赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~
第46話 鎧魔団の瓦解
アンナとカルーナ、ティリアの三人はしばらく王城で過ごすことになっており、王国の兵力が整い次第、鎧魔団の拠点である鎧魔城への進軍を開始する手筈だった。
しかし、最初の交戦から数日経ったある日、三人はレミレアから急遽呼び出されていた。
玉座の間に行くと、既にレミレアは座っており、何か事態が変化したことを悟らせた。
「女王様、何かあったのでしょうか?」
「アンナよ……事態が変わってしまったのだ」
「どういうことです?」
レミレアも現状に困惑しているようで、その顔には焦りが見えた。
「実は、鎧魔団に動きがあったのだ。ただ、妙な動きでな……」
「妙ですか? 一体どういうことなんですか?」
「それが団員のほとんどが鎧魔城から、退避しようとしているようなのだ」
「えっ?」
その言葉に、アンナ達は驚いた。侵攻の拠点から退避するというのは、どういうことだろうか。まだ大将であるツヴァイは討たれていない。そのため、退避する理由などあるはずがないのだ。
「さらに、情報によれば、鎧魔将ツヴァイと副団長プラチナスだけは鎧魔城に残っているらしいのだ」
「えっ……?」
殿を務めるにしても、大将と副大将だけが残るのは違和感を覚えてしまう。
「何故退避するのかは、妾にもわからん。だが、これはチャンスだ。鎧魔団をこの機会に、一掃する」
レミレアは、確固たる口調でそう言い放った。
「そこで、そなたらには鎧魔城に向かって欲しい。当然、我が国の兵士も同行させよう。ただ、退避している方の鎧魔団も追わなければならない故、そこまでの人数は用意できん」
「いえ、女王様、鎧魔城には私達三人だけで行きます」
レミレアの提案に、アンナはそう答えていた。
「む? それはまたどうして?」
「……はっきり言って、王国の兵士が何人いてもツヴァイには通用しません。兵士が無駄に死ぬだけです」
鎧魔将は、規格外の強さだ。普通の兵士が何人いても、無残に散らされるだけなのだ。
「……そうかもしれんな」
レミレアは、悲しそうな顔をしながらそう呟いた。しかし、すぐに顔を戻し、アンナ達に言い放った。
「そなたらだけに任せてしまうのは心苦しいが、頼んだぞ」
「はい、任せてください」
アンナがはっきりと答え、鎧魔城へ行くことが決まったのであった。
◇
一方、鎧魔城では、その団員が次々と退避していた。
治療を終え、回復した鎧魔団副団長プラチナスは、団員を数名引き止め話を聞いてた。
「何をしているんだ!? 皆よ!」
「プラチナス様!? もうよろしいのですか!?」
リビングアーマー達は、プラチナスに声をかけられると心配する声をあげた。どうやら、プラチナスに対する尊敬の念は消えていないらしい。
「私は大丈夫だ。それより、この騒ぎはなんなんだ」
「それは……」
「俺達は……もう、鎧魔団でいたくありません!」
リビングアーマー達は、口々にそう言い始めてしまった。プラチナスが疑問に思っていると、一人がこの問題の核心をついた言葉を放った。
「俺達の将は、半人半魔なんでしょう!?」
「なっ……! 確かにそうだが、それがなんだというのだ!?」
リビングアーマーは、大きな声でそう叫んでいた。プラチナスも、思わず声を荒げて問い詰めてしまった。
「俺達は、誇り高き魔王軍です! 魔族の軍です。その将が人間の血を引いていたなど……あり得ません!」
「そうです! あの男は我らを騙していたのです。そんな者に従うことはできません!」
どうやら、ツヴァイが半人半魔と判明したことで、団員は不信感を持ってしまったらしい。
「だからなんだと言うんだ! ツヴァイ様は、半人半魔であっても、誇り高き武人であるぞ!」
「しかし、プラチナス様、あの男は我らを労ったことなどないどころか、捨て石として使ってもなんとも思わないような者です!」
「そ、それは……違う! 事実、私はツヴァイ様に命を救われたことがある!」
確かにツヴァイは、兵士達の命を顧みるようなことは行ってこなかった。恐らく、半人半魔であるが故、魔族の命など大して気にしていなかったのだろう。
だが、プラチナスは先日の戦いで、ツヴァイに命を助けてもらっていた。そのため、それを否定したが、兵士達に響いた様子はなかった。
「それはプラチナス様だけですよ」
「そうです! 副団長であるから、体裁を気にして、生かそうとしているだけです!」
兵士達は、決めつけるようにそう言い放った。この時点でプラチナスは、説得をあきらめざるを得なかった。
「仕方ない……逃げたければ逃げればいい。だが、私はツヴァイ様にお付きする!」
「プラチナス様……」
「我らは、貴方のことは尊敬しています! ともに退避いたしましょう!」
「黙れ! 将を残して逃げる兵など、臆病者だ! 私は、逃げん!」
「プラチナス様!」
そう言って、プラチナスはツヴァイの元に向かった。今、ツヴァイの側にいられるのは、自分だけだと感じたからだ。
後方の兵士達は、プラチナスを見ていたが、すぐにその場から去って行った。
「ツヴァイ様!」
プラチナスは、ツヴァイがいるであろう玉座の間に行き、その扉を開け放った。
玉座には、かつての漆黒の鎧ではなく、一人の男が座っていた。
「プラチナスか……」
「ツヴァイ様! 兵達が……」
「わかっている……だが、もういい。結局は、俺を半人半魔と知り、逃げたに過ぎん」
ツヴァイは、どこか悲しそうな表情をしていた。
「プラチナス……お前だけは、他の奴とは違っていた。鎧魔将ではなく、ツヴァイに対して尊敬を持ってくれていた。だから、お前だけは助けた……」
「ツヴァイ様……」
「最早、俺ができることは、勇者を討伐し、魔王軍に献上することだけだ。奴らは、確実にこちらに向かって来るだろう。お前には最後まで付き合ってもらうぞ……」
そう言われたプラチナスの心は、すでに決まっていた。
「はっ! もちろんです!」
プラチナスは跪きながら、そう答えるのだった。
◇
アンナ、カルーナ、ティリアの三人は作戦会議を行っていた。
次の戦いで、鎧魔将ツヴァイと副団長プラチナスと決着をつけなければならない。
「とにかく、プラチナスは私がさっさと倒したいところだね。カルーナでは、あいつとは戦えない」
「一応、対策は考えてあるよ。向こうも私には、プラチナスをぶつけたいだろうからね」
プラチナスの魔法反射《リフレクト・》装甲《アーマー》はとても厄介なものであった。さらに、問題はまだある。
「それに、ツヴァイの魔闘気も強力だ。あの力にも、どうにかして対抗する必要がある」
「うん、そうだよね……」
ツヴァイの闘気と魔法の混合技、魔闘気の破壊力は絶大だ。しかも、今回の戦いは最初からそれを使ってくるだろう。それも、とても厄介だといえた。
「ただ、これには私も考えがある。勇者の力、聖闘気を使う」
「聖闘気? お姉ちゃん、できるようになったの!?」
「そんなに長い間は無理だけど、一瞬なら恐らくできる。これなら、魔闘気に対抗できるはずだ」
アンナは、この数日で密かに聖闘気の特訓を行っていた。その特訓で、ある程度のことは掴めていた。実戦で使ったことはないが、恐らくは大丈夫だと予測していた。
「ツヴァイには、私からも声をかけます」
そんな話の中、ティリアがそう呟いた。
「それで、何か変わるかはわかりませんが……」
「うん、でもそれは、とても大事なことだと思うよ」
「そうですよ、ひょっとしたらツヴァイも剣を引いてくれるかもしれません」
「はい、そうなるといいのですが……」
いよいよ、決戦が始まろうとしていた。
しかし、最初の交戦から数日経ったある日、三人はレミレアから急遽呼び出されていた。
玉座の間に行くと、既にレミレアは座っており、何か事態が変化したことを悟らせた。
「女王様、何かあったのでしょうか?」
「アンナよ……事態が変わってしまったのだ」
「どういうことです?」
レミレアも現状に困惑しているようで、その顔には焦りが見えた。
「実は、鎧魔団に動きがあったのだ。ただ、妙な動きでな……」
「妙ですか? 一体どういうことなんですか?」
「それが団員のほとんどが鎧魔城から、退避しようとしているようなのだ」
「えっ?」
その言葉に、アンナ達は驚いた。侵攻の拠点から退避するというのは、どういうことだろうか。まだ大将であるツヴァイは討たれていない。そのため、退避する理由などあるはずがないのだ。
「さらに、情報によれば、鎧魔将ツヴァイと副団長プラチナスだけは鎧魔城に残っているらしいのだ」
「えっ……?」
殿を務めるにしても、大将と副大将だけが残るのは違和感を覚えてしまう。
「何故退避するのかは、妾にもわからん。だが、これはチャンスだ。鎧魔団をこの機会に、一掃する」
レミレアは、確固たる口調でそう言い放った。
「そこで、そなたらには鎧魔城に向かって欲しい。当然、我が国の兵士も同行させよう。ただ、退避している方の鎧魔団も追わなければならない故、そこまでの人数は用意できん」
「いえ、女王様、鎧魔城には私達三人だけで行きます」
レミレアの提案に、アンナはそう答えていた。
「む? それはまたどうして?」
「……はっきり言って、王国の兵士が何人いてもツヴァイには通用しません。兵士が無駄に死ぬだけです」
鎧魔将は、規格外の強さだ。普通の兵士が何人いても、無残に散らされるだけなのだ。
「……そうかもしれんな」
レミレアは、悲しそうな顔をしながらそう呟いた。しかし、すぐに顔を戻し、アンナ達に言い放った。
「そなたらだけに任せてしまうのは心苦しいが、頼んだぞ」
「はい、任せてください」
アンナがはっきりと答え、鎧魔城へ行くことが決まったのであった。
◇
一方、鎧魔城では、その団員が次々と退避していた。
治療を終え、回復した鎧魔団副団長プラチナスは、団員を数名引き止め話を聞いてた。
「何をしているんだ!? 皆よ!」
「プラチナス様!? もうよろしいのですか!?」
リビングアーマー達は、プラチナスに声をかけられると心配する声をあげた。どうやら、プラチナスに対する尊敬の念は消えていないらしい。
「私は大丈夫だ。それより、この騒ぎはなんなんだ」
「それは……」
「俺達は……もう、鎧魔団でいたくありません!」
リビングアーマー達は、口々にそう言い始めてしまった。プラチナスが疑問に思っていると、一人がこの問題の核心をついた言葉を放った。
「俺達の将は、半人半魔なんでしょう!?」
「なっ……! 確かにそうだが、それがなんだというのだ!?」
リビングアーマーは、大きな声でそう叫んでいた。プラチナスも、思わず声を荒げて問い詰めてしまった。
「俺達は、誇り高き魔王軍です! 魔族の軍です。その将が人間の血を引いていたなど……あり得ません!」
「そうです! あの男は我らを騙していたのです。そんな者に従うことはできません!」
どうやら、ツヴァイが半人半魔と判明したことで、団員は不信感を持ってしまったらしい。
「だからなんだと言うんだ! ツヴァイ様は、半人半魔であっても、誇り高き武人であるぞ!」
「しかし、プラチナス様、あの男は我らを労ったことなどないどころか、捨て石として使ってもなんとも思わないような者です!」
「そ、それは……違う! 事実、私はツヴァイ様に命を救われたことがある!」
確かにツヴァイは、兵士達の命を顧みるようなことは行ってこなかった。恐らく、半人半魔であるが故、魔族の命など大して気にしていなかったのだろう。
だが、プラチナスは先日の戦いで、ツヴァイに命を助けてもらっていた。そのため、それを否定したが、兵士達に響いた様子はなかった。
「それはプラチナス様だけですよ」
「そうです! 副団長であるから、体裁を気にして、生かそうとしているだけです!」
兵士達は、決めつけるようにそう言い放った。この時点でプラチナスは、説得をあきらめざるを得なかった。
「仕方ない……逃げたければ逃げればいい。だが、私はツヴァイ様にお付きする!」
「プラチナス様……」
「我らは、貴方のことは尊敬しています! ともに退避いたしましょう!」
「黙れ! 将を残して逃げる兵など、臆病者だ! 私は、逃げん!」
「プラチナス様!」
そう言って、プラチナスはツヴァイの元に向かった。今、ツヴァイの側にいられるのは、自分だけだと感じたからだ。
後方の兵士達は、プラチナスを見ていたが、すぐにその場から去って行った。
「ツヴァイ様!」
プラチナスは、ツヴァイがいるであろう玉座の間に行き、その扉を開け放った。
玉座には、かつての漆黒の鎧ではなく、一人の男が座っていた。
「プラチナスか……」
「ツヴァイ様! 兵達が……」
「わかっている……だが、もういい。結局は、俺を半人半魔と知り、逃げたに過ぎん」
ツヴァイは、どこか悲しそうな表情をしていた。
「プラチナス……お前だけは、他の奴とは違っていた。鎧魔将ではなく、ツヴァイに対して尊敬を持ってくれていた。だから、お前だけは助けた……」
「ツヴァイ様……」
「最早、俺ができることは、勇者を討伐し、魔王軍に献上することだけだ。奴らは、確実にこちらに向かって来るだろう。お前には最後まで付き合ってもらうぞ……」
そう言われたプラチナスの心は、すでに決まっていた。
「はっ! もちろんです!」
プラチナスは跪きながら、そう答えるのだった。
◇
アンナ、カルーナ、ティリアの三人は作戦会議を行っていた。
次の戦いで、鎧魔将ツヴァイと副団長プラチナスと決着をつけなければならない。
「とにかく、プラチナスは私がさっさと倒したいところだね。カルーナでは、あいつとは戦えない」
「一応、対策は考えてあるよ。向こうも私には、プラチナスをぶつけたいだろうからね」
プラチナスの魔法反射《リフレクト・》装甲《アーマー》はとても厄介なものであった。さらに、問題はまだある。
「それに、ツヴァイの魔闘気も強力だ。あの力にも、どうにかして対抗する必要がある」
「うん、そうだよね……」
ツヴァイの闘気と魔法の混合技、魔闘気の破壊力は絶大だ。しかも、今回の戦いは最初からそれを使ってくるだろう。それも、とても厄介だといえた。
「ただ、これには私も考えがある。勇者の力、聖闘気を使う」
「聖闘気? お姉ちゃん、できるようになったの!?」
「そんなに長い間は無理だけど、一瞬なら恐らくできる。これなら、魔闘気に対抗できるはずだ」
アンナは、この数日で密かに聖闘気の特訓を行っていた。その特訓で、ある程度のことは掴めていた。実戦で使ったことはないが、恐らくは大丈夫だと予測していた。
「ツヴァイには、私からも声をかけます」
そんな話の中、ティリアがそう呟いた。
「それで、何か変わるかはわかりませんが……」
「うん、でもそれは、とても大事なことだと思うよ」
「そうですよ、ひょっとしたらツヴァイも剣を引いてくれるかもしれません」
「はい、そうなるといいのですが……」
いよいよ、決戦が始まろうとしていた。
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