捨てられた令嬢~呪われた皇太子~

ノベルバユーザー417511

第十八話

 サラ・レベッカ・ベル誘拐事件は無事解決し、サラ一家は落ち着きを取り戻す。


テレーザは、最初一切罪を認めようとしなかったが、ソフィアが法廷で証言した事もあり使用人達が一致団結し、次々と証言を始めたのだ。
「テレーザ・レベッカ・ベルを夫ルパート殺害の罪とサラ虐待・森への放置の件で死刑とする。尚、娘のエレザ・レベッカ・ベルも罪に加担したとし、伯爵の地位を剥奪し、修道院送りとする」
ベル家長男のイアンはサラの虐待に心を痛めてはいたのだが、何も出来なかった為、刑は免れたがサラへの最大のサポートをするという約束の元、この事件は収束となった。サラは、ベル家の名前を捨てると言ってたのだが、イアンがどうしても、名前だけでも残して欲しいという事で、サラもしぶしぶ了承した。


そして、テレーザの死刑の日が決まった。
「お母さん、私テレーザお母様に会ってきます」
「あんな奴に、哀れみなんてかけなくいいさ」
「いえ、私のけじめとして、行って来ます」
ステラは、少し考え
「今のサラなら大丈夫だね。なら、ヒューも連れていきな。後悔しないようにね」
「はい。ヒュー、一緒に行ってくれる?」
わんっとしっぽを振り、返事をする。


ロビンが荷馬車で城まで送ってくれると、サラとヒューは城へ行く。
カイルが出迎えてくれ、
「さあ、二人共、こちらへ」
と言い、牢屋へ案内される。テレーザが壁を見つめながら、ベッドに座っている。その様子は髪はボサボサで、痩せこけ、目の下には真っ黒なクマが出来ていた。あの時のサラのようだ。
サラが牢屋に近付くと
「サラだね。笑いに来たのかい.....」
力無く話す。
「いいえ、私は人を嘲笑ったりしません」
「ははは...死ぬ間際にサラの気持ちが分かるなんてね」テレーザは遠くを見つめ、懐かしそうに目を細めると
「サラが小さい時はね、私もサラが可愛いくてしょうがなかったんだ。でもね、マーガレットに似て来るにつれ、ルパートがサラを可愛がれば、可愛がる程、憎らしくなってね。ルパートさえも憎くなったんだ。それは、今気ずけば、愛情の裏返しだったんだけど、サラを傷めつけてもちっとも気が晴れなかった。顔を見ると自分がもっと嫌になって、森へ捨ててしまった....サラ、すまなかったね.....」
「やった事はもう戻りません。お母様を助けようとは思えませんが、せめて、さよならだけでも言いたくて.....」
「最後に来てくれたのが、サラだなんてね。サラ、幸せにおなり....」
テレーザは、見た事もないような美しい顔で微笑む。
「ええ、お母様、さようなら......」
テレーザは一筋の涙を流し
「サラ、ありがとう......」と呟いた。
サラは、振り返らず歩き出す。ヒューもその後に続き城を後にする。


サラは、空を見上げ
「さっ、ヒュー帰ろっ。少し歩いて帰ろうか」
と言って城の川沿いを歩いて帰る。
サラは、
「追いかけっこしようっ!」と言って、走り出す。ヒューは、わんっと言って追いかける。
「ヒュー、早く、こっち、こっち」
サラが後ろを向き、ヒューを手招きすると
「きゃっ」と言って、石につまずく。
そして、体勢を崩して川に落ちそうになると、
ヒューは、思わず
「サラっ、危ないっ!」と口に出してしまう。
サラは、驚いた顔をし、なんとか踏ん張り踏みとどまると、
「ヒュー?まさかだけと思うけど、今喋った?」ヒューの顔を見つめる。
ヒューは、素知らぬ顔を決めるが、サラが顔を近付け
「あっ、今まずっいって顔してる。正直に言わない子は、こうしますっ」といって体中をくすぐる。ヒューは、我慢するが、我慢も限界になり
「バ、バカ、や、やめろっ、サラ。分かった、正直に話す」
「正直で宜しい」と言ってヒューをくすぐるのをやめる。ヒューは、恐る恐る
「気持ち悪くないのか?」と尋ねると、
「ぜんっぜんっ。ずっとヒューが喋れたらどんなに素敵なんだろうって思ってたから」
「そうなのか」
「うん、だから嬉しいっ」
ヒューは、思っても見なかったのでとても嬉しかった。
「最初から、喋れたの?」
「いや、ハンナから喋れるようにして貰った」
「ハンナって、あのハンナさん?ヒューも知り合いなの?」
「まあな、偶然な」
「ふーん、そうなんだ。この間ね、舞踏会に行けたのも、ハンナさんのおかげなんだよ」
「そうか、それは良かったな」
「うん....」
どうも偶然にしては出来すぎてる気がするが
「でも、これからヒューと話せるなんて嬉しいから、いいか....」
「それは、こちらもありがたいな。しかしあれだぞ。ステラとロビンには内緒だぞ」
「私は別に言ってもいいと思うけど」
「いや、ダメだ」
「分かった。約束する」
そう言うと、サラは歩き出す。
「今日は悲しかったけど、嬉しい事もあった。これも全部ヒューのおかげ」


サラとヒューは、たわいもない話しをしながら家へと帰るのだった。

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