捨てられた令嬢~呪われた皇太子~

ノベルバユーザー417511

第四話

 ヒューは、見つからないように、こっそり店を出ると、急いで森へ駆け出す。道行く人が
「なんだ?今なんか、走り抜けなかったか?」と驚いている。


ヒューは、急ぐ。月が昇るまでに、人目の付かない所へ行かなければ。ハっハっと、息が上がるが、猛スピードで走り抜ける。
そして、森にたどり着いた。しばらく、じっとしていると、闇が濃くなり月がヒューを照らし出す。キラキラと輝き始めると、ヒューは人の
姿へと変わる。
「間に合ったか.....」と、ラッセルは呟く。
ヒューは、この国の第一皇太子ラッセル・バロン・ウォルフだった。


ラッセルには弟レオがおり、レオは側室から生まれた子供であるが為に、兄の事を疎んでいるふしがあった。それは、レオの母からの影響でもあったのだがレオの母シーラは、レオを王位継承者にさせたくて必死になっていた。ラッセルは、子供の頃から、常に命を狙われており、毒を盛られる事もしばしばあった。


そんな事もあり、ラッセルとレオは心を通わせる事が無く、殆ど話す事も無かった。レオは成長すると共に、心は歪んで行き、いつしか、兄さえ居なければ、幸せになれると思い込んで行くようになる。


「おい、アンブラ、お前はどんな魔法でも使えるのか?」
レオは、西の魔女に尋ねる。
「生意気な、口聞くねぇ。私に出来ない事は無いよ」
「ふ~ん。そうか。なら俺の望みも聞けるか?」
「事にもよるね」
「兄、ラッセルを消す事は出来るか?」
「そんな事だろうと、思ったよ。残念だね。今も、契約で縛られてるから王家の者には手出しは出来ないよ」
「これの事か?」
レオは、古ぼけた箱から、一枚の紙を取り出す。
「どこでそれをっ!」
「厳重にしまってあったが、俺にとっては何て事ない」
「それを、こっちにお渡しっ」
「ただじゃ、ダメだ。交換条件だ。まずは新しい契約書を作る。お前は決して俺には手出しは出来ない。そして、俺の望みは必ず叶える。これだけだ。どうする?」
「ひねくれた奴がやっと現れたんだね。面白しろそうじゃないかい。何百年も悪さが出来なくて、退屈してた所さ」
アンブラは、契約書を出すと、その内容が浮かび上がる。
「これに、あんたの血と私の血を垂らせば契約成立さ」
レオは、契約書を確認する。
「間違いないな」
レオはナイフで指の先を少し切り契約書に血を垂らす。そしてアンブラも血を垂らす。
「これで契約成立さ」
レオは、古い契約書をアンブラに渡す。 
指の先から青い火を出すと契約書は、ボッと燃え一瞬で灰になる。
「それで、第一皇太子を消すんだっけ?」
「そうだ」
「ただ消すだけじゃ、つまらないねぇ。呪いをかけようじゃないかい」
「どんな、呪いだ」
「犬に変えるってのは、どうだい?」
レオは少し考え
「苦悩を与えるのも悪くない......殺すのは
いつでも出来るからな」
「決まりだね。けけけけけ」
アンブラは煙と共に消える。


ラッセルの元に、煙と共にアンブラが現れる。
「お前は、西の魔女、アンブラか」
ごくりと、ラッセルの喉が鳴る。
「あんたに、恨みは無いんだけどねぇ。契約しちまったから、しょうがない」
「確か、王家には手出しは出来ないのでは」
「昔はね、だけど今変わったんだよ」
そう言うと、アンブラは、ラッセルに向けて手をかざすと、ラッセルは煙に包まれる。
「な、なにをするっ!」
煙が徐々に消えると、真っ白な大きな犬に姿が変わる。
「う~、わんっ、わんっ」
「あはははっ、可愛いいじゃないかい。恨むなら、レオを恨みな。特別に、私は優しいから
呪いをとく方法を教えてあげるよ。犬の姿のまま、あんたを心から愛する人を見つけられれば、呪いは解ける。できっこないけどね。犬を本気で愛する奴なんか、いないだろうからねぇ。けけけけけ。それと、満月の日にだけは、人に戻してあげるよ」
「う~」
ラッセルは唸り声をあげ、バルコニーから飛び出し、森へ向かう。
「面白くなってきたねぇ」
アンブラはニヤニヤしながら呟く。


ラッセルは、森へ向かう。今日は満月のはずだ。一旦冷静に考える為に森へ急ぐ。森へ到着すると、夜は更けていき、月が顔を出す。
すると、アンブラが言っていたように人の姿へと戻る。
「くそっ、レオのやつ、俺はどうすればいいんだ....」
すると遠くから、ガサガサと人の歩く音が聞こえる。
「誰だ?こんな夜更け、それも満月の夜に....」
ラッセルは茂みに隠れる。月が雲に隠れ、また犬の姿に戻る。月の光で、人に変わるのか......


じっと、茂みで様子を伺ってるとボロボロの女が、フラフラと歩いて来るのが見える。そして、膝を抱えてうずくまる。


ケガをしているのか?女は、うっすらと笑い声をあげる。ラッセルは、じっとしていたのだが
その姿が、あまりにも酷い様子で、見ていられなくなって、思わず女の前に出る。驚いた女は、目を見開いていたがくぅ~ん。と鳴くと
「お前も、一人で、淋しいの?」と聞いてきた。足を見ると、ケガをして血が出ているようだ。ペロペロと血を舐めると、くすぐったいと
笑顔を見せ、抱きついてきた。その女はサラと言った。そして、
「温ったかい」と言って涙を流す。


いったい、サラに何があったのか?その瞳は、悲しみに雲っていたが瞳の奥には、キラキラと輝くものが見える。姿はボロボロでギスギスしていたのだが、ラッセルはその笑顔に一瞬で心を奪われる。


なんとか、しなければ.....自分の事もままならいのに。もどかしが募る。


すると、ヒューを抱き締めていたサラは、落ち着いてきたのか、眠りに落ちる。雲が過ぎ去り、月が顔を出す。ラッセルは、人の姿に戻りサラを抱きしめる。
「こんなに、ボロボロで...それでも
笑顔を見せるのか.....」


ラッセルは、夜が明けるまでサラを抱きしめ続けるのだった。



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