赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第64話 毒魔将の力

 アンナは、ラミアナと対峙していた。
 ラミアナは、近くにいたティリアを巻き込まず、正々堂々、アンナと戦うつもりのようだ。
 その意思は、とても気高いものだとアンナは感じた。

「ラミアナ……あなたはとても気高い戦士だ」
「む……?」
「だから、こっちも正面から行かせてもらう!」

 アンナは、大地を踏み出し、ラミアナに向かっていく。

「来るか!?」

 ラミアナは、その二本の剣を構えた。
 アンナは、それを見て、考えを巡らせる。

「聖なる光よ!」

 ラミアナの二刀流は、非常に強力なものだ。
 一本の剣しかないアンナには、その両方に対応することができない。
 そのため、アンナは聖なる光を両手に分散させていく。

「二本の剣になれ!」
「何!?」

 アンナの両手に、聖なる光が剣となって握られた。
 相手が二刀流なら、こちらも二刀流で対抗する。
 それがアンナの出した答えだった。

「はあああっ!」
「ふん!」

 アンナの一刀目が、ラミアナの剣とぶつかる。

「やあああああ!」
「くっ!」

 その直後、二刀目が放たれ、こえもまた受け止められた。

「くうっ……」
「なるほど……考えたようだな」
「うっ……」

 ラミアナの剣に力が加えられ、アンナの体が後退していく。

「だが、即席で二刀流など、できる訳がない!」
「ぐわあっ!」

 アンナの体が、大きく吹き飛ぶ。
 日頃から、二刀流で戦っているラミアナに比べ、アンナの二刀流は浅かった。
 そのため、力は拮抗せず、アンナは吹き飛ばされてしまったのだ。

「くっ!」

 アンナはすぐに着地し、体勢を整えた。
 結果的に、返り討ちとなったものの、アンナは今の行動が無駄でなかったことを確信する。
 なぜなら、一瞬とはいえ、ラミアナと渡り合えたからだ。つまり、この二刀流は、一手として使えるということになる。
 それがわかっただけでも、アンナにとっては収穫なのだ。

「いくぞ!」
「来るか!」

 アンナは、大地を蹴り駆け出した。
 ラミアナは、それに対して再び剣を構える。

「はああああああ!」
「ふっ! 同じことだ!」

 アンナの一刀目を、ラミアナが受け止めた。
 アンナは、すかさず二刀目を振るう。

「やああああああああ!」
「その程度! ……何!?」

 そこで、ラミアナは目を見開いた。
 アンナは、二刀目の聖剣から、手を離していたのだ。
 ラミアナにとって、剣とは形ある武器だが、アンナにとっては違う。聖剣とは、聖なる光であり、それは変幻自在の武器なのだ。
 ラミアナの剣が、その聖剣に当たる前に、光となってアンナの手元に戻っていく。

「聖なる光よ! 再び、集い、剣となれ!」
「こ、これは!?」

 アンナの手に、再び聖剣が形作られていった。

「これが私の……二刀流だ!」
「くっ!」

 アンナは、作り直した聖剣でラミアナを切り裂く。
 ラミアナは、アンナの作戦によって、防御できなくなっていた。

「やああああああああ!」
「ぐぬううっ!」

 ラミアナの腹部に、アンナの聖剣が当たる。

「くううっ!」
「ぬううっ!」

 その体は、固い皮膚と闘気で覆われており、聖剣がそれ以上切り裂くことはできなかった。
 しかし、剣による衝撃が、ラミアナの体を大きく揺さぶる。

「がはっ!」
「うっ!?」

 その瞬間、ラミアナの口が大きく開かれた。
 さらに、その口から紫色の液体が飛び出してきたのだ。
 直感的に、アンナはそれを浴びるとまずいと思った。
 だが、攻撃を終えた後のアンナの体は、回避行動を行えない。

「く……あ?」
「何……まさか!?」

 アンナの体に、紫の液体が振りかかる。
 その瞬間、アンナの体に痛みと痺れが襲ってきた。

「ど……く……!?」

 アンナは、自分がラミアナの放った毒に侵されたことを理解する。
 毒の侵攻は、かなり早く、アンナは体がどんどんと動かなくなるのを実感していた。

「うおおおおお!」

 アンナは、残る力を振り絞り、一気にラミアナから距離をとる。
 それで、どうにかできるかわからないが、今接近しているのは、危険だと判断したのだ。

「はあ、はあ……」
「アンナさん!」

 後退したアンナに、ティリアが駆け寄ってくる。
 とても危険であり、正々堂々ではないが、今は彼女を頼るしか、アンナにはできなかった。
 ティリアの回復魔法なら、この毒を祓えるかもしれない。
 そして、それが成功しなければ、アンナは確実に負けてしまうだろう。

「馬鹿な……」

 そこでアンナは、初めてラミアナの方を見る。
 ラミアナは、目を丸くして、茫然と立ち尽くしていた。

「私は……なんてことを!」

 ラミアナは何故か頭を抱えている。その剣を落とし、下を向いているのだ。

「誇り高き戦士である私が、毒に……毒に頼るなど……」

 どうやら、ラミアナは自らが放った毒について、後悔しているらしい。
 毒に頼るという行為が、戦士として許さないようだ。

回復呪文ヒール……」
「うっ……」

 ラミアナがそうなっている隙に、ティリアがアンナに回復魔法をかけていた。
 しかし、アンナの体から毒は抜けない。相当強力な毒であるようだ。

「我が毒は……とても強力なもの、相手の自由を奪い、ゆっくりと蝕むものだ……」
「えっ……」

 ティリアが回復魔法をかけ続けていると、ラミアナが立ち直っていた。
 地に落ちた剣を拾い、ゆっくりとアンナ達の元に向かっている。

「その苦しみはかなりのもの……せめても情けだ。楽にしてやろう。お前との戦いが、こんな形で終わるのは残念だが、仕方ない……」
「そ、そんな……」
「く……そ……」

 ラミアナは、アンナを仕留めるつもりのようだ。
 それが、どのような意味であれ、アンナが殺されることに変わりはない。

「だ、駄目……」
「……お前にできることなどありはしないぞ……」

 ティリアは、回復魔法をかけつつ、アンナを自分の後ろに回した。
 戦う力のない自分よりも、アンナを優先するためだ。

「ティ……リ……ア……」
「アンナさん……少しでも長く、回復を……」

 ティリアも、それが無駄なことはわかっている。
 だが、そうするしか方法がないのだ。

「……ならば、二人一緒に葬ってやろう」

 ラミアナが、剣を振りかぶった。
 そして、二人目がけて、剣が下ろされる。




――キンッ!




 しかし、二人の体が剣で切り裂かれることはなかった。

「な、何!?」
「……」

 ラミアナと二人の間に、謎の人物がいる。
 その人物のまとう漆黒の鎧によって、剣は防がれていた。

「な……何者だ」
「……久し振りだな、毒魔将」
「その声は……!」

 その声は、アンナとティリアも聞き覚えがあるものだ。

「鎧魔将……ツヴァイ!」

 そこには、依然とは少し異なる鎧をまとったツヴァイが立っていた。

「に、兄さん……? 生きて……」
「ティリア、話は後だ。とにかく今は、アンナを連れて下がっていろ……こいつの相手は俺がする」
「兄さん……だけど」

 突然訪れた兄との再会に動揺しつつも、ティリアは現状を分析する。
 これは、ツヴァイとの戦いでのガルスと同じ状況であった。
 つまり、ツヴァイの体は本調子ではない。それは、ティリアにすら理解できることだった。

「問題ない……ガルスも、俺に立ち向かったのだ。俺も同じことをするだけだ!」
「むうっ!」

 ツヴァイは、その体をラミアナにぶつけ、大きく後退させる。

「兄さん……どうか、死なないで……」

 その様子に、ツヴァイの覚悟を感じ、ティリアはアンナを連れて下がった。

「さあ、始めよう……毒魔将。この俺なら、相手にとって不足はあるまい……」
「ツヴァイ……お前まで裏切るとは……」

 ツヴァイとラミアナは、お互いに構え合う。
 二人の戦いが、今始まろうとしていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品