赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第42話 交錯する戦い

 アンナとカルーナは、背中を合わせて、作戦会議をしていた。
 目の前には、それぞれの敵、ツヴァイとプラチナスがいるため、早口に互いの情報を交換する。

「お姉ちゃん、プラチナスは魔法を反射してくるんだ……」
「なるほど、ツヴァイも防御力が高いし、あの槍の間合いは厄介だ。私の得意な間合いに持っていけない」
「じゃあ、答えは一つだね……」

 二人は背中を合わせたまま、お互いの位置を入れ替えた。

「何……!?」
「ほう……」

 これにより、お互いの敵も入れ替わることになる。
 魔法を反射できるプラチナスの相手は、アンナ。槍による広い間合いを持つツヴァイには、カルーナ。これによって、お互いより戦いやすい相手となった。

「勇者一行の魔法使いか……お前なら、俺に勝てるとでも?」
「……さあ、でもあなたになら魔法が効く」

 カルーナは手に魔力を集中させ、魔法を放つ。

紅蓮の火球ファイアー・ボール!」
鎧の障壁アーマー・バリア!」

 ツヴァイは、闘気を張り巡らせて防御する。
 直後、火球がツヴァイの体に直撃し、爆発した。

「ぬうっ……!」

 ツヴァイは少し後退し、苦しそうな声を放った。

「効いてる……?」

 その反応から、自身の魔法が有効であるとカルーナはわかった。アンナの攻撃と自身の魔法、どちらの威力が高いのか試したことはないが、少なくともツヴァイには魔法の方が効くらしい。

「中々の魔法だが、それだけだ……これで俺を倒せるなどと思わないことだ……」
「どうかな……?」

 カルーナとツヴァイはお互いに余裕な態度を崩さなかった。

 一方アンナは、プラチナスとの距離を詰めていた。

「勇者アンナ! 相手にとって不足なし!」
「はああああ!」

 お互いの剣がぶつかり合い、大きな音が辺りに響いた。

「ぐっ! 流石は勇者……なんという闘気!」
「そっちこそ……」

 プラチナスの闘気は、アンナも驚く程であった。しかし、今まで魔将と戦ってきたアンナにとって、それは脅威にはなりえなかった。

「ぐううっ!」

 アンナの闘気で、プラチナスの体はだんだんと下がっていく。

「やあああああ!」
「ぬううううっ!」

 アンナは剣を大きく振り上げて、プラチナスの剣を払った。プラチナスは、剣を頭上にあげてしまい、その体に大きな隙が生まれる。

十字斬りクロス・スラッシュ!」
「うぐっ!」

 その隙をアンナが見逃すはずもなく、プラチナスに強烈な一撃が叩き込まれた。
 プラチナスの胸に、十字の傷ができ、さらにそこが砕けていく。

「私の体が……」

 プラチナスの胸には、穴が開いており、そこから空洞が覗いていた。

「プラチナス!」

 部下の負傷を見たためか、ツヴァイが大きく声を出した。
 その声色には、他の部下の時とは違い、心配の念が籠っているように、アンナには思えた。


「大丈夫です! ツヴァイ様! この程度の傷など!」
「悪いけど、このまま一気に蹴りをつけさせてもらう!」

 アンナは、手の中の聖剣を聖なる光に変える。

「ぐぬうう!」
「プラチナス!」
「行かせはしない! 紅蓮の火球ファイアー・ボール

 ツヴァイがプラチナス側へ行こうとするが、カルーナがそれを牽制する。

「邪魔を……! 鎧の障壁アーマー・バリア!」

 ツヴァイは、咄嗟に防御の態勢に入る。そのせいか、そこで一度足が止まった。これで、アンナの邪魔をすることは難しくなった。

聖なるセイント――」
「――させん!」

 アンナが攻撃しようとした、その時だった。ツヴァイの右手が、光を放った。

電撃呪文サンダー!」
「何!?」

 アンナの頭上から、電撃が降り注いだ。
 アンナは咄嗟に躱したが、そのせいでプラチナスへの攻撃を中断せざるを得なかった。

「魔法……!?」
「そんな! ツヴァイは闘気使いのはずじゃあ!?」

 アンナとカルーナは驚愕した。闘気と魔法を、同時に扱うことは難しいはずだ。だが、ツヴァイは、その両方を扱っている。
 そして、それに驚いたのは、アンナとカルーナだけではなかった。

「ツヴァイ様……!? その力は一体……!?」

 どうやら、副団長であるプラチナスでさえ知らなかったようだ。

「ふっ! これが俺の力だ……! 闘気と魔法、その二つを使える……その力こそが、本来の力なのだ!」

 ツヴァイの鎧には、ひびが入っていた。咄嗟だったためか、カルーナの攻撃を完全に防ぐことができていなかったようだ。そのひびは、だんだんと広がっていき、鎧を砕いていく。

「だが、俺はこの力を使うことを拒んでいた。なぜなら、これは俺の忌むべき力……」

 鎧の隙間からは、肉体が見えた。リビングアーマーに、あるはずがない肉体が。

「ふん!」

 ツヴァイが叫ぶと、鎧は一気に吹き飛んだ。

「ツヴァイ……やはり、お前は……」
「これが、鎧魔将の正体……」
「ツ、ツヴァイ様? そのお姿は……?」

 そこには、一人の青年が立っていた。
 その容姿は人間と似通っていた。しかし、白い髪で頭からは角が生え、背中からは黒い羽根があり、尻尾まで生えている。

「悪魔……?」

 アンナはそう言ったが、悪魔にとって大きな特徴が欠けていることに気づいていた。
 悪魔は青い肌であるはずだが、ツヴァイの肌は人間と同じ色であった。

「悪魔か……人間からは、そう見えるかもしれん。しかし、俺は悪魔ではない……」

 ツヴァイは、プラチナスを含む三人をゆっくり見つめながら、言葉を放っていた。

「だが、俺は人間でもない……この忌むべき体は、どちらでもないのだ……」

 言葉を放つツヴァイの顔は、どこか悲しみが滲んでいた。

「俺は……半人半魔ハーフ。人間でも魔族でもない、中途半端な存在……!」
半人半魔ハーフ……ツヴァイ、それがお前の正体だったのか……」
「人間と、悪魔との半人半魔ハーフ……」
「これが……ツヴァイ様……」

 ツヴァイは自虐的な態度で、そう語っていた。
 人間と魔族は、長い歴史の中で争ってきた。その歴史の中で、様々な要因によって、二つの種族の間に子供が生まれることがあった。
 生まれた子供は半人半魔ハーフと呼ばれたが、その生は明るいものとは言い難かった。
 なぜなら、人間からは魔族と恐れられ、魔族からは人間と蔑まれる。どちらの種族にも受け入れらない存在だからだ。

「俺は、どちらの種族からも受け入れられなかった。だが、姿さえ隠せば、俺を嫌う者などいなかった。だから、俺は姿を隠しても違和感のない魔王軍に所属した」
「ツヴァイ……だから、あれ程怒っていたのか……」

 アンナは理解した。ツヴァイにリビングアーマーでないと言った時、あそこまで動揺したのは、彼自身のトラウマやコンプレックスのためだったのだろう。

「最早、俺の存在を証明できるのは、勇者を討伐したという武勲だけだ。故に、ここで蹴りをつけさせてもらうぞ……」

 ツヴァイは、鎧を突き破った際に落とした槍を手に取り構えた。

「くっ! カルーナ、私もツヴァイと戦う!」

 アンナは、プラチナスよりもツヴァイを優先することにした。
 闘気と魔法の二つを使える彼は、今までよりも遥かに強いだろう。プラチナスは、まともに戦闘できる様子ではない。なので、戦うべきはそちらだ。

「二対一であろうと、俺が負けることはない……俺の闘気は魔法で強化され、俺の魔法は闘気で強化される。つまりは、魔闘気。この力に勝てる者などありはしない!」

 ツヴァイの体に、二つの力が混ざり合ったものが纏われた。それは闘気であり、魔法であり、そのどちらとも異なるもの。
 魔闘気、それは闘気と魔法、そのどちらも身に着けし者のみに許される究極の力である。

「喰らうがいい! 雷の槍サンダー・ランス!」

 ツヴァイの槍に、雷が纏わりついていく。
 そして、魔法によって生まれた電撃と、闘気が混ざった衝撃波が、アンナとカルーナに襲い掛かってきた。

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