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月に水まんじゅう

萩原 歓

37 星奈の独立・2

 アパートは保育園から歩いて二十分のところで、近くに神社があり静かなところだ。
多少古いが家賃も手ごろで、台所と別に二部屋あり、なかなか一人で使う分には広い。


 実家で使っていたものを、ほとんどここに持ち込んだ。
星奈は料理とネットゲームをする以外には、特に趣味らしいものがなかったので荷物は少ない。
洋服も靴も、同世代の中では少ない方だろう。
本も漫画もあまり読まず、部屋を眺めて、自分の趣味らしいものが
全くないことに気づいた。(なんか女子らしくないなあ)


 料理することが趣味と実益を兼ねたもので、恐らく仕事にしなければ
趣味は料理です、と答えることになるのだろう。(何か始めるかな)
 一人暮らしだと、今まで奈保子にやってもらっていたことを、自分でやるため忙しくなるかもしれない反面、
家族との会話や憩いの時間が減るので、暇になるかもしれない。


 ふと、月姫は自分と会っていない時には何をしているのだろうか、と気になった。
彼の部屋も、こざっぱりとしてあまり『物』はなさそうだ。
パソコンが必需品だとは言っていたが、星奈にはネットゲームをする以外、
調べものを少しするくらいしか活用していなかった。


 二人で一緒に暮らすなら、何か一緒したいと思った自分に、ハッとする。
この一人暮らしは、月姫との生活への予行演習でもあった。
頭の中で、二人が生活していることをシミュレーションしてみる。
 二人で出勤して、帰宅し、食事をして就寝。
今までと何ら変わらない行動だが、きっと相手が月姫であることが大事なのだと思う。
しかし飽きないものなのだろうか。
ずっと同じことを同じようにする。
同じ相手と。
星奈は飽き性ではないのできっと続けられる実感があった。
月姫はどうだろう?


 父と母のことを考える。
 奈保子は同じ毎日が嫌ではなかったのだろうか。
毎日、毎月、毎年変化の速い世の中に、流されず家に根を下ろし
木陰の様な憩いの場を作り続けてくれていた母のことを思うと、 星奈は感謝の念が絶えない。
 一人になって、初めて母のありがたみを知れたことだけでも、独立した甲斐があったと思った。


 一番よくいる場所、台所に立つ。
初めて星奈一人で使う厨房だ。
そう思ったとき独立の実感が強く沸く。
自分だけの食器が入った棚を眺める。(そうだ)
 今度、星奈は月姫と使う食器を揃えたいと、思いついた。
おかげで楽しい新生活が送れることだろう。
張り切って、残りの荷解きを始めた。

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