赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第76話 心強い援軍

 カルーナは、オルフィーニ王国の中心都市ブームルド内を駆け抜けていた。
 カルーナの目的は、都市を浸水させている即席インスタント・水没器ウォーターを破壊することだ。
 水魔団の兵士には、なんとか見つからず、目的地まで着くことができた。あまり、この辺りには、兵が配置されていなかったようだ。

「あれは……!」

 走っているカルーナは、青い球体を捉えた。
 あれこそが、即席インスタント・水没器ウォーターである。

「あの! 助けて……」
「……人間?」

 その近くには、若い女性が立っていた。その人物が、カルーナを呼んでいる。どうやら、助けを求めているようだ。
 
「待って……?」

 そこで、カルーナは違和感を覚えて、足を止める。
 この都市に住んでおり、魔族の手から逃れた人間が、こんな所にいるだろうか。少なくとも、隠れていると考えるのが普通だ。

「どうしたんですか!? 助けてください!」

 よく考えれば、周りに魔族がいないのもおかしい。
 即席インスタント・水没器ウォーターの護衛に、一人や二人くらいはいるはずである。

「あなたは……何者?」
「ふっ……」

 カルーナが放った言葉に、女性は笑う。
 それは、邪悪な笑みであり、とても助けを求める人間には見えなかった。

「ばれていたなら、仕方ないわね……」

 そこで、女性が指を鳴らす。
 それを合図に、物陰から何人もの魔族が現れた。

「罠のつもりだったの?」
「余興よ。あなたが引っかかってくれなくて残念だったけどね」

 女性が身を翻し、その姿を変える。
 その姿は、カルーナにとって見覚えがあるものだった。

「セイレーン?」

 人間と同じ上半身に、魚の下半身。
 それは、カルーナが以前戦ったセイレーンのピュリシスとよく似た姿だった。

「違うわ。私はメロウ……メロウのトーレノ」

 しかし、トーレノと名乗った女の放った言葉が、それを否定する。 
 カルーナに違いはわからないが、別の種族のようだ。

「あなたの命は、ここで終わり……いきなさい! 我が兵達よ!」
「くっ……!」

 トーレノの合図で、現れた魔族達が、カルーナに襲い掛かってくる。
 カルーナは大きく後退し、それから逃げ出す。

「逃げるか……!」

 カルーナでも、流石にその人数を相手するのはきつかった。
 そのため、逃げながら攻撃し、数を減らそうと思ったのだ。
 そう思い、カルーナが手に魔力を込めていた時だった。

「魔力はまだ取っておいた方がいいぞ!」
「え?」

 カルーナの後方から、声が聞こえる。
 その声は、カルーナもよく知っている声だった。

白金の衝撃プラチナ・ブラスト!」

 カルーナの前に、白金の鎧が現れ、その剣を振るう。
 白金色の衝撃波が、カルーナの前方にいる魔族達を吹き飛ばす。
 カルーナは目を丸くしながら、声をあげる。

「プラチナス!」
「久し振りだな……カルーナ」

 カルーナを助けたのは、鎧魔団副団長であったはずのプラチナスだった。

「そやつだけではないぞ……」
「え?」

 またもよく知る声を聞き、カルーナは後ろを振り返る。

「じょ、女王様!?」

 そこには、エスラティオ王国の女王レミレアが立っていた。

「レミレア女王、下がっているように言ったはずです……」
「そう言うな、プラチナス。妾も、戦えるのだぞ?」
「……そもそも、私は同行するのも反対だったんです。どうか、大人しくして頂けませんか?」
「そなたも手厳しいな……」

 レミレアとプラチナスは、そんな風な会話をする。
 その様子に、カルーナは困惑するばかりだった。

「どうして、ここに……?」
「少し前に、オルフィーニ共和国の危機を聞いてな。イルドニア王国は戦闘の後処理で援軍を送るのが困難、アストリオン王国は、現在侵攻されておる。故に、妾の国が力を貸すことになったのだ」
「ということは……!」

 レミレアの言葉に、カルーナは喜んだ。
 その言葉の通りなら、このブームルドに援軍が駆け付けたということである。
 これで、水魔団との戦いが、かなり楽になるのだ。

「でも、どうしてプラチナスが……」
「そやつは、人質として捕まえていたが、特に抵抗もせずおとなしかったのでな。なら、いっそのこと戦力として使うかと思い、ここに連れてきた訳だ」
「私は、ツヴァイ様に忠誠を誓っている。故に、君達に手を貸すのはまったく問題ない」

 プラチナスが手を貸しているのは、ツヴァイが勇者側についたからのようだ。
 カルーナは、プラチナスの強さをよく知っているため、これ程心強い味方はいなかった。

「カルーナ、ここは私に任せて、君は先に行け」
「え?」
「水魔将は強い。勇者を助けるんだ……」
「……わかった、よろしく!」

 プラチナスの言葉で、カルーナは駆け出す。
 その提案は、カルーナにとっても受け入れやすいものだった。

「行かせるわけには……」
「……邪魔はさせない」

 そのカルーナを、トーレノが妨害しようとしたが、プラチナスが迫ったことで、それを中断せざるを得なかった。

「裏切り者が、鬱陶しいわね……」
「先にツヴァイ様の心を裏切ったのは、魔族の方だ。私は、ただ主君とともにあったまで……」

 そこで、プラチナスが剣を大きく振るう。

「くっ!」

 トーレノは、再び人間の姿に変身し、それを躱した。

「なるほど、まだ君の得意な水中ではないからか」
「く……」

 現在、地面は水で浸かっているが、それは足元だけであり、泳ぐことは到底できない。
 そのため、トーレノは機動力がある人間の姿に変身したのだろう。
 プラチナスは、それを追うとしたが、そこでトーレノが手を構えた。

水の弾丸ウォーター・バレット!」

 その手から、水の球体が放たれる。
 プラチナスは、一度そこで足を止め、体を輝かせた。

反射リフレクト!」

 プラチナスに当たった球体が、そのまま跳ね返り、トーレノに向かっていく。
 魔法マジック・反射《リフレクト・》装甲《アーマー》、魔法を跳ね返すプラチナスの持つ強力な武器だ。

「くっ!」

 トーレノは、跳ね返った水の球体を躱しながら、声をあげる。

「厄介な体だ……」
「そうだろう、君達魔法使いにとって、この体は脅威となる……」
「くっ……ならば……」

 そこでトーレノは再び手を構えた。

水の弾丸ウォーター・バレット!」

 その手から、水の球体が放たれる。

「ふん!」
「何!?」

 そこで、プラチナスは魔法マジック・反射《リフレクト・》装甲《アーマー》を使わず、その球体を躱した。
 さらに、そのままの勢いでトーレノに迫っていく。

「ば、馬鹿な、何故反射リフレクトを使わない!?」
「私が、反射リフレクトできることを知っていながら、魔法攻撃をする。それには何か意図があるはずだ。つまり、わざわざ使う必要はない!」

 プラチナスは、カルーナとの戦いによって、そんな結論にいきついたのだ。魔法使いであっても、決して油断しない。それが今のプラチナスである。

「だ、だが、それでも……水の牢獄ウォーター・プリズン!」
「何!?」

 そこで、プラチナスの周りが水によって包まれる。
 そのことで、プラチナスの体が停止した。

「……ふふふふ! その牢獄は体が重いあなたでは抜け出せない! これで終わりよ!」

 トーレノはそう言って笑う。
 確かに、プラチナスは動けなかった。まるで、水の中に沈んでいくような感覚だ。
 体が重いリビングアーマーにとって、水中は天敵だった。水の動きが速かったため、反射リフレクトが間に合わなかったが、これは窮地なのだろう。

「以前までの私なら……このまま動けなかっただろうな」
「何……?」
「私の体は、ツヴァイ様によって再構成された。つまり、今の私はリビングアーマーを超越した存在なのだ」

 プラチナスの体が光輝き、変化する。
 輝きが止むと、そこには白金色の髪をした男性が現れていた。男性は、角と羽、さらには尻尾が生えており、肌色の肌をしている。

「これが、私の半人半魔ハーフの姿!」
「な、何!?」

 半人半魔ハーフとなったプラチナスは、水を軽々と通り抜け、その剣を振るう。 

白金の衝撃プラチナ・ブラスト!」
「ぐぎゃあああ!」

 魔法と闘気が混ざった白金色の衝撃は、トーレノの体を破壊するのだった。

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