものだったのだ。

「これで終わらせる……!」
「くっ……!」
十字斬りクロス・スラッシュ!」
「ぐわああああっ!」

 アンナの攻撃に、分身アンナを切り裂いた。
 最早、分身アンナは、アンナの攻撃を受けることしか、できなかったようだ。

「これが……本物の、力……か……」

 分身アンナの傷口から、水が噴き出てきた。
 だんだんと、その形が崩れていく。

「……」

 そして、分身アンナは 水の柱に変わり、地面に流れていった。

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