月に水まんじゅう

萩原 歓

14 リアル月姫

「どうだったの?」
 名古屋まつりに月姫と行ったあと、美優に報告をする。
「楽しかったよ。合戦が面白くてさあ」
「そうじゃなくてっ!」
 美優の聞きたいことは分かっている。月姫がどういう人間か、また星奈がどう思ったのか、が聞きたいのだ。
「なんか草食っぽい感じで優しい人だったよ。身長が同じくらいでさ、ずっと知ってる従姉みたいな感じだった」
「ふーん……。で?」
「でって……」
「付き合ったりしないの?」
「うーん。相手はまた遊ぼうって言ってくれたけど」
「星奈の気持ちはどうなのよ」
「ちょっとドキドキしたかな。まだわかんない」
「そっか。ブラコンの星奈にも、ついに彼氏ができたと思ったけどな」
 美優の鋭い突っ込みに、ドキリとした。星奈は単に人よりも恋愛感情が希薄なだけだ、と自分で思っていた。
 しかし美優の言葉で、自分はずっと兄の修一を追いかけてきたことに、改めて気が付いた。そういえばネットゲームで好きになったミストは、どことなく優しくてなんでも知っている修一にキャラクターが、かぶる気がする。 
 ただその恋愛感情は代替品でしかなかった。ミストは魅力的だったが大人の男過ぎた。
夜空を見たときに、時たま見える星なのだ。
「美優。でも、なんかさ。お兄ちゃんから卒業できそうな気がするんだ」
「おおー!いいじゃん!今はそれで十分だね」
 美優は、ぱっと顔を明るく輝かせた。(美優。綺麗になった)
 星奈も美優も食品を扱うため、お揃いのように髪はショートで化粧っ気もない。それでも美優は和弘と付き合い始めてから、志を持った少女から、しなやかな女性へと変貌を遂げているように思える。
「ありがと」
二人はグラスをチンと鳴らして乾杯した。


 月姫のことを想うと、胸が高鳴るのを感じる。会ったとき、ゲームの中のキャラクターとそんなに違和感がなかった。
 卵型の白い滑らかな肌に、中性的な細い肢体。色素の薄い茶色い髪と、奥二重の優しい黒い目。
シャツにジーンズだったが、白い月姫のローブを着せても似合うだろう。
 ただ声は柔らかいが異性のものだった。そして細くても、喉ぼとけと肩に男らしさを感じた。
混雑した祭りの中で、星奈は月姫に身体を預けることがあったが、全く不快感はなかった。
友人の和弘ですら、近寄らせたことも近寄ったこともないパーソナル領域を月姫とは簡単に超えられた。
 男なのに、異性なのに、全くその日から馴染んでしまうほど、月姫の存在は星奈にとってナチュラルだった。 

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