話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

自称前世の夫が急に現れて求婚してくるのでどうにかしてください

アカイリツ

11:妻の座


「お、噂をすれば、戻ってきたぞ」

さぁ、どうやって罵ってやろうかとランチの帰り道ずっと考えていると、
部屋に入ってすぐ、同じ部署の二条さんに声をかけられる。

その向かいには、今怒りの矛先である男が何やら書類を持って立っていた。
噂?一体何をお話しで?

「七瀬、東雲が書類の提出しにきたんだと」
「そうですか。二条さんが貰ってくれて構わないんですけど。書類受け取るだけなら、わざわざ私の事待たなくていいんじゃないですか?」
「蓮子?何怒ってるんだ?」
「怒ってない!あと、蓮子って呼ばないでください、東雲さん」

思わず大きい声を出してしまい、ぽかんとする二条さんに慌てて弁解する。

「二条さん、東雲さんと仲いいんですね。だったらこれからは東雲さんの案件は全部、二条さんがやったらどうですか?」
「何だお前ら喧嘩でもしたのか」
「してません、する理由もないですよね、私と東雲さんは無関係なんで」
「またそんな事言って。お前ら本当はできてんじゃねぇの?」

ニヤニヤとする顔が非常にむかつく。
最近そういう誤解を与えるシーンはいくつか体験したので、それをからかっているのだろう。

隣に立つ男は表情も変えず、私が何に怒っているのか考えているようだ。
何に怒っているか?それも分からずに、よくもあんな何度も何度も…!
触れた感覚は鮮明で、思い出すのは簡単だと言うのに。

「二条さん、そういう冗談やめてもらえますか。東雲さんの奥さんに失礼ですから!」
「………」
「………」

言ってやった。
言ってやりました。

男二人はピタリと止まり、なぜお前がそれを知っているのかと言いたげな顔になっていく。

冗談じゃない。
馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。

少しずつ絆されている自分が非常に情けない。
付き合っているわけでもない男の家で過ごしている時点でアレだが、相手がシングルで迫ってくるのと、既婚者で遊ばれようとしているのでは意味が全く違うのだ。

何より、フェアじゃない。
いや、拉致監禁されるのも決してフェアとは言い難いけれど。

「……ん?結婚してるって隠してるんじゃなかったのか?」
「あぁ、隠してたな」
「なっ……!!」

最低すぎる…!!

焦る様子もないのがまた苛立つ。
別にばれてもいいとでも思っていたのだろうか。
なんてクズなのだ。
なんというクズなのか!!!

「そうやって人でもてあそんで楽しい!?ほんと最低!」

ここが会社である事も忘れて、胸倉をつかむ勢いで罵りを開始する。
ついに周りが何だ何だと注目し始めてしまったが、私のこの感情は今クライマックスに突入しようとしている。
無理だ、止められない。

暴言の数々が出そうになった事を察知した二条さんが、慌てて私の口を押さえた。

「あー…えっと、何があったか知らないが、お前ら仲直りしろ」

そして押さえたまま向かいで私を見下ろしている男へと私を受け渡す。
お前のせいだ、お前が何とかしろ、と。

「七瀬、鬱憤は東雲で晴らせ」
「だから、奥さんが、」
「あぁ、だから、」

呆れるように言葉を続けた二条さんの言葉に、私はやっと吐き出しかけていた全ての言葉を飲み込んだ。



「その奥さんは、お前だろ?」



………は?



「結婚してるの、バレたくなかったんじゃないのか?なのに自分から奥さんがどうのって、秘密にしたいってのはもういいのか?」
「………」


既に私が騒いでいることで注がれていた視線が、ここで更に視線を独り占めすることになった。
一体みんなの視線を集めるのは何度目だろうか。

「会社では黙っておきたいって東雲が言うから、他の奴らは東雲が既婚者だってことしか知らない」
「……はい?」

すると捕獲したとばかりに、後ろからガシッと肩に手が添えられた。
振り返るのが非常に恐ろしい。

「蓮子、お前が言ったんだろ。恥ずかしいから会社では秘密にしたいって。
 秘密はもういいのか?まぁ俺はバレても一向に構わんが。
 寧ろ、お前は俺の嫁だと皆に言ってまわりたかったからな。
 よし、今後は公表していこう。二条、そういう事だ。うちの妻を頼んだぞ」

何やら早口で話す男は、出来上がっていた台詞を話すかのようにペラペラと言葉を並べた。

「七瀬、お前も我儘だな。あんまり旦那の事振り回すなよ?」
「いいんだよ、そういうところがいい」
「バレてそうそう惚気るな」
「…………」

そしてそっと、耳元でささやかれる。

よく考えろ、家のやつらもみんなお前を妻扱いしているだろ、と。
同時に、奥様と呼ぶ柊さんの姿が浮かんだ。

つまり、姿が見えないと思った”奥様”は私の事であり、結婚しているという相手はつまり、そういうことだ。


…………やられた。
これで私は家でも会社でも、彼の奥さんとして認識されてしまった。
外堀を埋めていく工程は着々と進んでいたのだ。

チャイムが鳴って、お昼休みが終わる。
男を睨みつけるも、ニヤリとしてやった的な顔を返されて怒りが増した。

あぁ…どんどん嵌められていくこの罠は、抜け出すのが非常に難しそうだ。


「自称前世の夫が急に現れて求婚してくるのでどうにかしてください」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く