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自称前世の夫が急に現れて求婚してくるのでどうにかしてください

アカイリツ

05:勘弁してください


「蓮子、今日ランチ何にする?」

まだ出社したばかりの時間帯だというのに、
隣に座る同僚の栞那かんながルンルンで本日のランチについて声をかけてきた。

「今日は…食堂、かな…」
「あれ、珍しい。今日の定食、蓮子の好きなやつだったっけ?」

そう言いながら今週の食堂メニューを調べる。

「ゲテモノ特集…。これ、食べたいの…?」

そんな微妙な顔をしてこっちを見ないで欲しい。

食べたいわけがないし、
私じゃなくてもそれは人気のある特集だとはとても思えない。
社食で出すようなメニューなの?
栄養満点って書いてあるけど、もっと需要のあるものだそうよ、社員食堂でしょ!

イラッとする気持ちと共に、どんっとデスクに朝持たされたお弁当を置いた。
栞那の表情がますます険しくなっていく。

当然だ、私が栞那の立場でもそうする。

「……え、…お重?」

そう、そうなのだ。
家を出る時に、風吹と呼ばれていた男性にとてつもない笑顔で、

『僭越ながらお弁当を作りましたので、お二人で食べ合いっこでもしてお召し上がりくださいませ』

と、半ば強引に渡されたのが、そうです、このお重です。
何だかとても高そうな雰囲気を醸し出しているし、あの張り切り具合だと中身にも驚かされそうで開けるのが非常に怖い。

何とか脳内でお弁当というカテゴリーに収めては見たものの、
栞那の表情を見て、これは食堂でも目立つという予想は私の自意識過剰ではなく事実となると確信した。
ただの嫌がらせにしか思えない。

「そういえばあんた、東雲さんと出社したでしょ」
「!?」

どうしてその事を知っているのか…!

確かに奴の運転する車に乗せられて出社はしたけれど、
からかわれるのが嫌だとハンドルを奪う勢いで騒いだら、なんとか会社の少し手前で降ろしてもらえた。

渋々ではあったけれど私をそこに降ろすと、名残惜しそうに何度も進んでは止まりを繰り返しながら去っていったあの男は、やはりこの会社の人間だったのか。

「…知ってるの?あの人のこと」

でも本当にこの会社の人間なら、何故私は存在を知らなかったのか。

確かにそれなりの規模のある会社ではあるけれど、
私のいる部署は割と他部署と関わる機会が多い。
栞那が知っているのだから、私だって見たことがあってもいいレベルだ。

それとも全く眼中に入らないほど、普段は地味で影が薄いのだろうか。

「…………」

いや、ないだろ。

ないだろ。
どんな二重人格だよ。裏表激しすぎるだろ。

あぁ、ダメだ。初対面のインパクトが強すぎて客観的な意見は浮かんで来そうにない。

「そっか、蓮子が転職してきたのって、東雲さんが転勤した後だったのか」

あぁ、なるほど、転勤。
それは仕方ない、他支店の面子まで把握してないわ。

でもあんなエキセントリックなやつ、仕事上でも何かやらかしてそうだし、そういった問題点の一つや二つ耳に挟んでも良さそうではある。

「イケメンなのに仕事もバリバリこなすのよね。転勤も新規事業の立ち上げでどうしても責任者が必要だったからって渋々だし。
 爽やか笑顔で素敵って、相変わらずの大人気っぷりはここまで届いてたわ」
「…………」

あれ、それ 違う人じゃない?

どうやっても、そんな爽やか笑顔とあの拉致犯が繋がる気配が微塵もしないです。
爽やかって意味知ってる?って思わず口から出かけた程だ。

「おー、東雲、久しぶりだな」
「!!??」

人の話を全くきかないただの強引な男を思い出していると、
まさかの本人ご登場に、思わずお重に頭を隠して、
隙間からこっそりと様子を伺う。

「そうか、今月から戻ってきたんだったな」
「あぁ、またよろしく頼むよ、二条」
「任せろ!飲み会いつでもセッティングするぞ」
「はは、お前は相変わらずだな」

…………え、あれ誰!!?

私の記憶のそれと似ても似つかない表情で笑うそいつは、確かに爽やか笑顔という言葉がよく似合う。
外見だって普通にイケメンの部類だ。
そこであの笑顔ときたら、これは普通に会っていたらそこそこの合格点だったかもしれない。

そう…… 普通に会えていたらな!

今の私にとってあの男は、意味不明な状況を押し付けてくる拉致犯であり、セクハラを通り越したスキンシップを披露する変態野郎である。
私は知っている。そんな笑顔に騙されたりしない。

「…蓮子、あんた何やってんの?」
「しっ!」

私は今ここにいません、話しかけないで!

人差し指をたてて「静かに」と栞那に伝えると、更にお重の影に隠れようと身を縮こまらせる。

今朝からの挙動不振に栞那の目がどんどんしらけていくけれど、背に腹は変えられない。
今は命を守ることが優先だ。
それもこれも全部あの男のせい。
私は完全なる被害者である。

どうやってここから逃げようか考えていると、爆弾はなんの前触れもなく落とされた。

「蓮子、ちょっといいか」

その瞬間、ザワッという音と共に、この部屋にいる全員の視線が私に向けられるという一種のショーが行われた。

おい、マジか。
マジなのか。

求婚→拉致→監禁→セクハラ、その次は私から仕事を奪おうとしていますか?
会社にいられなくしようとしていますか!?
あれ、目的は社会的抹殺だった!?

「〝蓮子〟…?」
「え、どういう関係…?」

ほら、ざわっとし始めてしまった。

あぁ、私の平穏な日々よ、さようなら。
天国だと思ったこの会社も、ある意味ブラックとなりそうである。

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