赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第55話 イルドニアの王

 アンナ達は、無事にイルドニア王国の王都に辿り着いていた。
 特に問題もなく、王座の元に通され、今は王を待っている。

「お姉ちゃん、また緊張?」
「そりゃあ、いつまでも慣れないし……」
「アンナさん、私も同じです。とても緊張します」

 そんな話をしている内に、奥の方から人が出てきた。その人物こそ、この国の王である。

「あー、諸君、長旅、ご苦労だったのう。わしが、このイルドニアの王じゃ」

 イルドニア王は、少し焦った様子だった。

「お、王様? どうかされたのですか?」
「む……いや、その……」

 アンナが聞くと、王様はさらに困惑する顔を見せる。一体、何があったというのだろうか。

「まさか、この国の現状はそこまで……」
「あーあ、いや、違うのじゃ……」

 アンナがそんな心配をしていると、奥の方から声が聞こえてきた。

「お父様!」
「あ! こら、セリトア! 出てきてはならんと言ったろう!」
「いえ! 出ていきます! 私にも譲れないものがあるのです!」

 それは、若い女性の声。そのやり取りから、王女であることが推測できる。何やら、王ともめているらしい。

「あ!」

 王の声とともに、セリトアと呼ばれた王女が出てくる。セリトアは、アンナ達に一礼した後、喋り始めた。

「勇者一行様、わたくしは、イルドニア王国の王女、セトリアでございます」
「あ、はい、よろしくお願いします」

 アンナもそれに合わせて、挨拶を返す。すると、セリトアは笑顔になり、アンナに駆け寄った。

「あなたが勇者様ですね!」
「え、あ、はい」
「お会いできて光栄です。ずっと、お会いしたかったんです」

 そして、アンナの手を取り、喜びの声をかけてくる。アンナは困惑したが、無下にすることもできないので、受け答えするしかない。

「勇者様の活躍は、聞いております。剛魔将、竜魔将、鎧魔将、魔王軍の名だたる幹部を倒し、ついにはこの国に……!」
「ああ、はい」
「勇者様のような人に、私は憧れているんです。本当に、お会いできてよかった……」

 王女は、アンナの手を握る力を強めてくる。どうやら、アンナに対する強い憧れがあるようだ。アンナとしても、そこまで悪い気がする訳ではないが、少し引いてしまう。

「勇者様が、このように素敵な女性で……私、なんだかときめいてしまいます」
「ときめく……?」
「はい……」

 そんな中、ガルスはあることに気づいていた。アンナが困惑している横で、ものすごく不機嫌そうな少女がいるのだ。

「カルーナよ、どうした……?」
「ガルスさん、あれって、なんなんでしょうか?」

 カルーナは、笑顔であったが、それはまったく楽しげではなく、むしろ怒っているようだ。ガルスは、刺激しないように、言葉を続ける。

「なんだとは、一体……?」
「ああいうのって、なんかこう……イラっとしませんか?」
「いや、それは……」

 ちなみに、ティリアは一人現状をまったく理解しておらず、微笑みながら、アンナの方を見ていた。
 よって、カルーナを止められるのはガルスしかいないのだ。

「カルーナ、とにかく、落ち着け。あの程度で、心を乱されては……」
「乱されてないですよ? ただちょっとイラっとするだけで」

 それを乱されているというのではないかと、ガルスは思った。しかし、それを言うとカルーナがさらに怒りそうだったので、ガルスは指摘しない。

「あちらは、この国の王女だぞ。下手なことはできん。とにかく、今は耐えろ……」
「……わかりました」

 ガルスは、どうして自分がこんな役回りをしなければならないのか、わからなかった。そのため、後でアンナにこのことを伝え丸投げしようと結論づける。この騒動の原因に、全て押し付けようと思ったのだ。

「セリトア! 話を遮るんじゃない! 自分の部屋に戻れ!」
「お、お父様……」

 そこで、イルドニア王の怒号が響く。セリトアも、流石にこれには怯えているようだ。

「これから、勇者殿とわしは、とても大事な話をするんじゃ! お前の個人的な話など、している暇はないんじゃ!」
「個人的な話だって……」
「黙れ! さっさと行かんか!」
「くう……」

 王の言葉で、セリトアはアンナに一礼した後、去っていく。それと同時に、カルーナはアンナとの距離を詰めていた。

「勇者殿、すまないのう。あれは、少々……お転婆でな」
「あ、いえ、大丈夫です……」
「ふむ、では我が国の現状について話したいのだが、構わなんか」
「はい」

 アンナが返事をすると、イルドニア王はゆっくりと話始める。

「現在、我がイルドニア王国は、毒魔団と呼ばれる一団から侵攻されておる。といっても、現在は拮抗しているといってもいいくらいなのだが……」
「拮抗?」
「うむ、なんとか対抗はできているのだが、このままでは泥沼じゃろうな……」

 どうやら、イルドニア王国は窮地という訳ではないようだ。しかし、どちらにせよ、危機には変わりないだろう。

「奴らの将は、毒魔将ラミアナというラミアじゃ」
「ラミア……」

 ラミアとは、人に似た胴体と蛇のような下半身の魔族である。

「ラミアナは、魔将の中でも紅一点。そして、何より武人気質だな……」

 そこでガルスが、口を挟んだ。彼にとっては、かつての仲間であった者である。そのため、よく知っているのだ。

「特徴的なのは、その蛇の尾と二刀流の剣技だ。あれは厄介なものになるだろう」
「そうなんだ。ありがとう、ガルス」

 ガルスはそれで黙り、イルドニア王が話を続けた。

「なるほど、元魔王軍の存在はありがたいものだのう……それで、話を続けよう」
「はい、お願いします」
「毒魔団は、現在、自然の迷宮ともいえるの洞窟に潜んでおる」
「魔宮の洞窟?」
「うむ、厄介な場所でのう。あの場所は、わしら王国の人間ですら、全貌が掴めておらん」

 毒魔団がいるのは、相当厄介な場所のようだ。イルドニア王は、さらに話を続ける。

「ここを攻め落とすのは難しいが、やる他ない。そこで、我らイルドニア王国軍と、勇者一行で、魔宮の洞窟を攻めたいのじゃ」
「なるほど、わかりました」
「決行は追って、連絡しよう。今日は、長旅の疲れを癒してくれ……」
「はい!」

 こうして、アンナ達は部屋に通されるのだった。





 アンナ達が部屋で休んでいると、そのドアが叩かれた。

「勇者様! 今よろしいでしょうか?」
「あ、王女様……」

 アンナが開けてみると、そこにはセリトアが立っている。
 ガルスから、王女と関わるとカルーナが不機嫌になることを、アンナは聞いていた。そのため、両者に気を遣わなければならないのが、現状だ。

「何か用でしょうか?」
「是非、お話したいと思いまして……」

 カルーナの様子は、明らかに警戒モードに変わっていることを、アンナは認識していた。やはり、どうにかしてこの場を収めなければならないようだ。

「お話ですか? 一体なんの……」
「とりあえず、私の私室に来てもらえませんか?」

 その提案に乗ると、カルーナに口を聞いてもらえなくなりそうだと、アンナは思った。そのため、なんとかしかないだろう。

「申し訳ありませんが、今日は疲れていまして……」
「だったら、私がマッサージしてあげますよ?」
「い、いえ、その……」
「だめなんですか……?」

 アンナの反応が芳しくなかったからか、王女の表情が、少し曇る。これは、これで心が痛むため、アンナは別の提案をすることにした。

「ま、また次の機会ということで……」
「……そうですね。しばらくは、この国に滞在するんですから、またの機会でも大丈夫ですね。私、焦りすぎちゃったようです」

 そう言って、嵐が去っていたので、アンナは安心する。この国では、色々な意味で苦労しそうだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品