赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第57話 魔宮の洞窟

 アンナ達は、イルドニア王国軍とともに、魔宮の洞窟に向かっている。
 毒魔将ラミアナの情報により、洞窟内部の構造がわかった。これが、罠の可能性もある。だが、ガルスの知るラミアナから、それは否定できると判断された。
 よって、イルドニア王国は、毒魔将ラミアナの討伐を決定したのだ。

「ねえ、ガルス、参考までに毒魔将ラミアナがどんな戦い方をするか、教えてくれないかな?」

 アンナは、ガルスにそう問いかけた。
 ガルスは、少し考えるような素振りを見せたが、すぐに話し始める。

「ラミアナの最も得意とする技は、蛇の尻尾による拘束攻撃だな」
「拘束攻撃?」
「ああ、尻尾で相手を締め上げてつぶす。その力はかなり強力で、抜け出すのは困難だろうな」
「なるほど、つまりは捕まらない方がいいってことだね」
「そういうことになるな」

 ラミアナは、ラミアとしての体が脅威となるようだ。アンナは、頭の中で戦い方をイメージする。

「さらに、剣の腕も随一だ。魔将の中で、最も剣が得意だからな」
「剣士か……私と同じってことだね」
「そういうことになる……最後に、これは余計なことかもしれんが……」

 そこで、ガルスは一度言葉を濁した。さらに、その表情が少し変わる。アンナが、疑問に思っているとすぐに話が再開された。

「ラミアは、その体質上、体内に強力な毒を蓄えている。その毒も、ラミアナの武器の一つだ」
「毒か……それは、恐ろしいな」
「ただ、ラミアナはこの毒を使うことを嫌っているのだ」
「嫌う? どうして?」
「戦士としての誇りともいうべきか。毒というものを使うことを、卑怯に感じているようだ。相手を苦しめるだけの攻撃だと、昔聞いたことがある」
「なるほどね……」

 ラミアナという魔将は、本当に正々堂々の戦いを望んでいるのだと、アンナは理解する。しかし、窮地に陥れば、人も魔族も何をするかはわからない。そのため、毒も警戒しておこうと、アンナは思うのだった。

「俺が気がかりに感じているのは、むしろ毒を流した犯人の方だ。ラミアナよりも、そいつの方が、何をしてくるかわからんからな……」
「確かに、毒を流すなんて、剛魔団や鎧魔団にだって、そこまで卑劣な者はいなかったからね……」

 二人は、毒を流した魔族のことを考える。
 ラミアナが、しない作戦をしたということは、その者はラミアナでさえ制御できないということだ。
 アンナ達は、引き続き、魔宮の洞窟を目指すのであった。





 魔宮の洞窟内で、毒魔将ラミアナ、ピュリシス、メデュシアの三人は集まっていた。

「ラミアナ様、どういうおつもりですか? 策もなく、イルドニア軍を呼び出すだなんて……」
「どういうつもりか? それは、こちらが聞きたいくらいだ。お前のせいで、この毒魔団の誇りは失われてしまった」

 何も気にしていない様子のメデュシアに対して、ラミアナは剣を向ける。これには、流石のメデュシアも怯んだようだ。

「……怒りを鎮めてください。ラミアナ様……全てはあなたのためなのです」
「私のため? 何が言いたい?」
「このままでは、ラミアナ様がなんの成果も得られないでいることは、まずいと思ったのです。ねえ、ピュリシス」

 そこでメデュシアは、ピュリシスに話を振った。これは、自分への注意を逸らさせるためである。

「ピュリシス、お前もこのことを知りながら、メデュシアを止められなかったそうだな……」
「……はい。申し訳ありません」

 ピュリシスは、頭を下げて謝罪した。その瞬間、ラミアナの表情が少し曇る。

「お前も、この私がこのままイルドニア王国を攻め落とせないと思った訳か……」
「そ、そんなことは……!」

 ピュリシスが否定したが、ラミアナは笑う。

「部下にここまで信頼されていないとは……私も落ちたものだ」
「ラミアナ様……」

 ラミアナは、そこで一度言葉を止める。そして、意を決したようにその表情を変えた。

「これよりここに、勇者及びイルドニア王国軍がやってくる」
「ゆ、勇者……!」
「我ら毒魔団の総力を持って、それを迎え撃つ。お前達も配置につくがいい」
「は、はい!」

 ラミアナの言葉で、ピュリシスとメデュシアは部屋を出る。各々が、相手を迎え撃つ場所に向かうために。





 アンナ達は、魔宮の洞窟の入り口まできていた。

「ここか……」
「見た目は普通の洞窟だね、お姉ちゃん」
「うん、でも、この中からはかなり広いみたいだ……」

 洞窟の見た目は、なんの変哲もないものだ。しかし、ラミアナからの情報では、ここから地下に続いており、かなりの広さらしい。

「入り口は、この一つしかないようだ。何が待ち受けているかわからん。俺が先頭で様子を見るから、後からついて来い」
「わかった、よろしく頼むよ、ガルス」

 ガルスがそう言って、先陣を切ってくれることになった。戦闘経験の豊富なガルスなら、幅広く対応できる。そう思ったアンナは、それに賛同するのだった。

「では、行くぞ……」

 ガルスを先頭に、アンナ、カルーナ、ティリア、そして、イルドニア王国軍が洞窟の中に入る。洞窟の中は、松明の明かりだけで照らされた、薄暗い世界だ。

「敵もいなければ、罠もないようだな……」

 先頭のガルスは辺りを見渡し、そう呟いた。
 アンナは、ラミアナからの情報によって作成された地図を見る。

「ラミアナからの情報によると、この先は三つの道にわかれているみたいだけど」
「ああ、確かに見えるな。だが、わざわざこちらからわかれる必要もないだろう」

 進んで行くと、確かに三つの扉が発見できた。ガルスはそっと扉の一つを開け中の様子を確認する。

「これは……」

 それを見て、ガルスは目を丸くした。

「どうしたの? ガルス」
「この扉は、仕掛け扉のようだ……」
「仕掛け扉……?」
「ああ、この扉それぞれの奥にさらに扉があり、それを開けるためには、それぞれが中で重しの役割をしなければならない」
「つまり、三分割するための仕掛けってことか……」

 この先に進むには、どうやら三つの部隊にわかれなければならないようだ。

「じゃあ、三分割ってことか……」
「だったら、お姉ちゃん、私、ガルスさんは別れた方がいいかもね」
「私は、どうしましょうか?」
「要は、アンナだ。ティリアはアンナについて行った方がいいだろう」
「わ、わかりました……」

 こうして、アンナとティリア、カルーナ、ガルスにそれぞれ数名の兵士がつき、三つの扉の中へと進んでいった。

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