赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第16話 剛魔将デルゴラド

 アンナは、剛魔将デルゴラドと対峙していた。

「はあああああ!」

 アンナは、大地を蹴りながら、デルゴラドに向かっていった。
 ここに来るまでの出来事で、心が昂っていたのもあって、様子を見るという選択をとるつもりが、アンナにはなかった。
 また、相手が油断している内に、一気に攻めたいとい気持ちもあった。

「やああああああああ!」

 アンナは剣を構えて、大きく、速く振るった。

「ふん!」

 しかし、デルゴラドは、その攻撃を難なく、棍棒で受け止めた。

 キン!

 金属と金属がぶつかり合い、大きな音が響いた。

「ほう、中々、いい剣だな……」
「うぐ……!」

 剣を受けられたアンナは、驚愕していた。
 デルゴラドの棍棒が、まったく動かせる気がしなかったからだ。
 その重さは、圧倒的で、アンナの攻撃をものともしないように思えた。

「だが、力が足りんな! ふん!」
「ぐあっ!?」

 デルゴラドが、力を入れたことで、バランスが変わった。
 アンナは、自分の足が地面から、離れるのを感じていた。
 そして、そのまま、後ろに吹き飛ばされた。

「うぐあ!」

 アンナの体は、さらに、後ろにあった木に衝突した。

「うう……はっ!」
「ふん!」

 背中に激しい痛みを感じながらも、アンナは体を転がし、その場から離れた。
 その直後、アンナのいた場所に、デルゴラドの一撃が振り落とされた。

「ほう、躱したか……」
「はあ、はあ」

 アンナは、息を切らしながら立ち上がり、態勢を立て直した。
 デルゴラドの力は、とても凶悪なものだった。
 正面から、力勝負を挑んでも、そもそも敵うはずはない。
 それは、元々わかっていたことだが、改めて実感することができた。

「どうした? 来ないのか?」

 様子を見ていたアンナに対して、デルゴラドは口の端を歪めながら、言い放った。

「ならば、こちらから行くぞ!」

 デルゴラドが、アンナに向かってきた。
 アンナは、それから逃げるように、後ろに下がる。

「逃げる? それでも、勇者かあっ!」

 しかし、デルゴラドは、アンナを追いかけ、さらに足を進めてきた。

「くっ!」

 アンナの後ろには、木があった。
 方向を変えると、デルゴラドに攻撃する隙を、与えてしまう。
 つまり、逃げ場がなかった。

「ふん! 終わりだああ!」

 デルゴラドは、大きく棍棒を振りかぶり、そのまま振り下ろしてきた。
 アンナは、剣を構えた。だが、その攻撃を受け止めることは、アンナの力ではできない。
 そのため、他の方法でこの攻撃を受けなければならなかった。

「ソテア流剣技……」
「むっ!?」
受け流しパリィ!」

 アンナは、相手の力の流れを利用し、その攻撃を受け流した。

「ほう! なるほど」
「くうっ!」

 デルゴラドは、自身の攻撃の失敗を悟り、一気に飛び退き、後退した。
 そのまま、カウンター攻撃に移ろうとしていたカルーナは、対象を失い、剣を空ぶった。
 流石に、魔王軍幹部は、一筋縄ではいかないらしい。

「ぶはははは、侮れんな、やはり勇者か。認識を改めなければならんな」
「侮ってくれた方が、私としてはありがたいんだけどね……」

 アンナとデルゴラドは、互いに睨み合いながら、静止する。
 一定の距離を取り、喋りながらも、お互いに相手の隙を探ろうとしている。

「そう言うな……認めてやっているのだぞ? お前を俺の敵であるとなあ」
「……そりゃあ、どうも」

 どうやら、デルゴラドは、アンナのことを今の今まで、敵とすら思っていなかったらしい。
 その態度に、アンナは多少のイラつきを覚えたが、それくらいで突っ込んで行ったりはしなかった。
 
「しかし、このままでは、何も始まらんなあ」
「何……?」
「勇者よ、知っているか? 闘気とは、時に飛び道具になるのだ」
「……まさか!」

 デルゴラドは、棍棒を構えた。
 その体から、アンナは強い闘気を感じた。
 そして、デルゴラドの言葉で、アンナは理解した。
 闘気とは、時にその力を飛ばして攻撃することも可能だ。
 デルゴラドは、その闘気を使って攻撃してくるのだと。

(いや、待て! どうして、奴がそれを言う必要がある?)

 そこでアンナは、違和感に気づき、思考を転換した。
 デルゴラドが、敵であるアンナに、わざわざそれを言う必要などないはずである。
 だが、その時点で遅かった。

「ぶははは!」
「くっ!」

 デルゴラドは、アンナとの距離を一気に詰めてきた。
 闘気による遠距離攻撃が来ると思っていたアンナの思考は、追い付いていなかった。

「くっ!」

 かろうじて、アンナは、体を後ろに下がらせることができた。
 そこで、デルゴラドは、棍棒を振るった。

「甘いぞ! 勇者! 鬼の砲弾オーガ・ブラスト
「な……!」

 デルゴラドの棍棒から、エネルギーの弾が放たれた。
 遠距離攻撃を、このタイミングまで、とっていたのである。

「ぐああっ!」

 その攻撃が、アンナに直撃し、痛みに声をあげる。
 アンナは、なんとか、地に足をつけたが、その体が後ろに下がるのは、避けられなかった。

「まだ、まだ!」

 そんなアンナに、デルゴラドが近づいてくる。
 追撃がくるのだ。アンナとしては、確実に回避しなければならない。
 しかし、後ろに下がっても、左右に行っても、すぐに距離を詰められてしまう。

「はああああ!」
「何っ!?」

 そのため、アンナは、敢えて前に出た。
 その行動に、デルゴラドは目を見開いた。
 逃げると思っていたデルゴラドにとって、その行動は意外だった。
 そのため、逆にデルゴラドの判断を遅らせることになった。

「やああああ!」

 痛みを堪えながら、アンナは闘気を込めて、剣を振るった。

「ぬうっ!」

 呆気にとられたデルゴラドは、その攻撃に吹き飛ばされて後退した。
 カウンター気味の一撃であったため、デルゴラドは、バランスを崩し、片膝を地面についた。
 そして、その瞬間、一つのことに気づいた。

「馬鹿な……」

 デルゴラドの鎧にひびが入っているのだ。
 あの状態から、ここまでの攻撃を受けたことに、デルゴラドは驚愕していた。 

「……はあ、はあ」

 アンナは、息を切らしながら、自分が助かったことを実感していた。
 一か八か、アンナは賭けるしかなかった。
 デルゴラドは、自信家であると、予想することができた。
 そのため、自分の行動は、予測でないと思った。
 結果的に、油断させることができたので、作戦は成功だった。

「ぶははは、やるなあ。こんな戦いは、いつ以来だろうか……」

 アンナがそんなことを考えていると、デルゴラドが笑いながらそう言った。
 アンナが様子を伺うと、何を思ったか、自身の鎧のひびに手を入れていた。

「な、何を……?」
「ふん!」

 デルゴラドが力を入れると、その鎧が内側から砕け、辺りに破片が飛び散った。
 一瞬の出来事に、アンナは驚愕していた。

「何故、自分の鎧を……?」

 身を守っている物を、自らの手で砕く意図が、アンナには読むことができなかった。
 身軽になるのはわかるが、今までの戦いから、その必要があるようには思えなかった。

「ふん! 元々、俺の肉体の方が、鎧よりも固いわ」
「な、そんな……」
「鎧を着てないと、不格好だったからなあ。ぶははは、これでやっと、身軽になったわ」
「鎧よりも……固いだって……」

 アンナは、思わず口を開いていた。
 鎧よりも固い肉体など、アンナ側からしたら、恐怖以外の何物でもない。

「さて……」

 そこで、一度、デルゴラドは言葉を止めて、表情を変えた。
 そして、アンナを指さし、言い放った。

「ここからは、本気の中の本気だ……確実に仕留めてやろう」

 アンナは、デルゴラドから、大きな闘気を感じた。

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