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自称前世の夫が急に現れて求婚してくるのでどうにかしてください

アカイリツ

07:名前を呼んで


「蓮子、帰るぞ」
「…………」

手段は選ばないと言い放ったその男は、どうやら外堀から埋めていくつもりらしい。

定時退社時刻まであと1分…何がなんでもあの男よりも先に会社を出て、出費は痛いがタクシー使ってどこか見つからなさそうな場所へ逃げてやる、
という意気込みで時計の針が動くのと同時に腰をあげたその瞬間、そいつは現れた。

今朝の集中した視線をどうにかウソ八百並べて逃げ切ったというのに、
再び向けられた全員の視線を一体どうしてくれるのだろう。





*****




「そんな離れたところにいないで、こっちにこい」

タクシーなんてお前が使おうとするとは、貧乏性なお前がな、そんなに嫌か、
と、また楽しそうに笑う男に車に乗せられ、再び拉致られた場所は昨日と同じ立派なお屋敷。

昨日と同じスーツの集団に出迎えられ、
立派な玄関をあがり、
長い廊下を歩かされ、
そして一段と豪華な襖を開けると、
だだっ広い畳の間が現れる。

「………」

同じだ。
昨日と何も変わっていない。

身体はこうして拉致られても、心は決して屈服したりしないと、
全身から分かりやすい拒否のオーラを出しているのに、この男はとても嬉しそうで楽しそうだ。

こいつを表現する言葉にドMを付け加えておく。
あと、さらっと口にした貧乏性って言葉も根に持っていますから、私。

「また最初から口説かなきゃいけないのか。結婚前もそうだったが、お前を手に入れるのは至難の技だな。相変わらず骨が折れる女だ」

こいつの妄想の中では、私達は結婚して一体どのくらいの時が過ぎているのだろうか。
まともに会話したのは昨日が初めてだというこの関係で。

…いや、ちょっと待てよ、
あれ、残念、まともに会話ができた記憶はないな。

「いつまでぶすくれてるんだ。可愛い顔がだいなしだ」
「家に帰るまでよ!」
「何度やりとりすれば気が済むんだ?お前の家はここだ」
「そっちこそ何度言わせるのよ、もうほんといい加減に、……え?」

睨みつける為に奴へと目線を上げた時、半分開かれていた襖の向こう側に置かれている家具や荷物が目に入った。
そしてそれらはとても親しみのある見慣れた物たちだ。

おい、まじか。

「私の荷物!!??」

男の脇を駆け抜け、襖をスパーンと全開すると、部屋の中に設置されているのは私の家にあるべきものたち全てだ。
そう、全て。

冷蔵庫までおいてあって、一瞬中身のハーゲンダッツ(ストロベリー味)の生存確認をしそうになった自分に、貧乏性という先程の言葉を思い出しイラっとする。

でもハーゲンダッツだから貧乏性にはノーカウントなはずだ。
誰だってハーゲンダッツの命は確認したいに決まっている。

「全て運ばせた。何も残してきていないはずだが、ないものがあったら言え」
「…なぜ運ぶ必要が?」

答えろ、答えによってはいてまうぞこらぁぁぁと襟元を掴んで強く揺さぶると、
ダメージゼロで男は平然と言いのけた。

「あの賃貸アパートは解約した」

ほわぁぁっっっつ!!??

解約!?

解約したと言ったのか貴様ぁぁぁぁ!

「そもそも、何故あんなセキュリティの低い家に住んでいたんだ。何かあったらどうする!家を知った時は心臓が止まるかと思ったぞ!」

いっそ止まったら良かったんじゃないですかね!

「私がどこに住もうとあんたに関係ないでしょ!?」
「俺はお前の夫だ、大いに関係あるだろう」
「だから、」
「愛する妻の心配をして何が悪い。お前に何かあったら、俺は…」
「なっ……」

急に泣きそうな目で見つめてきて、どきりとするのと同時に、何故か私までとても悲しい気持ちになった。

思わず手を伸ばして、泣かないで、と目元に触れる。


あぁ、よかった。


あなたに触れられた。



――もう一度、あなたに触れられる…。




「…………」

…………いや、もう一度ってなんだ、どうした自分。

しっかりしなさい蓮子!
相手のペースに乗せられてはいけないわ!
これはきっと洗脳というやつよ、奴は洗脳という技を繰り出そうとしている!
迎え撃つ攻撃の選択を早くするのよ!

「と、とにかく!すぐにその解約取り消して!私は家に帰りたいの!」
「お前から触れてくるとは…もしかして、何か思い出したか?」
「あんたほんと、人の話聞きなさいよ!」
「あんたじゃない。名前を呼べ」
「誰が呼ぶかぁぁぁ!!」

殴りたい衝動は収まりそうにない。




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