採集者の役得

赤猪千兎

採集者の悲劇②

「「お邪魔します!」」

二人は声を合わせて教会の門を開いた。
そこには神々しい装飾と奥に佇む美しい修道女の姿があった。
修道女の名はミーシャ。信仰の強い町では有名な人物で二人とも子供のころはお世話になっていた。

「ミーシャさん!私たち無事成人を迎えられました」

ミーシャと別段仲が良いアリンは、抱き着きながら挨拶する。
ミーシャはアリンの頭を撫でながら、

「えぇ、おめでとう。アリン、ローグ」

「お、おう!」

ミーシャからの歓迎に、ローグは照れてしまう。
それを見たアリンはニヤリと笑い、

「やーい!ローグが照れてる照れてる!」

「う、うるせえ!それよりも、ミーシャさん。俺ら天職を聞きに来たんです!」

「はい、わかりました」

ミーシャはローグの提案に即し、奥から聖書を取り出した。

「それではローグ、アリン。神の名の下、二人の成人を祝い『天職の儀』を行います。まずはアリンから」

まさか自分からとは思はなかったアリンは、ビクッと肩を震わせる。その反応をみたローグはアリンの背中を叩き、緊張を解す。

「ありがとう、行ってくる」

「おう、頑張ってこい!」

アリンは祭壇に上り聖書を掲げるミーシャの前に立つ。ミーシャが小声で唱えると同時に聖書から眩い光が放たれる。それはこの世界に存在する『魔法』という力である。
そして、聖書から文字が浮かび上がり、それらはアリンの目の前に並ぶ。

「アリン。それがあなたの『天職』よ」

「……これが私の天職。『弓使いアーチャー』!」

弓使いアーチャー』は、名前通り弓を使う事に長け、『戦士』や『タイタン』のようにモンスターを倒す事もできる天職である。

「繊細なことにまで気をつかえるアリンにピッタリな『天職』ですね」

「ありがとう、アリン!」

どうやらアリンは『弓使いアーチャー』の天職を気に入ったようだ。
そして、ローグは次は自分の番という事に、胸を高鳴らしていた。

「それじゃあ、次はローグね」

「はっはい!」

緊張のあまり声が裏返るローグに察し、今度はアリンが後ろからローグの背中をバシンッと叩く。

「痛いっ!」

「行ってこい!勇者っ」

アリンの後ろからの声援に応えるように、「おうっ!」と手を掲げて祭壇へ向かう。
これまで、ずっと『勇者』に憧れていた。俺も、人々をモンスターから守り、称えられ、伝説となりたいと夢見ていた。
そして、それが今、目の前で待っているんだ!
ローグは祭壇に上り、ミーシャの前に立つ。
ミーシャはこちらに微笑み、再び小声で唱え、聖書から眩い光が放たれる。
そして、目の前に次々と文字が表示されていく。

その時、その刹那、その瞬間からローグの運命は変わっていった。

「ローグ。それがあなたの『天職』です」

「ローグ!一体、どんな天職だったのよ、教えなさいよ!」

すぐ後ろからアリンとミーシャが声をかけるが、今のローグにとって遠く聞こえるように感じていた。

「俺の天職……『採集者』って書いてるんだけど」

そう。その日、ローグの夢は崩され、『採集者』としての現実が待ち受けていたのだ。

『採集者』それは、薬草や鉱石、素材などを収集、採掘し売ることを仕事としている。もちろん、モンスターを倒す力はほとんど無い。




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