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月に水まんじゅう

萩原 歓

11 調理師専門学校

 高校を卒業すると、予定通り星奈は地元の調理師専門学校に入学し、親友の新田美優は京都の製菓専門学校へ行った。


「なんで和菓子なの?洋菓子じゃダメ?」
「洋菓子も美味しいし可愛いけどさあ。なんか和菓子のほうが深いじゃん」
「そう?」
「たんに好みなんだろうけど。和菓子ってさ。大きいのないじゃん。デコレーションケーキも可愛いけど、あたしは手の中にちょこんと宝石みたいなお菓子があるのが好きなんだ」
「そういわれてみたらそうだねえ」
 美優は自分の宝物でもある様に、空っぽの掌を見つめていた。彼女は狭く専門的な追及をしていくのだろう。同じ歳なのに美優が大人びて見えた。
 星奈は、選択を自分でしてきたが、志があるとは言えなかった。
兄の修一はまだ大学生だが将来、小児科医を目指すらしい。
 生きる目標を持つことと、生きる術を知っていることは違っていて、星奈は後者だと感じる。
周囲を見回して、どう立ち振る舞えばよいか、どうすれば摩擦が少ないか、そして自立することが出来るか、に重点を置いて彼女は過ごしてきた。
しかしまだ生きる意味や目標はなく、やりがいや達成感を感じることもなかった。
 もしも特別な才能があれば、人よりも秀でた何かがあれば、違っていたのかもと思うことはあるが、あっても何も変わらないのだろうと薄青い空を見上げた。

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