赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第63話 毒魔将ラミアナ

 アンナは、毒魔将ラミアナと対峙していた。

「く……!」
「むう……」

 今は、お互いの剣が重なり合い、硬直している状態だ。

「流石は勇者……中々の剣技……だが!」

 そこで、ラミアナは剣から片手を離す。
 そして、腰からもう一本剣を引き抜いた。

「何!?」
「これが、我が剣技!」
「くっ!」

 それを見た瞬間、アンナは大きく後退することを選んだ。
 その直後、アンナのいた場所をラミアナの剣がその場を斬り裂いた。

「躱したか……」
「まさか、二刀流とは……」

 ラミアナは、両手にそれぞれ剣を持っている。
 つまりは、二刀流であるということだ。
 一本の剣で、二本の剣に対応することは、単純に難しい。
 アンナは、あの二刀流が脅威であると感じるのだった。

「その通り、我が真の剣技は二刀流……だが、それだけではない」
「何……!? はっ!」

 アンナは咄嗟に前進する。
 なぜなら、後ろに大きな気配を感じ取ったからだ。

「これは!?」

 アンナの後ろには、ラミアナの尻尾らしきものが生えてきていた。
 どうやら、先程のつばぜり合いの際に、密かに地面を掘って尻尾を忍ばせていたようだ。

「さあ、いくぞ! 勇者!」
「くっ!」

 前進したことによって、ラミアナの剣がアンナに襲い掛かってくる。
 この二刀流を、アンナは剣では防げないと判断した。
 そのため、聖剣に形を変えていく。

「聖なる光よ! 盾になれ!」
「む! これは!」

 聖剣は、眩しい光とともに広がり、盾となった。
 ラミアナの剣は、その盾によって受け止められる。

「ふっ! だがまだだ!」
「く!」

 しかし、ラミアナの力強い剣技に、アンナの体は後退していく。
 後ろには、ラミアナの尻尾が待ち受けている。
 アンナは、このまま後ろに下がる訳にはいかないのだ。

「なら……!」

 アンナは、左手に聖なる光と闘気を集中させる。
 この状態は、ほとんど動くことがないため、アンナの最も強い武器である聖闘気を練ることができたのだ。

聖なる衝撃波セイント・ショット!」
「くうっ!」

 アンナの左手から、聖なる光と闘気が混じり合った球体が打ち出される。
 その衝撃によって、ラミアナの体はどんどんと後退していった。

「ぐううっ……」
「聖なる光よ! 剣になれ!」

 その隙に、アンナは右手の盾を剣に戻す。
 さらに、ラミアナに向かって、距離を詰めていく。

「はあああああっ!」

 アンナは大きく剣を振りかぶる。
 ラミアナが怯んでいる内に、大きな一撃を与えておきたかった。

「ならば……」

 ラミアナは後退しながら、剣を交差させる。

「くっ!」
「ふっ!」

 アンナの一撃は、ラミアナの交差された剣に受け止められてしまった。

「今の一撃は中々だったな……」
「それはどうも……」
「なら、これはどうだ……!」

 ラミアナは、交差した剣で聖剣を弾く。

「くっ……!」

 その衝撃によって、アンナの体は吹き飛ばされる。

「くっ! ……なっ!」

 アンナは、なんとか態勢を立て直しつつ、ラミアナの方を見た。
 すると、ラミアナが先程までいた位置から消えていたのだ。

「……上か!?」

 数秒遅れて、アンナは気づいた。
 ラミアナは、飛び上がっていたのだ。
 ラミア故、その体は人間よりも長く、重いはずである。だが、ラミアナはそれをものともしていなかった。

「喰らえ!」

 その状態で、ラミアナは二本の剣を構える。

蛇の雨スネーク・レイン!」

 二本の剣で、突きが放たれた。
 その攻撃で、アンナの周りに衝撃が起こる。

「くっ!」

 周りの地面に、大きな穴が開いた。
 それを認識し、アンナはすぐに防御の態勢をとる。
 
「聖なる光よ! 私を囲え!」

 アンナは、自分を覆うような形で、聖なる光を展開させた。
 さらに、そこに自らの聖闘気を流し、防御力を向上させる。

「これで!」
「ふん!」
「くっ!」

 ラミアナの攻撃によって、聖なる光の形が変形した。
 しかし、それでも、聖なる光を突き抜けることはない。

「くっ! だが、まだだ!」

 ラミアナは、その状態のまま落下する。
 アンナの聖なる光を、踏みつぶすように。

落下する蛇スネーク・スタンプ!」
「くそっ!」

 アンナは、その気配を察知し、聖なる光を突き破り、その場から逃げ出す。
 その直後、ラミアナの体が落下し、聖なる光を突き破った。

「逃がしたか……」
「なんて威力……」

 アンナは体勢を立て直しつつ、ラミアナの方を見る。
 ラミアナが落下した場所は、大きくへこんでおり、その強烈な攻撃を物語っていた。

「やはり、流石は勇者だ。この私と対等以上に渡り合うとは……」
「そっちこそ、すごい力だ……」

 アンナは、聖なる光をその手に戻しつつ、ラミアナに話しかける。
 お互いに、かなりの体力を消費しており、今はどちらからも仕掛けることができないのだった。

「毒魔将は、正々堂々とした者だと、ガルスから聞いていたけど、本当みたいだね……」
「……竜魔将がか」

 アンナの言葉に、ラミアナの顔が少し歪む。
 アンナが疑問に思っていると、ラミアナはゆっくりと口を開き始める。

「あの尊敬できる男が、魔王軍を裏切るなど、信じたくはなかったが……」
「先に裏切ったのは、魔王軍の方さ。ガルスが、お前達の元に留まる訳がない」
「……確かに、狼魔将の裏切りは許せんことだ」

 そこで、ラミアナの様子がおかしいと、アンナは思った。
 先程から、ガルスに対することを話しているが、ラミアナが熱くなっているように見えるのだ。

「ガルスのことを……信頼していたのか?」
「信頼……?」
「さっきから、お前からは、ガルスに対する熱い思いが感じられる。だから、そう思っただけさ……」

 アンナがそう言うと、ラミアナは目を丸くする。
 その様子は、まるで自身の変化に気づいていないかのようだった。

「……確かに、一人の仲間として尊敬していた。だが、それ以上の思いなどありはしない。それだけのことだ……」
「それ以上の思い……」

 ラミアナの言葉は否定であったが、そのことがアンナの疑念を加速させる。
 何故か含みがあるように感じられたからだ。

「話は終わりだ……行くぞ、勇者!」
「くっ……」

 しかし、今は戦いの最中である。
 そんなことを考えている暇など、ありはしないのだ。

「……あっ!」

 アンナは、大地を踏みしめ駆け出そうとしたが、あることに気づいた。

「……」

 位置の関係上、ラミアナの後ろにティリアがいるのだ。
 このまま、アンナが向かっていくと、ティリアを巻き込んでしまい兼ねない。

「くっ……!」

 そう一瞬思ったことにより、アンナの体は不自然に硬直してしまった。
 その隙に、ラミアナが距離を詰めてくる。

「しまっ……」
「……む!?」

 だが、ラミアナは動きを止めた。
 さらに、自分の後ろを確認している。
 アンナが、疑問に思っていると、ラミアナはゆっくりと口を開く。

「知らず……この少女を人質の形にしてしまったか……」
「え……?」

 ラミアナは、ゆっくりと動きながら、ティリアからもアンナからも距離をとっていった。

「どういうつもりだ……?」
「お前の動きが、不自然に止まったからな。私は、そんなくだらないことで決着がつけることをよしとしてはいない」
「何……?」

 ラミアナは、そんな理由で動きを止めたようだ。
 アンナは、そのことに驚愕しつつも、ガルスの評価を理解した。
 これが、ラミアナの正々堂々なのだと。

「さて、再開するとしよう……この戦いを」
「ティリアを見逃してくれたことを、感謝しておくよ……だが、容赦はしない!」

 アンナとラミアナの戦いは、続いていった。

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