赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~

木山楽斗

第8話 魔族との戦い

 アンナ達が騒ぎの元を訪れた時、すでに、何名かの人間が横たわっていた。
 恐らく、もうその人々に命はないのだろう。
 そこには、アンナ達をここまで送ってくれた兵士もていた。
 アンナは、その原因となった者達を、冷たい視線で睨みつけた。

「お前達が、やったのか!?」

 異形の怪物達は、アンナの存在を認識し、薄く笑った。

「おいおい、わざわざ、こっちに来る人間がいたぜ」
「ぐははは、命知らずなもんだな。剣を持ってやがるぜ。俺達に勝てる気かよ」
「ゴゴー!」

 そこには、魔族達がいた。その内、二体はオーガ、一体はゴーレムである。
 オーガとは、獣のような顔の大男である。その口からは、牙が生え、その体は筋肉で覆われていた。
 一体は、棍棒を持ち、もう一体は、剣を持っていた。
 もう一種は、ゴーレム。ゴーレムの体は、全身が岩石で構成されており、オーガよりも大きな体をしていた。

「俺達も運がいいなあ、軍とはぐれちまったが、いい場所に出れた」
「この村を落とせば、許されるだろうし、評価も上がるし、いいことだらけだな。ぐははは」
「ゴゴ、ゴゴ」
「この村には、軟弱な人間しかいないみたいだしなあ」
「まったくだな、ぐはは」

 魔族達は、嬉しそうに笑いながら、周囲の人々を蹴飛ばしていた。
 この時点で、アンナの怒りは頂点に達していた。
 人々の命を奪っただけでなく、その人達を侮辱するなど、許せるはずもなかった。

「お前達、許さないぞ!」

 アンナは、すでに、地面を蹴っていた。
 魔族達に向かって、一直線。

「おい、向かってきたぞ」
「ぐははは、俺がやってやるぜ」
「ゴゴ!」

 それに合わせて、剣を持ったオーガが、動き出した。
 オーガは、大きく前に出て、剣を構えた。
 アンナを向かい打ち、切り裂くつもりなのだろう。
 アンナも、それを理解していたが、足を止めるつもりはなかった。

「あの世に行きな!」

 アンナが来るのに合わせて、オーガは剣を振るった。
 しかし、それはアンナの計算通り、直前で地面を蹴り、その剣の軌道から外れる。
 オーガの剣は、虚空を切り裂き、地面に刺さった。

「し、しま……」

 オーガが気づいたが、すでに遅かった。

「はあああああ!」
「ぐああああ、あああ、あ……!」

 アンナの聖剣が、オーガを切り裂き、その頭を切り落とした。
 オーガの体は、ゆっくりと動きを止め、倒れていった。

「な、何?」
「ゴゴ?」

 残った魔族達は、驚いていた。かなり気を抜いていたようだが、仲間の死を見て、その表情を改めざる終えなかったようだ。

「……」

 アンナの目は、すでに倒れたオーガを見ていなかった。残った魔族を見つめ、言葉を放つ。

「次はお前らだ……」
「ぐっ! 調子に乗りやがって……」
「ゴゴ……」
「ゴーレム、やっちまえ! お前ならあんなのに負けやしないだろうが!」
「ゴゴ? ゴゴ……」

 オーガの言葉に、ゴーレムは少し不服そうにしたが、すぐにアンナの方へ向かってきた。

「ゴゴ!」

 ゴーレムは、その拳を大きく振りかぶり、アンナ目がけて素早く落とした。

「そんなもの」

 アンナは、地面を蹴り、軽く身を躱した。

「はあああ!」

 そして、その腕に向かって、剣を振り上げた。

「ゴゴ!」

 しかし、その剣は通らなかった。

「何!?」
「ははは、馬鹿め! ゴーレムの頑丈な体に、剣など通る訳がない!」

 オーガが何か言っていたが、アンナの思考はすでに切り替わっていた。

「ゴゴ! ゴゴ! ゴゴー!」

 ゴーレムの追撃を躱しながら、アンナはあることを思い出していた。





「さて、アンナ、カルーナ。今日は闘気について教えようかね」
「はーい」
「はーい」

 アンナとカルーナは、ソテアから戦闘訓練を受けていた。
 ソテアは、いつも二人に戦闘訓練をしているのだが、それになんの意味があるのか、アンナには理解できていなかった。
 隣のカルーナも、そう思っていると、言っていた。
 しかし、二人とも体を動かすのは、嫌いではなかったため、そのことをあまり気にしたてはいなかった。

「闘気、または気とも言うね、これは、自らの武器や肉体を強化できるものさ」
「武器や肉体を強化? なんかすごそうだね」
「まあね。ただし、闘気というのは、扱うのが難しいのさ。特に、魔力の高い者や魔法が得意な者は、闘気を使いにくいと感じる者が多いらしい」
「えー、じゃあ、私は使えないの? お母さん」

 ソテアの説明に、カルーナは少し落ち込んでいた。
 カルーナは、どちらかというと魔法が得意だったため、闘気の話を聞いて、自分にはできないと感じてしまったようだ。

「使えない訳じゃないよ、難しいってだけさ。それに、あんたには魔法があるじゃないか。そっちを伸ばせばいいのさ」
「……うん、わかった。私、そっちを頑張る!」

 ソテアに頭を撫でられ、カルーナは笑顔でそう答えた。

「ということは、今日は、私よりってことだね」
「そういうことね。アンナ、早速始めるよ」

 ソテアの言葉で、アンナは立ち上がった。
 それに釣られるように、カルーナも立ち上がった。

「あれ? カルーナ?」
「あ、お姉ちゃんに釣られちゃった……」
「まあ、カルーナもやってみるといいさ。さて、まず実際に見てもらおうか」

 ソテアは目を瞑りながら、一度深呼吸をした。
 そして、目を見開きながら、大きく叫んだ。

「はああああああああああ!」

 すると、ソテアから、威圧感のようなものが感じられた。

「これが、闘気……」
「なんか、お母さんが怖いよ……」

 アンナとカルーナは、その威圧感に圧倒されていた。
 体が震えて、その場から動くことができなかった。

「そして、これが、闘気を纏いし、一撃!」

 ソテアは、そのまま近くの木に、拳を振るった。
 その瞬間、木にひびが入り、ゆっくりと倒れていった。

「す、すごい……」
「木が……倒れちゃった」

 二人は驚きながらも、ソテアの体から、威圧感がなくなっていくのを感じた。
 ソテアは、二人の方を向きつつ、喋り始めた。

「まあ、ここまでできるようになるのは、時間がかかるだろうがね。少しづつ慣れていこうかね」
「うん、わかった、よろしくね」
「私も頑張ってみるよ」

 こうして、アンナの闘気訓練が始まった。





 アンナは、今になって、理解することができた。叔母が自分に戦闘訓練をしていたのは、こういう時のためだったのだと。
 ならば、今こそ、その成果をあげる時だろう。
 ゴーレムの攻撃を躱しながら、体の底にあるエネルギーを溢れさせる。

「ゴゴ?」

 ゴーレムは、アンナの様子が変わったことを理解したようで、少し怯んでいた。

「ゴゴ!」

 しかし、自身の体の頑丈さから、何をしてきても変わらないとでも思ったのか、攻撃の手を緩めることはなかった。
 アンナは、剣を構えながら、

「はあああああ!」

と雄叫びをあげた。
 そして、さらに、ゴーレムの腕に目がけて、大きく、剣を振るった。

「ゴ、ゴゴ?」

 ゴーレムの腕に、大きくひびが入った。ゴーレムは、それを、不思議そうに見つめていた。

「ゴゴ、ゴゴ!?」

 そして、ゴーレムの腕は大きく崩れ、地面に落ちていった。
 ゴーレムが、大きく驚いている隙を、アンナは見逃さなかった。

「はあああああああああ!」

 次は、ゴーレムの体目がけて、剣を振るった。

「ゴゴ、ゴゴ、ゴゴ……ゴ、ゴ、ゴ、ゴ……」

 ゴーレムは、狂ったように叫びながら、その体を崩し、やがてその声は消え去っていった。

「う、嘘だろ? ゴーレムを砕きやがった。まさか、闘気……?」

 オーガは、その様子を見つめながら、怯えていた。
 アンナは、ゆっくりとオーガの方へ、歩み寄っていった。その手の剣を、強く握りしめていた。

「待ってくれ! た、助けてくれ!」

 オーガは、尻餅をつきながら、アンナに懇願していた。しかし、アンナは、その言葉を聞く気などなかった。

「許さないと、言ったはずだ!」
「ぐぎゃあああ!」

 アンナは、剣を振り下ろし、オーガの体を切り裂いた。
 オーガは、大きな叫びをあげながら、絶命していった。

「……終わった」

 アンナは、剣を鞘に収め、その場に立ち尽くすのだった。

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