月に水まんじゅう
38 伸二と孫・1
修一と真琴の間に赤ちゃんが生まれた。
女の子だ。
二人は結婚後すぐに片桐家で生活をし、奈保子が相変わらず生活の面倒を見ていた。
つまり真琴と星奈が入れ替わっただけだ。
真琴はあまり社交性はなく、伸二と奈保子に可愛がられようとすることはなかったが、
働き者で余計な口出しをせず、奈保子の家事に感謝をしていたので、同居は上手くいっていたようだ。
しばらく大人四人で落ち着いた生活が続けられていた。
そのバランスを打ち破るのが赤ん坊だ。
春に生まれ、『桜子』と命名された彼女は、静かな毎日をたちまち喧噪な状況へと変えていく。
看護師としてハードワークではあったが、なんとか出産満期まで真琴は元気よく働くことが出来、安産であった。
その安穏とした妊娠生活に油断をしていたのかもしれない。
桜子はよく乳を飲みよく泣いて暴れた。
産後二か月弱で復帰を果たした真琴も、この夜泣きにはまいってしまった。
勿論、修一もこたえた。
昼間は奈保子が桜子の面倒を見ているので、問題はないのだが夜泣きがひどく、労働で疲れた体を休めることが厳しかった。
夜中に泣き始めた桜子を抱き、真琴はぼんやりとした頭で
半べそをかきながら庭へ出た。
今夜は修一は夜勤でいない。
それがせめてもの救いだろうかとぐずる桜子を揺する。
実際に桜子の夜泣きは、大地を揺るがすような、ひどいものではなかったが、修一と真琴にとって相当の騒音だった。
同じ住いの伸二と奈保子には『また泣いてるのね』という程度のものだ。
集合住宅じゃなくて良かったと思いながら、揺する手を停めると、
桜子は「あああーんんんー」とぐずりだし、慌てて真琴は「よしよし」と、左右に揺すった。
途方に暮れていると、つつーとサッシが空き「あれ、真琴さん。どうしたの?」と、伸二が立って声を掛けた。
「あ、お義父さん、すみません。起こしてしまって、桜子が……、寝てくれなくて……」
「んん?どれ、じいちゃんとこ来てごらん」
言われるままに真琴はつかれた腕を差し出して、桜子を渡す。
「桜子ぉー?じいちゃんがわかるかあ?いいこだなあ。かわいいなあ」
「あむぅ、むむぅ、あーあー」
「ほう、よく話すなあ。あーあ、うーう。むーむ」
伸二は桜子の音を真似て返す。
「あうーう、あむぅ……。……」
しばらくすると桜子は寝息を立て始めた。
「えっ、寝たんですか」
「しぃー。寝たみたいだよ。ほら」
伸二が差し出すと、真琴は思わず両手を振って「また、起きたら……」と不安げな顔をした。
「大丈夫だよ、ほら」
「は、はい」
そっと柔らかい桜子を抱き、すぅーっと言う寝息を聞き、真琴は安堵で涙をこぼした。
「お義父さん、ありがとうございます」
「いやいや。星奈も結構ぐずりでなあ。俺が寝かしつけてたんだ。
また困ったら桜子連れておいで。もう定年して俺も暇だしなあ」
伸二は定年退職をして、なんとなく家と公園をぶらつき、庭を少しいじる毎日だった。
暇なのでアルバイトでもしようかと考えているところだ。
「また、夜、お願いしてもいいでしょうか」
「いいよー。真琴さんも早く寝なさい。あんたは丈夫そうだけど寝不足じゃ疲れちゃうよ」
のほほんと部屋に戻る伸二の後姿を見ながら、真琴は産後、初めてほっとした。
女の子だ。
二人は結婚後すぐに片桐家で生活をし、奈保子が相変わらず生活の面倒を見ていた。
つまり真琴と星奈が入れ替わっただけだ。
真琴はあまり社交性はなく、伸二と奈保子に可愛がられようとすることはなかったが、
働き者で余計な口出しをせず、奈保子の家事に感謝をしていたので、同居は上手くいっていたようだ。
しばらく大人四人で落ち着いた生活が続けられていた。
そのバランスを打ち破るのが赤ん坊だ。
春に生まれ、『桜子』と命名された彼女は、静かな毎日をたちまち喧噪な状況へと変えていく。
看護師としてハードワークではあったが、なんとか出産満期まで真琴は元気よく働くことが出来、安産であった。
その安穏とした妊娠生活に油断をしていたのかもしれない。
桜子はよく乳を飲みよく泣いて暴れた。
産後二か月弱で復帰を果たした真琴も、この夜泣きにはまいってしまった。
勿論、修一もこたえた。
昼間は奈保子が桜子の面倒を見ているので、問題はないのだが夜泣きがひどく、労働で疲れた体を休めることが厳しかった。
夜中に泣き始めた桜子を抱き、真琴はぼんやりとした頭で
半べそをかきながら庭へ出た。
今夜は修一は夜勤でいない。
それがせめてもの救いだろうかとぐずる桜子を揺する。
実際に桜子の夜泣きは、大地を揺るがすような、ひどいものではなかったが、修一と真琴にとって相当の騒音だった。
同じ住いの伸二と奈保子には『また泣いてるのね』という程度のものだ。
集合住宅じゃなくて良かったと思いながら、揺する手を停めると、
桜子は「あああーんんんー」とぐずりだし、慌てて真琴は「よしよし」と、左右に揺すった。
途方に暮れていると、つつーとサッシが空き「あれ、真琴さん。どうしたの?」と、伸二が立って声を掛けた。
「あ、お義父さん、すみません。起こしてしまって、桜子が……、寝てくれなくて……」
「んん?どれ、じいちゃんとこ来てごらん」
言われるままに真琴はつかれた腕を差し出して、桜子を渡す。
「桜子ぉー?じいちゃんがわかるかあ?いいこだなあ。かわいいなあ」
「あむぅ、むむぅ、あーあー」
「ほう、よく話すなあ。あーあ、うーう。むーむ」
伸二は桜子の音を真似て返す。
「あうーう、あむぅ……。……」
しばらくすると桜子は寝息を立て始めた。
「えっ、寝たんですか」
「しぃー。寝たみたいだよ。ほら」
伸二が差し出すと、真琴は思わず両手を振って「また、起きたら……」と不安げな顔をした。
「大丈夫だよ、ほら」
「は、はい」
そっと柔らかい桜子を抱き、すぅーっと言う寝息を聞き、真琴は安堵で涙をこぼした。
「お義父さん、ありがとうございます」
「いやいや。星奈も結構ぐずりでなあ。俺が寝かしつけてたんだ。
また困ったら桜子連れておいで。もう定年して俺も暇だしなあ」
伸二は定年退職をして、なんとなく家と公園をぶらつき、庭を少しいじる毎日だった。
暇なのでアルバイトでもしようかと考えているところだ。
「また、夜、お願いしてもいいでしょうか」
「いいよー。真琴さんも早く寝なさい。あんたは丈夫そうだけど寝不足じゃ疲れちゃうよ」
のほほんと部屋に戻る伸二の後姿を見ながら、真琴は産後、初めてほっとした。
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