赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第43話 鎧魔将の正体

 雷の衝撃が、アンナとカルーナの元へと襲い掛かってくる。

「カルーナ!」
「うん! お姉ちゃん!」

 二人は合図を出し合いながら、お互いに別の方向へ身を躱した。
 衝撃波は地面をえぐり、その場所に大きな穴を開けていた。

「逃がさん!」

 ツヴァイは、攻撃が終わると同時に、アンナに向かっていった。あくまで、狙いはアンナである。

「くっ!」
回転するスピニング・雷の槍サンダー・ランス!」

 ツヴァイは手の槍を回転させながら、雷を巻き起こす。

「聖なる光よ! 盾になれ!」

 アンナは、聖なる光を盾に変えて、その攻撃を防いでいく。

「甘いぞ! 勇者!」
「くっ……!」

 回転する雷が、聖なる盾にぶつかった。盾は、その表面をどんどんと削られていく。

「くそっ!」

 アンナには、大きく後退するしか選択肢がなかった。しかし、当然ツヴァイは追いかけてくる。

「お姉ちゃん! 小さなリトル紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

 ツヴァイの後ろから、カルーナがアンナを助けるために魔法を放った。だが、ツヴァイは、それを気にすることなくアンナを追い続ける。
 カルーナが疑問に思ったのも束の間、魔法の軌道上に、見知った鎧が割り込んできた。

「プラチナス!」
「私を忘れてもらっては困る……反射リフレクト!」

 プラチナスの体が光輝き、カルーナの魔法を跳ね返した。

「くっ!」

 カルーナは、反射した魔法を躱した。 幸いにも、プラチナスは追撃ができないようだった。そのため、意識はすぐにアンナの方へ向いた。自分の魔法が跳ね返されたいうことは、アンナが窮地を脱していないということだ。

「くっ!」
「死ねい! 勇者!」

 アンナは、引き続きツヴァイからの攻撃を受けていた。アンナが下がると、それを追いかけられるのだ。
 聖なる盾では、ツヴァイの攻撃を防ぐことはできない。そこでアンナは、攻撃に打って出ることにした。
 聖なる光を集中させて、一気に解き放つ。

聖なる衝撃波セイント・ショット!」
「ふん! その程度!」

 ツヴァイの槍と聖なる光がぶつかり合った。

「ぬうっ!?」

 ツヴァイの攻撃によって、聖なる光ははじけ飛んだ。しかし、それと同時に槍の回転を止める結果となった。

「よし……!」
「ちっ!」

 アンナの手に再び聖なる光が集まり、聖剣を形作っていく。

「……中々やるな」
「私も殺されたくないんでね……」

 アンナとツヴァイは、にらみ合って硬直した。
 二人の戦いは、かなり続いていた。そのため、その消耗は激しかった。

「だが、まだまだだ……この俺の力は、こんなものではない!」
「なっ!」

 ツヴァイの体に、纏われた魔闘気が膨れ上がる。

「この魔闘気に、勝てるか!?」
「くっ……!」

 その時だった。

「ふむ、この戦、妾らも混ぜてくれるか?」

 アンナの後方から、声が聞こえた。
 声の方を振り向くと、そこにはアンナもよく知った人物が立っていた。

「じょ、女王様……!」
「ばかな! この場に来るなど……!」

 これには、ツヴァイですらも驚いていた。
 そこには、この国の女王がいたのだ。女王が前線に出るなど、普通はあってはならないことだろう。
 しかし、レミレアは何も気にすることなく、ゆっくりと歩み寄ってくる。そして、その指をツヴァイへと向けた。

「アンナ、躱すのだぞ……光の矢ライトニング・アロー

 光の矢が無数に現れ、それがツヴァイへと向かっていく。
 アンナは、言われた通り、矢の軌道から離れた場所へと逃れた。ツヴァイも同時に、矢を躱すように動いた。

「逃がす訳には、いかぬのでな……」

 レミレアが手を振ると、光の矢は軌道を変えツヴァイへと向かっていく。

「くっ! 回転するスピニング・雷の槍サンダー・ランス!」

 ツヴァイは槍を回し、光の矢を弾いていった。

「ふむ……上手くはいかんか」
「女王様、何故ここに!」

 アンナが聞くと、レミレアはゆっくりと笑った。

「そなたらが戦っていると聞いてな。妾も魔法使い故、力を貸そうと思ってな」
「そんな危険ですよ!」
「妾なら大丈夫だ……なぜなら、妾はこの国で最も……強い!」

 そう言って、レミレアは新たな矢を展開していく。

「鬱陶しい……」
「さて、次も躱せるか?」
「プラチナス!」

 ツヴァイは、魔法を跳ね返せるプラチナスに話しかけた。

「ツヴァイ様……こちらを開ければ、別の魔法が飛んでいきます!」
「くっ! そうだったな……」

 カルーナとプラチナスは、依然にらみ合っており、どちらも動けない状態だった。

光の矢ライトニング・アロー
回転するスピニング・雷の槍サンダー・ランス!」

 ツヴァイは、槍を回転させて矢を弾いていく。大した攻撃ではないが、このままでは消耗するだけだった。

「ツヴァイ様! このままでは防戦一方です。ここは、一度引いて、態勢を立て直すべきではありませんか?」
「……そのようだな」

 ツヴァイとプラチナスは、お互いに頷いた。
 そんな中、レミレアがアンナに話しかけてきた。

「アンナよ。ここにもう一人、来ている人物がおる。その人物に、回復してもらえ」
「回復……もしかして!」

 アンナが、女王が来た方向を見ると、一人の少女が駆けて来ていた。

「アンナさん! 無事ですか!?」
「ティリア!」
「よかった、大きな怪我はしていないようですね」

 ティリアは、女王とともにアンナ達の元へ駆けつけることを選択していた。
 思わぬ味方の登場に、アンナの顔が明るくなった。



――コロンッ!



 その時、不思議なことが起こった。

「ば、馬鹿な……」

 ツヴァイが、自らの武器である槍を落としていたのだ。
 そのあまりにも迂闊といえる行動に、戦場の全員がツヴァイに注目する。
 次に、その口から出てきた言葉は、信じられないものだった。

「ティ……ティリア……!」
「えっ……?」

 ツヴァイは、その両の瞳ではっきりとティリアを見据え、そう呟いていた。





 呼びかけられたティリアは困惑していた。
 自分の名前を呼んだのは、魔族を束ねる者の一人、鎧魔将ツヴァイなる人物だ。その人物が、何故あそこまで驚き、愛おしそうに自分の名を口にするのか、ティリアには理解できなかった。

「な、何故……私の名前を……?」

 ティリアがゆっくりと尋ねると、ツヴァイははっきりと答えた。

「覚えていないのも無理はない。だが、俺にはわかった。母さんにそっくりだ……」
「母さん……?」
「フォステアの名を知っているだろうか?」
「えっ……?」

 フォステア、それはティリアの母だと予測していた人物の名だ。その人物を、何故ツヴァイは「母さん」と呼ぶのだろうか。

「母さんが、危険な目に合わせないために、お前を知り合いに預けに行ったんだ。あの日以来だ……」
「何を言っているんですか?」
「俺は、ツヴァイ……お前の兄だ」
「あ……に……」

 その瞬間、ティリアの体が震え始めた。
 ツヴァイは、尚も言葉を続けた。

「悪魔の父さんと人間の母さん、その間に俺達、兄妹は生まれた。家族四人、人里離れた場所だったが、幸せな暮らしだった」
「あ……悪魔……」
「だが、ある時、人間達に見つかり、その生活は壊されてしまった。そこで、母さんはまだ顔も知られておらず、外見的には人間と変わらないお前を、信用できる人の元に預けたんだ」

 ツヴァイの発言で、その場のほとんどが硬直してしまった。
 しかし、プラチナスだけは例外だった。

「ツヴァイ様! チャンスです! 引きましょう!」

 プラチナスの体が光輝き、辺り一面に眩しい光が広がった。

「……くっ! やむを得んか。ティリア! 必ず、また会おう! それまで、待っていてくれ!」

 そう言って、ツヴァイとプラチナスはその場から消えていった。

「……」
「ティリア! 大丈夫!?」
「ティリアさん!」

 崩れ落ちるティリアをアンナが支えた。カルーナもそれに駆け寄ってきた。
 レミレアは、ティリアを見つつ、周囲を見渡した。

「……逃げたか。皆よ、城に戻ろう。ここよりは休めるはずだ」

 レミレアの言葉で、四人は城に戻ることになった。

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