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自称前世の夫が急に現れて求婚してくるのでどうにかしてください

アカイリツ

15:使用人の鑑


特に約束をした覚えはないけれど、一緒に帰る事は決定事項なのだろう。
定時時刻間際に来た連絡は、
『今日は接待でどうしても抜けられない。風吹に迎えにいかせる』
というものだった。

一人であの家に帰れない、というか住所もよく知らないことに気づいた私は大人しくいつもの場所へと向かった。
そこには既にいつもの車が止まっていて、覗き込めば、運転席で風吹さんが会釈をする。

「すみません、わざわざ迎えにきていただいて」
「いえ、本来であれば毎回我々を使えばいいものの、虎次郎様は蓮子様とどうしても二人きりでいたいようでして」
「はぁ…」

あいつ、風吹さんにも色々吹き込んでいるのだろうな。
呆れや恥ずかしさの感情と共に車の扉を閉めると、風吹さんはゆっくりと車を発進させた。

こんな風に、あの屋敷からは行きも帰りも必ず車だ。
出かける時も虎が車を出してくれるし(駅から遠いらしい)、同じような道をクネクネ曲がった先にあるあの家は、毎日通ってても覚えられないのが悔しい。

いくら自分で行くと言い張っても、そこはダメだと譲らない。
けれど外に出ること自体は特に制限されないし、
この間のデートだって、普通に買い物に行く時だって、屋敷の外で自由に一人で動き回れるし、私は常に監視されているわけでもなさそうだ。

まぁ、駅から遠いのであれば車を出して貰えるのは助かるし、駅から近かったとしても車はやはり便利だ。
そう、自分の中で決着がついたところで、そろそろこの現実と向き合おうと決める。

「…………」
「…………」

この人本当全然喋らないな!

車の中で二人っきりで無言でいるのが、相手が顔見知りだと大分辛い。
でも私と風吹さんのこの距離感では何を話していいのかもよくわからない。
よくわからないけれど、何だか少し威圧感すら感じてきてしまったのでここは何か、何か共通を探す会話でも…!

「えっと、風吹さんはどのくらいあの家でお仕事されてるんですか?」

そう、まずはお互いのことを知ろう!
そうよ、いい質問だったわ!

「どのくらい…。そうですね、お暇をいただく事の方が多かったので、通算でどのくらいというのは難しい質問ですね」

この人真面目なんだな。
顎に手をあて考え始めてしまった様子を見て、前を見てくれと慌てて口にする。

「適当でいいんですよ?そんなの」
「適当…それなら、ざっと数百年でしょうか」
「いや、それは適当すぎます」

急に返答が雑になった!!
何なのこの人!!
もしかしてしなくとも私は遊ばれているのではないか。

「あの、それじゃぁ、虎の事何か教えてくれません?」
「虎次郎様のこと、ですか?」

バックミラー越しに目があった。
何故自分にそんなことを聞くのだろうとでも言いたげだ。
他に共通点が見つけられないからです。

「えと、風吹さんから見て、東雲虎次郎とは、どういう人、」
「偉大な方です」

とても早く、すっぱりときっぱりと言い切ったなこいつ。
うん、虎の話題はきっと正解だ。
崇拝具合をとても伝えてくれそうな雰囲気だ。

「ご自分の役目をきちんと理解して、文句を言いながらもそれなりにこなす、そんな方でした。……蓮子様に会うまでは、ですが」
「……そう、ですか」

え、あれ、虎への崇拝ではなく私のディスりが始まったの?

「あの日、『嫁を見つけた』と騒ぎだした時は、頭でも打ったのではないかと思いました。仕事中も家でもあなたを手に入れる為に、ああでもないこうでもないと画策しておいでで…まぁ、仕事もきちんとやってはいたのですが」
「……それは、すみません?」

いや、私謝るのはおかしいよね?
頭を打ったんじゃないかというところはとても賛同できるけれど、
何かちょっと怒ってますよね…?
これは何かが始まってしまったような気もする。

グッジョブ私とおもったけれどやはりこれは話題チェンジした方がいいのかもしれない。

「いえ、そうではありません。喜ばしいことです」
「え?」

一定のテンションで繰り広げられる会話では、彼の感情はよくわからない。
けれど、どうやら怒っているわけでは無いらしい。

「それまでの虎次郎様は、特に何にも興味を持たず、あまり生きていて楽しそうではなさそうでした。それが蓮子様とお会いになってから彼の方は変わられた。あの家も、蓮子様が来られてから随分と明るくなりました」
「はぁ、それは、良かったです…」
「蓮子様とご結婚すると言って連れてこられた時、あなたはとても嫌そうでしたね。随分と昔のことなのに、つい最近のことのようです」
「いえ、風吹さん。つい最近です、私があの家に拉致られたの」
「いいえ、そちらではなくて、もうどのくらい前になりますかね…100年過ぎたあたりから待ちくたびれて数えるのはやめたもので」
「…………」

……私は理解した。
こいつも同類であると。

虎に付き合っているのか、はたまたそれを利用して私をおちょくっているのか、どちらにせよ、虎側の人間だ。
あいつの手下だもの、当然だった!

「蓮子様はお忘れでしょうが、私共は皆覚えておりますよ。
蓮子様と共に過ごした日々は、とても幸せでございました。
ですから再びお会いできる時まで、お待ち申し上げると虎次郎様とお約束したのです」

口裏合わせは完璧だ。
自分の妄想に周りを巻き込んではいけないと、あの男には伝えようと決意した。

「………。蓮子様、庭に蔵があるのをご存知ですか?」
「蔵?」
「はい。その蔵には色々なものが仕舞われております。虎次郎様の事をお知りになりたいのであれば、そちらでお調べするのがお早いかと。お好きにご覧ください」

あの広大な敷地で、彼が言う庭とは一体どの辺りを指すのだろう。
先日庭を散歩すると言ってハイキングレベルになった件を思い出す。

けれど、相手を知りたいと思い始めている私には願ってもいない情報かもしれない。


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