採集者の役得

赤猪千兎

採集者の逃走②

全速力で疾走するローガだが所詮人間、体力に限りがある。
先程から長時間全力疾走し続けていたローガは疲労の末、息切れに眩暈まで引き起こしていた。
だが、流石は大猪。疲れ果てていたローグに対して大猪は息切れする事なく鼻息を荒くして、こちらへ加速する。

「ヤバい!死ぬ!」

ローグのスピードが徐々に落ち、大猪はすぐそこまで来ていた。近くで見ると獣臭さや獰猛な体躯が恐怖心を駆り立てる。
ローグの足は疲労に打ち勝つ事が出来ず、ついに止まりかけてしまう。
このままではガチで死ぬ!そう悟ったローグは決死の覚悟を振り絞る。
大猪が突進し、その厳つい牙で体当たりしようとする。その行動自体を先読みし、ロードは大猪の頭に乗る。
ここから、大猪の背後に回り姿をくらます。予定だった。

「ふえっ?」

余りの衝撃に声が裏返る。ローガの体は自身の制御なしに、上空十メートル程に吹き飛ばされていた。
これは明らかにただの大猪が成せる技ではなかった。空中で身動きが取れず漂っていた中ふと大猪の方を見る。
そして気づく。大猪が魔法を使っていたということを。
この世界で魔法を使えるのは人間だけではなく、知性が拙い野生動物もごく稀に自然から魔力を帯び無意識に魔法を使えるようになる。そのような動物を『魔獣』と呼ぶ。

「てめぇ……『魔獣』だったのかよ……」

ローグは消え行く意識の中そう捨て台詞を置き、勢いに身を任せてそのまま遠くの小さな崖から落ちていった。




痛みで目が覚めたのは生まれて初めての体験だった。
ローガを魔法で吹き飛ばした大猪の姿はもう見えない。
しかし、命の危機はまだ過ぎていなかった。体の複個所が複雑骨折し、あばら骨は肺に刺さっており呼吸が浅い。所々の傷からの大量出血。一難去ってもまだ問題は残るばかりだった。

「仕方ないな……使うか……」

ローグはため息を吐き、背負っていたリュックから『薬草』と『空瓶』を取り出した。
空瓶は市販のアイテムであるのに対して、薬草は今回の依頼目的の『希少価値の高い薬草』であった。

「これなら良い『回復薬』が作れそうだな……あとは」

ローグは、薬草と空瓶を並べて置き、その上に手をかざした。
『採集者』はモンスターを倒せる圧倒的攻撃スキルを持っていない代わりに、採集に融通が効くスキルを持っている。
その中の一つでレベルは低いが便利なスキルの一つ。それが、

「『合成』っ!」

『合成』は複数のアイテムを合体させ新たなアイテムに作り替えるスキルである。しかし、それらを専門とする天職の『鍛冶屋』や『薬剤師』が持つ融合スキルと比べればレベル差が大きくみられる。
唱えると同時に、上にかざした手の平から淡い光が放出され、その光は薬草と空瓶を包み隠した。
スキルは人間が持つ『魔力』を媒体として使用される。そのためスキルのレベルが低いと効果が薄かったり集中力が必要になったりする。

「よっし、できたぜ」

ローグの手から放出されていた光が止み、その姿があらわになる。
先程まで薬草と空瓶があった場所には「回復薬」が出現していた。






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