赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第75話 水没する都市

 アンナ達は船によって、オルフィーニ共和国に辿り着いていた。
 ガルスの予想では、この国に何かが起こっているらしい。
 事実、アンナ達の着いた村も、何か騒がしかった。

「ちょっと、聞いてみよう」

 アンナは、近くの村人に現状を聞いてみることにする。

「すみません……何か、あったんですか?」
「なっ! あんた達、旅行者か!? すぐに逃げた方がいいぜ!」
「え?」
「この国は、もうおしまいだ。中心都市のブームルドまで、水魔団が侵攻したんだ!」
「なっ……!」

 村人は、それだけ言って駆けて行った。
 告げられた事実は、思っていたよりも恐ろしいことである。
 この国は、危機的状態にあるようだ。

「中心都市まで侵攻って、そんな……」
「俺の勘が当たっていたか……」
「お姉ちゃん……どうする?」

 カルーナの質問に、アンナは考える。
 もちろん、水魔団と戦うのは最初からわかっていたことだ。だが、現在の状況は、アンナ達が圧倒的に不利である。

「この人数で……」

 水魔団に中心都市まで侵攻されているということは、オルフィーニ共和国の軍隊は壊滅しているだろう。
 そのことから、水魔団とアンナ達だけで戦わなければならないのだ。つまり、数だけでも、違い過ぎるということである。

「……だけど」

 しかし、このままでは、オルフィーニ王国はさらに崩壊することになるだろう。いち早く、水魔将を討ち取り、王国を取り戻さなければならなかった。

「やるしかないか……」
「うん……行こう、お姉ちゃん」

 アンナは、ブームルドに向かうことに決める。
 それに反対する者はいなかった。
 ただ、一人だけ同行者でしかない者がいる。

「ネーレ、私達はブームルドに向かう。だから、ここで……」

 アンナは、ネーレに逃げるよう告げようとした。
 だが、アンナが全てを言う前に、それを否定される。

「いや、俺も行くぜ……」
「え?」

 ネーレが、同行を宣言したからだ。
 そのことに、アンナは驚いた。

「同行って……その意味がわかっているのかい?」
「もちろんだ……魔王軍と戦うんだろ」

 アンナ達についていくのは、戦場の真ん中に飛び込むということだ。
 ただの家出少女が、そんな所についてくるのは、アンナには信じられなかった。

「俺も、お前達程じゃないが、戦えるぜ……戦力は一人でも多い方がいいだろ?」
「それは……」

 確かに、ネーレの言う通り、今は戦力が足りていない。そのため、その提案はありがたいものでもあるのだ。

「……わかった。同行を許す。けど、私達も助けられるわけじゃない……」
「大丈夫さ。逃げ足は速いんだ」

 こうして、アンナ達は馬車によってブームルドへ向かっていった。





 アンナ達は、馬車で数時間かけてブームルド付近の村まで辿り着いた。
 ここで、一度体勢を立て直し、ブームルドに行く予定だ。
 だが、そこでアンナ達は気づく。

「どうやら、まだ完全に陥落してはいないようだな……」

 ガルスが現状を分析して、そう呟いた。
 ブームルドからは、色々な音が響いており、戦闘の最中であるようだ。
 つまり、まだ水魔団に、抵抗している者達がいるということである。

「馬達は、ここに置いていこう。まずくなったら、逃げるはずだ……」

 アンナは、二頭の馬を見ながら、そう呟く。

「ブルル」
「ヒヒン」

 そして、二頭の馬を馬車から解き放つ。
 これで、いつでも逃げることができるだろう。

「ならば、全員俺の近くに来い。あの都市には、空から侵入する」

 そこで、ツヴァイがそう言った。
 ブームルドの周りは、大きな壁によって囲まれている。それを超えるため、ツヴァイが飛んで皆を運んでいくのだ。

変化チェンジ・ランス

 ツヴァイが呟き、魔人の鎧槍アーマード・ランスを鎧から槍へと変化させた。
 そのことで、ネーレが目を丸くする。

「なっ……悪魔!?」
「……俺は、悪魔ではない。最も、人間でもないがな」
「ツヴァイは、私達の味方だよ。そっちのガルスだってそうさ」
「え?」

 アンナの言葉に、ガルスは自らのマントを投げ放つ。
 ネーレの驚きが、さらに加速する。

「リ、リザードマン!?」
「大丈夫、落ち着いて……」
「……あ、ああ」

 ネーレは驚いたものの、すぐに落ち着いてくれた。
 非常であるため、細かいことを聞くのをやめたのだろう。

「皆、ツヴァイの近くに……」

 アンナの言葉で、全員ツヴァイに近づく。
 すると、ツヴァイの体から微量の電気が漏れてくる。

「この電気で、全員を繋ぐ……」
「うん……」

 電気によって、アンナ達とツヴァイの体が繋がれていく。
 それに合わせて、ツヴァイが羽を広げる。

「いくぞ!」

 ツヴァイが飛び立つと同時に、アンナ達も上へと引っ張られていく。
 そのまま、ツヴァイは進み、アンナ達は外壁の上部へと辿り着いた。

「なっ! なんだ! あれは!?」

 そこでアンナ達は、目を丸くする。
 ブームルドの各地点に、青い結晶があり、その結晶から水が溢れているのだ。
 そのことで、地面には水が溜まっており、足が浸かってしまう程であった。

「あれは、即席インスタント・水没器ウォーター……」
「ガルス、知っているの?」
「ああ、あれは、水に属する魔族がよく使う、水を呼びだすものだ。このままでは、この都市は水没してしまう」
「そんな……!」

 ガルスの言葉に、アンナは理解する。
 都市が水没してしまえば、ここで戦うことなど不可能だ。
 つまり、まずその即席インスタント・水没器ウォーターをなんとかしなければならない。

即席インスタント・水没器ウォーターは、全部で四個あるようだ。その付近に、強い気配を感じる……」
「四個か……なら、四手に分かれるということか」

 ガルスが、即席インスタント・水没器ウォーターのあるらしい所を指さした。アンナ達は分担し、それを破壊することに決める。

「なら、俺とガルス、アンナとカルーナは別れるべきだろう。戦力としては、その方がいい……」
「そうだね……ティリアとネーレは……」
「二人は、アンナについていけ。要は勇者だ」
「ツヴァイ……」

 分担をツヴァイがまとめたが、それにアンナは目を丸くした。
 なぜなら、ツヴァイがティリアを自分に同行させようとしなかったからだ。

「いいの? ティリアは……」
「構わん……ここまで連れてきた以上、一番できることをさせるべきだ」

 アンナの言葉に、ツヴィアはそう答えた。これも、彼なりの決意なのだろう。

「わかった……それじゃあ、下に行こう」
「ああ、いくぞ……!」

 ツヴァイが飛び降りるとともに、アンナ達も下に降りていく。
 やがて、水に浸された地面に着地する。

「地面が……」

 水は、足首が浸かる程であり、その冷たさが伝わってきた。

「……気をつけろ。水は、水魔団の得意分野だ……」
「うん……」

 ガルスの言葉に、アンナはゆっくりと頷く。

「それじゃあ、皆、行こう!」
「お姉ちゃん、皆……きっと無事で」
「ティリア、お前も充分に気をつけろ」
「はい、兄さん……」
「では、行くとするか」
「なるほど、これが勇者一行か……」

 それぞれ言葉を放った後、アンナ達は散らばった。
 目指すは即席インスタント・水没器ウォーター
 アンナ達は、それぞれ駆け出し、それがある地点に向かうのだった。

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